表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の境界  作者: よし
閉ざされた世界
1/9

プロローグ


 左手の人差し指に、そっと小刀を当てると、指先にプクッと赤い球体が現れる。

 忌々しく自らの血を眺めると、思いを断ち切るかのように、腕を振り抜く。

 それは、勢いに耐えきれずに、いくつもの細かな欠片となって飛び散った。


 無数となった血液は、床に染みこむことをせずに、小さな固体となって転がる。

 勢いを失って動きを止めると、淡い光を放ち始め、視界を白に染め上げた。


 一瞬の白い世界が終わると、何事も無かったかのように、ただ静寂が広がる。ここに在る光は、透明な板から差し込む日の光だけ。

 光に手を伸ばせば、板に阻まれ拒絶される。


 「この世界と同じ……」


 頭を振って、気持ちを吐き捨てるように振り返ると、その勢いのまま出口へ向かった。





「さすがですな。建物全体が輝きを取り戻しました」


 神殿を出るとすぐに、白を基調とした服を纏った豚。

 もとい、神官が横柄な態度で話しかけてきた。

 見下しながらの丁寧語? 器用な技を習得しているんだなーと思いつつ。


「ありがとうございます。ただ、私はきっかけに過ぎません。神官様の日頃の弛まぬご尽力のおかげでしょう」


 俺も、『偉い人は適当に褒めてやり過ごせ』スキルを発動させる。


「そうだな。しかし、神殿を敬うのは当たり前だと言うのに、献金を渋る者が……」


 さらに、スルースキル『曖昧な笑顔で頷いて話しを聞き流す』を重ねがける。





「我々神官が居なければ、この町も立ちゆかなく……」


「神官様。申し訳ありませんが、そろそろ次の神殿へ向かわなければなりませんので。それに、神官様の貴重なお時間をこれ以上私などに使われるのは、この町にとっても大きな損失になってしまわれます」


「ふむ。そうか」


 豚は、まんざらでもなさそうな顔で、頬の肉を揺らしながら頷く。

 嫌悪感が止めどなく溢れてくるが、根性で押さえ込む。


「では、本日はありがとうございました」


 俺は、頭を下げて挨拶をすると、今度こそ神殿を後にした。


「危うく顔が崩れるところだったなー」


 引きつりそうになった頬を撫でながら呟いた。





「すいません!! 馬車を預けていたバルトです。引き取りにきました」


「はいよ。銅貨10枚な」


「はっ? それは、いくら何でも」


 相場は銅貨3枚のはずだ。あまりのぼったくりに呆れてしまう。


「じゃあ、7枚でいい」


「いいって……、それでも高いよ!!」


 馬小屋のおっちゃんは困った顔になったが、俺も困る。


「そうなんだが、どうしようもなくてな」


 おっちゃんによると、国に納める税金の他に、この町の神殿にもお金を納めないといけないらしい。

 そうしないと、異教徒扱いされるとか……。

 何やってんだ!! あの豚!!

 しかたないので、渋々お金を払う。


「すまんな」


 おっちゃんは、本当に申し訳なさそうな顔をしてるから、怒るに怒れないし。

 神殿のある町に行ったら、事前に金額を聞かないとダメか。





「それにしても、金が無い」


 神殿での役割を果たすことで、幾ばくかは貰えるものの。

 ここの豚は、はした金しかよこさなかった。


「本来なら、この町で少し稼いでからがいいんだが……」


 嫌だな。

 あの豚の影響力が大きいこの町には、居たくない。


「取りあえず、保存食があるから、もう少しは大丈夫かな。次のタグ村で働けばいいし」


 ただ、小さな村だから仕事があるかが多分に不安だが。


「まあ、どうにかなるだろ」


 空を見上げると、今日も変わらずに、淡い膜が世界を覆っていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ