村への旅路
ガタガタとなる荷車の音を聞きながら、馬の手綱をなんとなしに手繰る。
真上から降り注ぐ日の光は、容赦なく照りつけ、タグ村への行程を阻む。
「それにしても、暑い……」
周りを見渡せば、草も元気がなく、しんなりしている。
土はひび割れ、草木にとっても過酷な状況のようだ。
「無駄に暑い……」
愚痴をこぼしながら、額から流れ落ちる汗を袖で拭う。
その瞬間、後ろからバキッと不穏な音が、街道に響く。
バランスが崩れたことに驚いた馬が、大きく嘶く。
慌てて手綱を引くと、落ち着かせるように声をかける。
「どうどう。大丈夫だ」
馬車を止め、後ろを確認すると、片側の車輪が大きく斜めに傾いていた。
「あー、車軸が逝ったか……」
身震いする馬を見ながら、ただただ途方に暮れた。
「旨い。塩加減が絶妙だな」
おにぎりに齧り付いて、俺は舌鼓を打つ。
「お茶が無いのが残念だ」
俺は、おにぎりには、お茶派だ。もちろん緑茶。
お米を食べた後のお茶は正義だと思うね。
水派とは相容れられない仲だ。今は水だけど……。
水を飲みながら現実逃避をしていると、街道脇の草木をかき分けて、青年が姿を現した。
「こんな所で、どうしたんだ?」
こんがりと日焼けした青年が、不思議そうに声を掛けてきた。
確かにここは、水辺でもなく休憩をするにしても不便な場所だからな。
「馬車の車軸が折れてしまって」
「どれ? あー、確かに」
青年は背負っていた大きな籠を降ろすと、曲がった車輪をのぞき込み見始めた。
ふと、置かれた籠の中を見てみると、山菜が底に幾ばくか入っているだけだった。
やはり、この気候が原因なのだろう。
うーん? やっぱり村の仕事は、水汲みかな。
あれは辛いんだよなー。獣道を歩かなきゃいけないし、重いし、暑いし……。
「……おうか?」
「はい?」
考え込んでて、人が居るのを忘れてた……。
「だから、手伝おうか? 車軸の応急手当をするんだろ」
「いいんですか!?」
喜びより驚きに支配され、とっさに確認してしまう。
壊れる箇所だから、簡易な修理道具も用意してある。後で自分でやるつもりだったけど。
だけど一人でやるのは辛い。おにぎりに逃げる位には。
「かまわないよ。ただ、そうだな。村まで送ってもらおうかな」
兄貴!! これはもう、兄貴と呼ぶしか!!
「へー、バルトは教会を巡りながら、世界中を旅してるのかー」
キールの兄貴は、荷車に腰を降ろして寛いでいる。
一緒にというか、やたら手慣れた兄貴の手腕で荷馬車を直し、村へ向かっている途中だ。
ホントにもう、存分に寛いでください。
「旅って大変そうだな?」
「確かに大変ですけど、色んなものが見られるので楽しいですよ」
こないだも、人型の豚を見たし……。
そんなことを思ってると、兄貴は荷車の縁に寄りかかっていた体を起こし、俺を見るとニッと笑った。
「なら、村で珍しいもんが見られるぜ。丁度、出来上がる頃だしな」
「そんなに珍しいんですか?」
「まー、旅してるお前は見たことがあるかもしれないな。ただ、ここら辺の村にはないぞ」
「じゃあ、凄く期待してますね」
キールの兄貴も言った通り、俺は数多くの村や町を見て回ってるから、見たことはあるだろうけど。
「ははっ、そんなに期待されてもなー。でもまー、知ってても組み立てから見られるから、それなりに楽しいかもな」
それは嬉しい!!
物を創る仕事は携われないからなー。技術も無いし、一カ所に長く留まれないから、雑用的なことしか出来ないからな。
兄貴との心地良い会話をしながら、タグ村への行程を楽しんだ。