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お ち る

あの馬鹿。


売り場のカビ臭いストック、作業台に突っ伏して初音は悪態をついた。

腰が砕けそうに痛い。歩くことすら辛い。

あいつはさかりのついた犬か。兎か。

一晩五発ってどんだけ絶倫なんだ、殺す気か。


今朝がた、貞子のごとく這いずるようにベッドを出た初音に対し、直隆は元気いっぱいだった。再びベッドに引きずり込まれるところだった。

勿論、渾身の力を込めて殴ってやった。

「覚えていろよ」

堪える様子もなく、ぶん殴られた頭を抑えて、直隆は笑っただけだった。


直隆の手は。

台上に頬を付けたまま、目線の先にあるテープカッターをじっと見つめる。

直隆の手は大きくて、予想もしない所から伸びてきた。

だから余計に快楽に翻弄された。


初音は男を知っている。

片手で数えるほどとはいえ、今までに付き合ってきた彼氏もいた。体も重ねた。

故に分かる、相性というものを。


やばい。


青いテープカッターを凝視したまま、小さく息を吐いた。


やばい、落ちてしまった。


昨日の記憶を何度も反芻するのは、きっとそのせいだ。

胸がきゅうきゅう切なく痛むのは、きっとそのせいだ。


あーもう! 仕事中に何考えているんだか!


「店長、大丈夫ですか? しんどかったら、僕、通しするんで帰り…何してるんですか」


ストックに顔を出した林田健二は、何かを追い払うように両手を振っている初音を見て目を点にした。


「なんでもない、大丈夫。少し休んだら楽になったから」


無理やり笑顔を見せて、椅子代わりの脚立から立ちあがる。


再度、激痛が走った。



****



その頃、直隆はベッドに腰をかけたまま、じっと手を見つめている。


直隆。


初音は繰り返し自分の名を呼んだ。

熱い吐息と共に。心がよじれるほど切ない声で。


その声が聞きたくて聞きたくて、何度も初音を求めた。


直隆。


未だ耳に残っている。

まだ聞き足りない、もっと欲しい。


それは自分の体が元の大きさに戻ったことよりも衝撃だった。

軽い気持ちのつもりだったのだ。

いつも威張りくさって玩具にしてくれる女に仕返しをするぐらいの、それが。

別に初めての行いではない。妻もいたし、城下の遊び女と関係したこともある。

それでも、あんな声で、あんな貪欲に快楽を求める女を直隆は知らなかった。


危険だ。


手をじっと見つめながら、直隆は小さく息を吐いた。


危険だ、これ以上行ってはいけない。


頭では理解していても、心は正直だ。

その証拠に狂おしいほど初音を待ち焦がれている。

早くあの扉が開かれることを、待ち焦がれている。




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