第39話 「リオウ」
知実さんと一緒にコーヒーを飲む。
話題がないので知実さん任せにしていると、知実さんはさっきの話の続きをした。
「で、そのバンシー・クレイアの犯行動機……スピリチュアルな言い方をすると執念、となるかな。それはどこにあったか、なんだが」
その話を続けるのか、と眉をひそめたが、話を聞くだけ聞くことにした。
「どうも、キナ臭いんだよな。ある男への復讐だと聞いた」
「暗殺者が復讐か」
まあ、珍しいことでもないだろう。
「しかも[殺刃鬼]絡みらしい」
コーヒーを噴くかと思った。
「[殺刃鬼]? [殺刃鬼]に家族を殺されたとかか?」
「それくらいなら、同じ裏に生きる者同士だ。あっても仕方ないだろう。問題は、ローザが誰の子どもかというところにある」
「バンシーさんじゃないのか?」
「甥よ、そんな戯れ言を私が問題にするわけないだろう」
それはまあ、そうだ。考えが浅かった。
本命を考える。
「つまりは父親の話?」
「さすが。飲み込みが早くて助かる」
褒められるほどのことではない。少し考えればわかるのだ。母でなければ、父だろう。
「で、その父親なんだが。バンシーとは籍を入れていなかったらしい。ローザができるなり逃げたとか」
「クズかよ」
知実さんが肩を竦める。
「らしいな。他に何人も女を引っかけていたらしい。バンシーはそいつが逃げてから、その女癖の悪さを知り、失意に陥った、というのがバンシーの知り合いの話だ。
それからは子育てで苦労したらしいな」
どこかで聞いたような話だ。
「それで? そのクズがまさか[殺刃鬼]?」
「まさか。ただ、[殺刃鬼]とバンシーに因縁がありそうだ、と思ったのは、ローザの死因にある」
ローザ……[憑依霊]の死因はまだ聞いていなかったな、と思い、先程の新聞にふと目をやった。
そこで瞠目した。
「気づいたか」
知実さんが溜め息を吐く。
その記事にはローザ・クレイアの死因がこう書かれていた。「刃物のようなもので切り裂かれた」と。
これは。
「[殺刃鬼]の犯行か」
「ああ。黒い羽根も落ちていたそうだ。間違いないだろう」
「その黒い羽根は?」
興味本位で聞いてみると、知実さんは肩を竦め、溜め息を吐く。
「私も興味はあったのだが。触れると消えるらしい」
そんなファンタジー仕様だったのか。
いや、そもそも超能力というのがファンタジーだからそこは突っ込んではいけないのか。
いや、まず、注目すべきは。
「それも[殺刃鬼]の能力によるものってことか」
「だろうな。成分解析とかしてみたかったんだが」
触れたら消えるのでは仕方がない。……ん?
「ピンセットとか、手袋とかじゃ駄目なの?」
「事件現場の証拠品に素手で触る馬鹿があるか」
それもそうだ。刑事もので警官がよく手袋をしているが、それは余計な指紋をつけないためだったはず。
「手袋はともかく、ピンセットも駄目、と」
「能力者が触ったら違うのかもしれないが」
ううむ。さすが正体不明の暗殺者。簡単に尻尾を掴ませないか。
「ん、でも、新しい見解だな。もしかしたら[殺刃鬼]を探し出すことができるかもしれない」
俺の進言が思いもかけず、頼りになったらしい。[殺刃鬼]は得体が知れないから、少しでも見つけ出す手がかりはあった方がいいだろう。
「そういえば、バンシーが娘を使ってまで復讐したかった相手の手がかりは?」
すると、知実さんは唸った後、こう告げた。
「リオウ」
「えっ」
「……クレイアの家を調べて出てきた怪しい名前だ。親戚でも友人でもない。ただ、バンシーと親しかった者たちからの証言に何度かリオウという名前が出ている。それだけが手がかりだ」
では何も難しいことはないのでは?
「名前はわかってるんでしょ?」
「名前しかわからんのだ。何人かもわからない」
そういえば、バンシーさんは何人なのだろう。
リオウ、か。まあ、覚えるだけ覚えておこう。
その名前の重要性を、俺はまだ理解していなかった。
第3章終わりです。
次章も乞うご期待。




