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深夜の衝撃

それから約一週間が過ぎた。

着せていたのがメイド服だとばれて、怒り暴れた直隆に初音が逆切れし、そのちょんまげを短く現代風に切ってしまっただとか。


「ハゲの部分がぼうぼうで前からウザいと思ってたの!」


酔っ払った勢いで二人一緒に仲良くベッドに寝たのはいいが、初音無意識のエルボーが直隆にクリティカルヒットし、勢いで床にたたきつけられた(べしっ!)とか。


まあ、色々あったが基本的には平穏だった。


その日が来るまでは。






深夜。

ふと初音は目を覚ました。

人の気配がする。

ぼんやりしていた頭が次第に覚醒初めて、恐怖がせりあがる。

おそるおそる薄目を開けると、男がいた。

全裸で、初音に向かってゆっくりと手を伸ばしてくる。


……あたし、窓、閉めてなかった……!


恐ろしさの余り体は動かない、手は近づいてくる。


「……助けて」


振り絞った声は小さくかすれていた。

「……助けて、直隆ッ!!」

「わしじゃ」

意外と近い所から声がした。

「んっ!?」

改めて、目の前の全裸変態野郎をまじまじと見る。

「あの、つかぬことをお伺いしますが」

信じられない。

「あなた、松本四朗直隆さん?」

「いかにも」


ぱぁん!!!


瞬間、痛々しい音が鳴り響き、直隆は頬を打たれて片手をついた。


「何をする!」

「こっちの台詞じゃあ!! チビのくせに何でかくなってんのー!!」

「わしが知るかー!」


久しぶりに交わされる The怒鳴り合い。


信じらんないチビのくせにチビ言うないきなり殴るとは卑怯者め誰が卑怯者だゴラアばーかばーか。


まるで出会ったころのようね、うふふ。なーんて微笑み会う余裕は二人にない。

特に初音は半乱狂である。

「もう、もう、もう! びっくりしたんだから! 死ぬほど怖かったんだから!!」

枕を武器に、ぽかすかと殴りも入る。

「こら、ばか、やめ……ぶふっ!」


騒ぎが収まったのは三十分後。

「と…ともかく」

息を整えて、初音はベッドから降りた。顔を真っ赤にさせて、直隆を見ない。

「なんか着るもの……。あたしの服であるかなあ……」

小さく呟きつつも、クローゼットの扉に手をかけて、そのまま凍りついた。

直隆に後ろから抱きすくめられたのである。

「……嫌か?」

耳元で囁かれた瞬間、ぞくりと何かか動いた。体中の血液が鳥肌を立てたような感じ。

何を問いかけているのかは分かる、男の手は欲望を孕んでいる。

「い……」

そして自分の声が、あまりにも小さく甘えが含まれていることに驚いた。

「嫌じゃない……」


――春の朧、静かに重なり沈む影が二つ。






とは、問屋が下ろさなかった。初音が。


「だぁっ!!」

可愛い声を上げていた腕の中の女に突然突き飛ばされ、直隆はベッドから転げ落ちた。

「な……どうした」

「いいから! すぐ戻るから! そのまま待っていて! ステイッ!!」

怒鳴りながら全裸の上にコートを羽織り、財布を引っ掴み、そのまま外に飛び出してしまった。

「何をやっておるんじゃ、あいつは……」

茫然と取り残された直隆は訳が分からない。

変質者(マッパonコート)同様の初音は、最寄りのコンビニへと飛び込み、目当ての品(明るい家族計画)をレジに叩きつけ「シールでいいです」、びびった店員の「頑張ってください!」声援(敬礼付き)を背中に聞き、再び直隆の元へと帰ってきた。


「待たせたな」


目が据わっている。

まるで荒野の決闘に挑む荒武者のようだ。

背後には幻覚か、荒れた大地に乾いた風が吹いている(ヒューーー)。

その目で直隆を見下ろしながら、初音はコートのボタンをゆっくり外していった。

ばさりと宙に投げ捨てる。

気弱な草食男子なら悲鳴を上げて逃げたかもしれない。

だが、直隆は戦国の男だった。


「待ちくたびれたぞ」


にやりと笑う。そして白く細い腕を掴み、乱暴に引き寄せた。



こうして現代東京における合戦(ピンポイント限定)の火蓋は切って落とされた。






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