村での休息1
空が茜色に染まり、刺すような日差しが柔らかくなった頃、俺たちは村へ到着した。
野宿を覚悟していたから、押さえることが出来ない喜びが内から溢れる。
「あにき……じゃない、キールさん、本当にありがとうございました」
「気にすんな。てか、兄貴ってなんだよ」
そこは乾いた笑いでごまかす。
「えーっと、宿はどこになりますか?」
「あー、この村には無いなー」
キールの兄貴の言葉に、体全体がピシッと固まる。
村まで来て野宿とか!?
絶望に打ち拉がれていると、辺りに笑い声が響いた。
見るとキールの兄貴が腹を抱えて笑ってる。しかも苦しそうな域に達している。
「ちょっ、酷いですよ!!」
「わっ、わりー、ヒッ」
止まらないらしい……。
非難の視線を送ると、ブハッと堪えきりない感じで笑われた。
「なんでさ!?」
今のは笑うとこじゃないよね?
逆でしょ。笑っちゃダメでしょ。
「はーっ、バルトって表情がコロコロ変わって面白いなー」
「いやいや、何で非難の視線で笑うんですか」
「はっ? 非難の視線?」
あれ?
全く通じてなかった?
「頬をプクッと膨らませて、ふて腐れた感じにしかなってなかったぞ? かわいさ満点だな」
またしても、キールの兄貴の言葉で固まる。
何かを言おうとした口が、言葉を紡ぐこと無く、パクパクする。
「まあ、落ち着けって。そうそう、村長のとこに、商人とかが泊まる場所があるから」
悪びれる感じも無く、普通に話すとこが、また憎らしい……。
太陽がその役割を終えた頃、俺は村長宅で夕飯をご馳走になった。
ご飯と山菜だけだったが、どれも美味しかった。
「お口に合いましたかな? 教会があるような大きな町には、比べものにならないでしょうが」
「いえ、凄く美味しかったです。大きな町では、料理の種類が多くなりますが、一つ一つは、ここの料理の方がずっと美味しいです」
「それは良かった」
今までも、大きな町より小さな村の方が、食べ物が美味しかった。
同じ物を使ってるように思うんだけど……。
「やっぱり、鮮度かな?」
採れたては、そのままでも美味しいしな。
ふと、村長さんが俺を見てることに気づいた。やべっ、忘れてた……。
「すみません。考え込んでしまって」
村長さんは気分を害した様子もなく、顔の皺を深く刻んでニコニコとしている。
「本心で言われると嬉しいのう」
「本心?」
「いや、最初は世辞かと思っての」
「お世辞じゃないですよ。本当に美味しかったです」
「もう、疑っておらんよ。バルト君の素直な心は、心地良いの」
素直な心……。
教会のお偉いさん達とのやり取りを繰り返す中で、黒く汚く嘘で塗りつぶしてきた。
「もう、汚いと思ってたけど」
「いや、綺麗じゃよ」
ボソッと呟いた独り言に答えが返り、ビクッと体が反応する。
村長さんは相変わらず、ニコニコしながら俺を見てる。
うわー。ハズい……。
熱くなった顔を上げてられず、俯くと村長さんから追い打ちの笑い声が掛かる。
俺は限界まで、頭を垂れることになった。