第79話
は、はあ……!?
交換日記を掴む両手が震える。思わず叫んでしまいそうだったが、純が寝ているのを思い出し、喉まで出た声を飲み込んだ。
何考えてるんだ。学。お前が何を考えているのか分からない。
俺がほのりの日記帳を盗んだなんて有り得るわけがないだろう。どうして友達の日記帳をこの俺が、盗まなきゃいけないんだよ……!
お前だって、俺のこと、疑ってるじゃねえか……! 親友だと思ってたのによ、学!
段々腹が立ってきて、俺はもぞもぞと布団から這い上がり、近くの床に転がっていた筆箱からボールペンを取り出し、無言でそれを交換日記へ走らせた。
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学へ 8月21日
俺がほのりの日記帳を盗んだ証拠でもあるのか?
なんだよ、お前。そういうお前が盗んだじゃんないのか?
俺のリュックにあの日記帳を入れたのもお前かよ?
ペンギンのストラップを盗んだのもお前なのか?
俺は本当にお前を信じたかったのに、信じられなくなってきたよ。
ハルより
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学の布団に交換日記を放った。
俺と同じように、布団の中でスマホの明かりを利用して交換日記を読んでいる学。どんな表情でそれを見ているのか、俺には想像することもできなかった。
とにかく学のことで腹が立っている俺は、どくどくと脈打つ自分の鼓動の音に押しつぶされそうになりながら、彼の返事を待っていた。
返事を待っている間、学との楽しかった思い出がよみがえり、鼻の奥がツンと痺れた。
毛布と布団の隙間に平たいものが滑り込んでいる感覚がして、俺は上半身をバッと起き上がらせる。交換日記の返事だ。再び布団の中へもぐりこみ、ノートを開いた。
俺は驚愕した。
ノートが破られていたからだ。破られたというより、切り取られたに近い。俺の書いた第1回の日記と、そのすぐ下の第2回目の学の返事。そしてその裏のページの先ほど俺が書いた第3回目の日記が、綺麗に取られていて、交換日記は単なる白紙のノートと化してしまっていた。
直後、携帯のバイブレーションが振動する。メールだ。俺は表示された送信者の名前に息を飲み、メールを開いた。
2010.08.21 23:59
送信者:桐岡学
件名:
本文
ハル、リュックに日記帳が入ってたってどういうこと?その日記帳は、今はどうしたの?リュックにあったと知っているのにそれを広井さんに言わないのは、君が関与しているということだよね。やっぱり君は誰かの共犯なんじゃないの?そして全部を僕のせいにしようとしている。
それとペンギンのストラップも知らないよ。自分でなくしたのに、これも僕に罪を擦り付けようとしているの?君は本当に最悪な人だ~(>_<)
この日記のページは証拠として切り取らせていただきました。明日広井さんに見せます。ノートは君のものだから、お返しします(>_<)
「そ、そんな……」
俺は絶望していた。はめられた。そんな言葉が脳裏を渦巻く。
変だと思ったんだ。急にほのりの日記帳の話題を交換日記に書いてくるなんて。しかも俺が犯人だなんて。始めから俺から「リュックの日記帳」のことを聞きだすつもりだったのか?
それとも、本当に学は日記帳のことを何も知らなくて、俺を犯人だと疑っているのか?
「おい、おい……学……」
「さ、斉藤くんが起きるよ。もう寝なよ、ハル」
それを最後に、学が俺に返事をしてくれることはなかった。
俺はこいつに言い訳することができなかった。
ほのりの日記帳を捨てたのは、俺だ。どんな理由があったにしろ、その事実を、もみ消すことはできないのかもしれない。どんなに事実を曲げようとしても、事実は事実なのか。
明日俺は、みんなの責めるような視線を一斉にあびることになるだろう。
――まさかじぃちゃんが日記帳を持っているなんて。頭の中をかすりもしない期待だった。
俺は、日記帳を捨てたあの時の自分の行動を後悔しながら、ほのりに何度も、何度も、謝罪していた。




