第78話
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「さ、作戦……失敗だったね。線香花火対決……」
「ああ……お前のせいでな」
散々だった。
上手くいくと思ったのに。学が不器用すぎるせいで、勝負が3秒と続かずに変な空気で終わっていくとは、想像がつかなかった。それも5回も連続で。結局、対決は、学に「どうすれば線香花火が長続きするか」というレクチャーの会に変わっていったのだった。なんなのだろうこの時間は。本子と純に気まずい思い出を作っただけになってしまった俺は、申し訳なくて、言葉の一つも出て来やしなかった。
項垂れていた俺に、学が気まずそうに頬を掻く。
まあ、そんなものですよ。純が俺と学の間に突然、にゅっ、と顔をだしてきたものだから、俺たちは吃驚して、ひっ! と身体をのけぞらせてしまった。
純、いつの間に!
本子を送り届けろと俺が指示して、純はついさっき家を出て行ったのに――。
「じ、じ、じ、純! 本子をお婆ちゃん家まで送り届けたんじゃなかったのかよ!」
「ええ。送り届けましたよ。隣の家までね。それで戻ってきたところですが」
じーっと見つめられ、冷や汗が流れ出た。まずいぞ、疑われている。俺が本子と純をくっつけようとしていたことを。
正直に謝った方がいいのか? だって、純は、本子が純に惚れていることを知っているわけだし。本子の気持ちは、席替えのときに蓮香にクラスの前で暴露されたわけだからな。
純は顔にらくがきをされたときも笑っていたけど、心の中はものすごーく怒っているのが伝わってきて、一言で言えば、怖かった。絶対、敵には回したくないタイプだ。
俺と学を交互に見やっている純。学が余計なことを言う前に俺は口を開いた。
「わ、悪かったよ。無理やり本子とお前をくっつけようっていうのは思ってなかったんだよ。ただ、お前ら、お、お似合いかなーって、は、ははははは。ひと夏の恋を見届けたいといいますか、ほら、本子ってああ見えて責任感もあって良いやつだし、純さんにぴったりかと、それにそれに、線香花火も幻想的でして、おほほほほ、ねえ、学ちゃん」
途中までなんとか言い訳をしてみたものの、最終的にどこへゴールしたいのか分からなくなってしまい、抱えた爆弾を学に丸投げした。なんだよ線香花火も幻想的でして、って。
学は素っ頓狂な声をだして俺に投げられた爆弾の処理に困っていたようだけど、純が横からお許しを出したおかげで、なんとか難を逃れていたようだった。
「いいんですよ。もう。分かっていますから。しかし今後は、こういうことはしないで下さい」
「ごめんな。他人の恋路に首突っ込んで」
「ええ。いいですよ」
そういえば、純は、好きな人がいるか尋ねた時に、曖昧な答えを返してきたことがあった。あまり答えたくないような口ぶりだった。
一方で、ラムネを飲んでいる時に語ったエッチの回数は10人くらいしたことがあると教えてくれて、それはモテモテの純にしては少なそうで、俺たちからしたらかなり多い、絶妙な回答を貰ったのを覚えている。
好きな人のことを濁したのは、最初は恥ずかしいからだと思ったけれど、どうもそういうわけでもないらしい。そこを恥ずかしがる人物が、エッチの回数だけ平然と教えるというのは、些か首を捻りたくなるからだ。
それに純は人間と深く付き合うことを好かない男なのかもしれない。あの時折見せる表面的な優しさから察することができる。もしかしたら女性を本気で好きになったこともないのかも。
俺の元彼女のビッチな先輩も、エッチだけはするけど人を好きになったことがない女だった。そういうやつは、存在するのだ。
純がそういうやつだとしたら、良い女性を見つけて、人を好きになることを学んでほしいと俺は思う。
「僕は……これでも一応、人間です。愛する女性は、自分で決められますから」
純の紅い瞳が美しく輝いていた、ように見えた。
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「これ、交換日記……返事書くの遅くなってごめんね」
吉祥寺の家からわざわざ自分の枕を持ってきたという純が爆睡している間、隣で布団によこになっていた学が、俺の布団の中へ、一冊のノートをすべり込ませてきた。
どきり、と心臓が跳ね上がる。
ついにこの時がきた。ずっと待っていたんだ。学から返事をもらえるときを。なかなかこないから、返事を書きたくないのかと思って密かにひやひやしていたのだ。でも、勘違いだったみたいで、俺は胸を撫で下ろしていた。
隣の女子部屋で、寝ているであろうほのりたちを起こさないように、声をすぼめて礼を言った。
なんてことが書いてあるのだろう。
布団に潜り、携帯の明かりをともして俺は無造作に交換日記のページを捲った。
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学へ 8月16日
交換日記1ページ目ですね。色んな言いづらいこととか、この日記に書いてくれると嬉しい。
今日は、ヤッコのことで色々傷つけてごめん。セミ取りとか厳しくして。
本題だけど。この前の定期試験のとき、お前が携帯を触っていたの、誰にも言ってない。
俺はお前を信じたいんだ。
あれから俺たちの間で定期試験の話題はタブーになった。だから聞くことができなかった。お前があのときなにをしていたのか。
俺はお前の親友として、はっきりしておきたい。あのとき何をしていた。お前の口からいってもらいたいんだ。
頼むよ、学。
ハルより
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ハルへ 8月21日
その言い方が既に僕のこと疑ってるよ。
あと広井さんの日記帳盗んだのハルだよね。
僕だけには真実を教えてほしい。
学より
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