第32話 「さぁて、情報交換と行こうじゃないか」
「それは災難だったねぇ、五十嵐サン」
今は放課後ではない。昼休みである。だが、俺と五十嵐は当然であるかのように司書室に入って午後のティータイムに入っていた。
健一朗さんのところに来ると、自動的に紅茶が出てくるので仕方ない。超能力関係の話をカウンターでするわけにもいかないだろう。ただでさえ胡散臭い健一朗さんが割り増しで胡散臭くなるだけだ。
「咲原クン、今とても失礼なことを考えなかったかい?」
「なんのことですか?」
健一朗さんは肩を竦めた。何故俺の周りの能力なしはこういう勘ばかり鋭いのか、参ったものだ。
とりあえず、今朝の新聞記事の話をする。
「朝刊に出ていたあの三人は超能力者です。おそらく、犯行も超能力者によるものだと俺は考えます。健一朗さんの見解は?」
「同意だねぇ」
「ただ、こういう超能力がらみの事件って、普通はこういう新聞に載ったりしないはずですよね?」
「ああ、聞こえは悪いが裏社会の問題として扱われるね」
「では何故、今回は一般誌に載ったんでしょう?」
ふむ、と少し考える風を見せると、健一朗さんはすらすらと答えた。
「一つ、警察はこの殺人を超能力関係だと思っていない」
「そう思いますか?」
「思わないね」
「じゃあなんで言ったんですか」
「そう怖い目で見ない」
「前置きはいい。伏見氏はいいかもしれないが、我々には時間に限りがある。昼休み終了十分前までには終わらせたい」
「オーケーオーケー。真面目に話そう」
真面目じゃなかったのか。
俺たちのじと目はよそに、健一朗さんは朗らかに話す。
「端的に言うと、これは犯人からの挑戦状だね」
「挑戦状?」
「表沙汰になっても犯人の尻尾は掴めないってことさ。犯人は相当自信家だね」
自信家……そもそも、表沙汰にならないのは警察の手に負えないからだと思うのだが……
「健一朗さんの組織はそういう交渉をしているわけなんじゃないんですか?」
「そういう交渉というと?」
「警察に超能力関連の事件をマスコミにリークしないように、です」
健一朗さんは肩を竦めた。アメリカンなポーズでお手上げを示す。
「一見しただけじゃ、超能力がらみかどうか、見極めるのは難しいからねぇ。実際、昨日彼らに会っていなかったら、キミたちだって、この変死事件のことを普通の殺人事件だと思ったんじゃないかな?」
一理ある。三人のうち二人はカタギっぽくないが一人は俺が昨日勘違いした通り、サラリーマン風だ。一見して超能力者と見抜く方が難しい。
それは俺にも当てはまることだ。世間様から見た俺は一介の高校生にしか見えないだろう。初見で超能力者だと見破った五十嵐がおかしいだけである。
「それに、警察に協力してもらった方が、犯人は早く見つかる。そうして、その犯人が超能力者だった場合、うちで保護する。その方が効率的さ。ただ、警察にはまだ[超能力者]という概念が浸透していない。そもそも、超能力者は公にはいないとされているのだから、それも仕方ないことだろう」
確かに。自分が超能力者であることを知るまでは、俺にとっても超能力は物語の中の存在だった。
……五十嵐が何故超能力の存在を知っていたのかが気になるところだが。
健一朗さんが紅茶を一口飲む。それから俺を見て、首を傾げた。
「さぁて、情報交換と行こうじゃないか」
健一朗さんは話せることは話したと言わんばかりにそう告げた。胡散臭さは抜けないが、これ以上引き出せる情報はないのだろう。
情報交換、か。健一朗さんが知りたいとなると何だろう。普通に考えて、亡くなった男たちの能力だろうか。
いや、死人に用はないはずだ。となると生きている超能力者……この事件の犯人についてか。
推測はある。
「おそらく、[憑依霊]の仕業でしょう」
「[憑依霊]とは大物が出たねぇ。根拠は?」
「[殺刃鬼]なら、黒い羽根が現場に残るんでしょう? それに、発見されたのは刃物で切りつけられたものじゃない。変死とは色々な捉え方ができますが……[殺刃鬼]と考えるよりは、[憑依霊]の方が可能性は高いと思います」
「ふむ……確か、三人の死因は……」
「変死としか」
「まあ、[殺刃鬼]の犯行なら、そこまで曖昧な書き方はしないだろうねぇ。[殺刃鬼]の手口は単一、刃物のようなもので統一されている。それが能力なのか、[殺刃鬼]の信念なのかはわからないけどね」
健一朗さんは目で先を促す。どうも、俺に知っていることを全て吐き出させようとしているようだ。何故わかるのか。
隠すようなことでもないので言う。
「俺を昨日襲ってきたのはこの三人の他にもう一人いました。そいつが任務失敗のために口封じとしてそいつらを殺したと考えるのが妥当です」
「そいつが[憑依霊]と?」
「可能性はあります。俺も今朝、[憑依霊]に襲われましたから」
「なっ」
五十嵐が絶句する。そういえば話していなかったな。
「[憑依霊]は近くにいます。今日、佐竹に取り憑いて襲ってきたんです」
「佐竹って、あの佐竹か」
あれ以外にどんな佐竹がいるんだ。俺はあの佐竹しか知らんぞ。
「佐竹は超能力者じゃない。それが波長を操っていたし、俺の能力を避けていた。明らかに佐竹の反応じゃなかった」
「今までの佐竹クンが演技だという可能性は?」
健一朗さんもひどいことを言う。
「俺、泣きますよ?」
「おおっと」
「佐竹は小学校からの腐れ縁です。対して、[憑依霊]は最近この街に現れたと聞きます。それじゃあ、辻褄が合わないでしょう」
「それは確かに。加えて言うなら、[憑依霊]は世界をまたにかけて活躍する暗殺者だ。ただし、その能力は近くにいないと精度が発揮されない。腐れ縁ってくらいなら、その佐竹クンが海外旅行にでも行こうものなら嫌でも耳に入るだろうからね」
「世界をまたにかけてるんなら、佐竹はマルチリンガルでもおかしくないですし」
「英語の成績は鳴かず飛ばずらしいね」
「なんで健一朗さんがそんなことを知っているんですか」
「うん、気色の悪いものを見るような目はやめてくれるかな?」
健一朗さん、恐るべし。……と冗談はさておき。
「マルチリンガル、最近この街に来たやつ、か……」
この条件に合うやつの顔が頭をちらつく。信じたくない。
そう思っていると、予鈴が鳴った。俺は五十嵐と大わらわで教室に戻った。
健一朗さんが呟いた一言なんて、知らない。
「覚悟したまえ。現実とは残酷なものだよ」




