第86話
◆11 広井ほのり
ヤッコちゃんのお気に入りだという「鴨川シーワールド」で写真を撮り、私はハルくんと2人でタコせんべいを食べながらベンチに座っていた。
ハルくんが、30分でいいから私と2人きりになりたいと言い出したからだ。
突然のその発言にはみんなびっくりしていた。ヤッコちゃんが猛烈に怒っていたけれど、「たまにはデートごっこも良いんじゃない? ねえ斉藤くん」「そうですね。では、学、僕は本子さんと回りますから、蓮香さんをよろしくお願いします」という蓮香と純さんの発言をきっかけに、私たちは30分間、別行動をとることになったのだ。
ヤッコちゃんとヤッコちゃんのお母さん、本子ちゃんと純さん、蓮香と桐ちゃん、そして私とハルくんのペアだった。
私は必要以上にドキドキしてきてしまって、膝をすり合わせながら、ハルくんと他愛のない会話をしていた。
ときどきハルくんが私の話を聞いて顔をくしゃくしゃにして楽しそうに笑うものだから、思わずちょっとだけキュンとしてしまう。
学校や商店街など、日常的な場所で男の子と2人きりになっても、別になんともなかった。今までこんなことなかったのに、環境というのは不思議なものだ。「水族館」というちょっとロマンチックな場所に2人でいるなんて、まるで彼氏と彼女みたいだと思ってしまった。
意識をすればするほど、そう思えてきてしまって、頬が熱くなっていくのを感じていた。
ハルくんはただの友達だし、妹と同じ歳なんだから、変な風に見ちゃダメだ。
仮に、万が一、いや億が一、ハルくんに「彼女になってほしい」とか言われちゃったとしても、私は彼と付き合うことはできない。
相手がハルくんだからではない。学校の人とは恋人にはなれない。本当の年齢のことがあるからだ。恋人という関係の中で、年齢を隠しながら付き合っていくなんて、そんな強かな真似は私に務まらないだろう。
別行動の時間も残り15分になったとき、ハルくんが何かを決意したように膝の上で拳を固めて、真剣な顔つきで私を覗き込んだ。
私が“弟”のように見ていたハルくんは、いつもどこかヘラヘラしていた。けれど今のハルくんは、そのイメージと大きく異なった眼差しをしていて、まるで純さんみたいに格好良く、そして男らしく見えて、私は呼吸をすることも忘れてしまっていたのだ。
「ほ、ほのり……お前に受け取ってもらいたいものがある。ずっと言おうと思ってたんだけど、俺、お、お前のことが――」
う、うそ? これって……もしかして……。
もしかして、本当に本当の 「告白」 ってやつ……?
早鐘をうち始めた心臓。
穏やかな海のにおいが届いてくる中、私は指先まで震えてきそうな緊張に晒されていた。
受け取ってほしいものって、ひょっとして指輪とか――って、いやいやいや、まさか!
だってハルくんはまだ17歳だ。しかもお付き合いもしていないのにいきなり指輪は有り得ない。
で、でも、もしかしたら結婚を前提に付き合ってとか――いやいやいや、まさか!
「彼氏いない歴=年齢」の私がいきなりステップアップするわけがない。
止まらない自問自答を繰り広げながら、私はハルくんの言葉の続きを待った。




