外の知識
この国は、完全な鎖国状態にある。
空に見える膜は、この国を覆い隠して、すべてを遮断している。
いつからあるのか、どのような原理なのか、全てが不明なそれは、ただ厳然たる事実として、そこに存在をしている。
教会は神の守りなどと宣伝して、多くの国民がそれを信じている。だけど、俺には牢獄のようにしか感じられない。超常の現象であることは認めるけど。
だいたい、教会は外を不浄な地として扱ってる割に、外の知識を独占して利用している。しかも、その目的がお金や権力を得ることだから、腐ってる。まー、普通の人は知らないからなー。
「村長さんは教会のことを知っているんですか?」
教会の裏の顔を知っているかと暗に聞いてみると、少し呆れた顔になりながら頷いた。
「村長という立場柄、教会の上位に立つ方と面識はあるんだが……」
お金をふんだんに使った豪華な部屋に装飾。
権力とお金を得ることに必死な様相。
語ってくれた内容は、俺と同じ感想だ。
「色々と失望はしたが、それよりガラスを見たときの衝撃は忘れられないかな」
「ガラス?」
「バルト君は教会の最奥部に入ったことがあるよね。それなら、透明な板を見ただろう?」
俺は頷きながら、神官が誇らしげに神の祝福によるものだと言っていたのを思い出した。光を取り込んで、キラキラと輝く様相はとても神秘的だった。
「あれは、神の力でもなんでもない。人の技術が生み出した物だよ」
「えっ!!」
驚きとともに納得もする。というより、何で神官の説明を信じたんだろう?
そのときには、教会が外の知識を独占してることに気づいてたのに。
「隠されてことを知るのは難しい。でも、良く見て自分なりに考えるんだよ」
俺はしっかりと頷く。
「ただ、疑いすぎてもだめだ。信じることも大事だからね」
「難しい……」
村長さんは笑いながら、暖かな空気をもって僕を包んだ。
「村長さんは、どうやって外の知識を知ったの?」
水車といい、ガラスといい、普通は知らない。
旅をしていても、外の知識が入ってくることは無かった。
「前の村長から口伝で引き継いだんだよ」
ただ、その知識は活用できないらしい。
教会に異端とされ、村ごと排除されかねないから。
「それで、バルト君にお願いがあるんだけど……」
村長さんのお願いは、水車の知識を広めてくれというものだった。
干ばつが酷く水車を作ったが、異端のものとされる可能性がある。だけど、多くの人がその知識を知ってしまえば、教会も取り締まることが出来なくなるだろうとの判断だ。
「取りあえずは、付近の村と協力して作ったことにするが、教会がどこまで外の知識を得ているか分からないからね」
「分かりました。あの……、僕もお願いがあるんですけど」
「なんだい?」
「その、外のことで知ってることを教えて貰えませんか?」
「いいよ。でも、内緒だからね」
村長さんはイタズラをするかのような顔で笑った。