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酒盛りの夜


林田健二曰く「かっこいい」、柏木マネ曰く「夢と打算で生きているうちの一人」であるところの木村初音は、静かに酔っ払っていた。そして絡んでいた。小さな侍に。

「若ければいいってものじゃないでしょう。なんで男っていつもいつもいつも若い女に鼻の下を伸ばすのよ、その前に自分の腹を引っ込めてみなさいよ」

「わしはそんな事、一言もいっておらんし、わしの腹はへこんでおるわ」

初音の向かい、コタツの上にちょこなんと座っている直隆も静かに応ずる。二人はなぜか正座で、室内の温度は暖房をつけているにも拘らず多分氷点下、この冬一番といわれた屋外よりも冷え切っていた。

最初は仲良く飲んでいたのだ。日本酒を買ってきたよ、ほら直隆の時代のお酒だよ、おお、気が利くではないか、どれまずは一献……、うむ、うまい! 本当だ、これおいしい~わいわいきゃっきゃっ。

しかし、ほんわかほのぼのムードは直隆の一言で一気に消散してしまった。

「以外に年増」

27歳の妙齢女子にとってその言葉は非常に痛い。ましてや目前にいるのは会社の上司でも無神経な後輩たちでもない、つまりは取り繕うこともも見栄を張る気もおこらないチビ侍だ。

初音は思う存分、不機嫌を晒し、対する直隆もやや困惑しつつもいや間違ったことは言ってないと開き直り、空気は絶対温度まで一気に下降していった。

「あんたになにが分かるってのよ。分かったふりして何でも偉そうに言わないでよね」

支離滅裂。ほとんど言いがかり。

「おぬしを心配してだな」

「そんなものはいらない」

いっそ痛々しいほどの目で、初音は直隆をにらんだ。

「心配も同情もいらない」

その顔はまるで泣くまいと必死に堪える子供だ、と直隆は思う。悲しみのような、愛おしさのような小さな何かが心の隅に芽生えた。

しんしんと静けさだけが通り過ぎてゆく。どれほどの時が経っただろう。

「ねえ」

ふっと目を緩ませて、初音が打って変わった声を出した。

「その着物、着たきり雀じゃない。服をつくってあげる」

「服?」

突飛な展開に驚く直隆をよそに、初音は今度はご機嫌で鼻歌を歌いながら

「あれはどこいったかな~」

こちらに尻を向けて、四つん這いになって何かを漁っている。その悩殺ショット、プライスレス。

さすがに直隆の顔と、もう一部の箇所に血の気が集中した。

「あったー!」

そんな直隆お構いなしに、初音は目的のものを見つけたらしい、無邪気な歓声を上げる。

「ほーらかわいいでしょー?」

べらんとみせられたものは、理解しがたい模様をした布きれだった。

「ピンクの花柄だよ~♪」

意味不明の歌を歌いながら、長方形に切り、真中に穴をあけた。

「さ、脱げ」

「は!?」

「脱げっていってんの」

問答無用、初音は恐るべき速さで直隆を引っつかむと、楽しそうにそれはもう楽しそうに脱がしにかかった。

「こら、やめんか、この恥知らずが……!」

暴れようとしても酒が回って思うように動かない。まるで猫の弄られる鼠のごとし。

「ほらっ! 完成!!」

裸に布切れを頭から被せられ、紐もどきで腰をくくられた直隆はコタツの上にちょんと置かれた。

「ちょんまげ原始人@現代!!」

そのまま初音はゲラゲラゲラと腹を抱えて笑い転げた。

こ……この女……!!

心の隅に芽生えた何か。悩殺ショットに煽られた欲情。そんなものは遠くにさよならだ。

「そこに直れ! 手打ちにしてやる!」

「やる気!? 受けて立つ……ぶわはははは、やっぱり似合いすぎるーーー!」

「こんなわしに誰がした!!」


午前零時に繰り広げられたドタバタ劇は隣人及び階下住人による「うるせえ!」ノックにて強制終了となり、結局はなにもかもがうやむやになったまま宴会の続行と相成った。

ちなみに二人仲良く壮絶な二日酔いを迎えたことでなぜか絆は深まり、前日の出来事(「年増」発言、ちょんまげ原始人)はお互いに水に流すことにしたらしい。


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