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よくわからない話をするバイトの阿久津さん  作者: 鵜飼かいゆ


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阿久津さんの団地の話

友達から聞いた話なんだけど。うん。又聞きばっかりでごめんね。私の実体験もあるんだけど、まだどう話すかの情報整理できてなくて。一応ね、自分が話すのめちゃ下手な自覚はあるんだ。何言ってるのか分からないって怒られまくってる人生だから。だから今のバイト助かってんだよね。言うことパターン化されてるから。

たぶん文章にした方が簡潔に伝えられるんだろうけど。いやそうでもないか。担当さんにもよく日本語確認されるし。

漫画にするとどうにかできるんだけど、描くのに時間かかるし、笹島さんに見せるのっていうのもちょっと恥ずかしいし。

笹島さんも不特定多数には見せられるけど家族とか友達には見せづらくない? 小説。

だよね? だから口頭で話させて。


で、友達。そう友達がね、ちっちゃい頃団地住んでたんだって。お父さんの会社の社宅だったとか言ってたかな? 知り合った時は一戸建てに住んでたんだけど。

団地住んでた時、朝、洗面所で歯を磨いてたんだって。で、近くに窓があって外が見えたんだって。洗面所に窓あるってなんかいいよね。自然光で鏡見れるし。


で、友達が何気なく窓の外を見てたら、あ、部屋は一階だったらしいんだけど。

そしたら豚が歩いてたんだって。後ろ足だけで。そう二足歩行二足歩行。それ聞いた時の私の脳内イメージ、腕ぶんぶんって振って陽気な感じなんだけど、リアルな豚って足そこまで長くないから、元気よく歩いててもこう……小さく前ならえの状態でぶんぶんって振る感じになるよね。

あれかな、矢場とんってわかる? 名古屋の味噌カツ屋さん。あのマスコットの印象が強いよね。あとお肉屋さんとかレストランの看板にいるコック帽とかかぶった豚。あれなんの肉料理してるんだろう。まあいいや。


その豚の首に、青いリボンが巻いてあったんだって。


二足歩行じゃなかったら首輪だよね。二足歩行してる時点でどっかおかしいんだけど。馬だったらギリ二足歩行っていうか前脚上げて立てるだろうけど。でも友達ちっちゃかったから、変だなあって思って終わりにしたんだって。子供だとそういうのあるよね。サンタさん信じてる的な。


そしたら次の日も窓の外を豚が歩いてたんだって。でも前の日と違うことがあって。


リボンの色が黄色かったんだって。


それでね、友達、思ったんだって。


「明日あのリボンが赤かったらどうしよう」って。


だから次の日から天気がいい日でも洗面所を使う時は窓を閉めるようにしたんだって。

なんで豚が二足歩行してることは気にならなかったのに、リボンの色は気になったんだろうね。


豚は本当にいたのかな。

ってか、リボンの色が赤くなったらどうなるって友達は思ったんだろうね。教えてくれなかった。忘れちゃったけど、赤くなったらヤバいとは思ったんだって。


でもさ、子供が朝歯磨きしてる時間って、大人だったら会社行ったりゴミ出ししてる時間だし、窓開けて外見てる人もいるよね。

団地の人で、友達以外で豚を見た人はいなかったのかな。

もし見てた人がいて、赤いリボンを巻いた豚を見た人がいたら、その人はどうなってたんだろうね。


……あんまり怖くないね。

聞いた時はぞわっとしたんだけど。

じゃあ、またねー。お疲れ様。


「……」

マイペースに帰っていく阿久津さんの背中になんとなく手を振った。

そして私も意味が分からない話なのに何故かゾッとした、とは、言えなかった。

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