死神との会話
帰り道。
やっと落ち着いた私とゼノは横に並んで、ゼノの要望で手を繋いで帰りながら、他愛もない話をした。
「よく私があそこにいるって分かったね」
「そりゃあ…俺は死神だから。死神も神だから、それなりには万能ではあるわけさ」
「なるほど。そういえば、ヴィンは一緒じゃなかったの?」
ゼノはこちらも向かずに答えた。
「王子様はやらないといけないことがあってな。お姫様のことになると他のことが見えなくなるから、行くって言い張っていたが…あれだけは王子様にしかできないから俺が来たんだ。説得するの大変だったんだぜ?」
「その様子は、想像がつくなぁ…でも、ヴィンができて、ゼノができないこともあるんだ」
自惚れているわけではないが、日常が日常だけにヴィンセントがわたしのことで駄々をこねる様子は想像に容易かった。
そんなヴィンセントを説得したゼノの言葉も気になるが、意外なのはむしろ神であるゼノができないことがヴィンセントにできるということ。
私の意外だとでも言うようなリアクションをゼノは苦虫を潰したような顔をする。
「まあ…それは、死神の掟を破った罰というか…ここだと俺の力が満足に使えないというか…」
ごにょごにょとゼノはばつが悪いように話す。
私はそんなゼノの言葉を聞きながら、ふと思い当たった。
「そういえば、聞いていいのか分からないんだけど…私、死神のことがよく分からないな」
死神。
今までなんとなくで流してきたけれど、今更ながら疑問が浮かんできた。
「そんなに知りたいのか?」
ゼノは自分に興味をもたれて嬉しいのか、にやりと笑う。
私は頷いた。
「うん。教えてほしいけれど…だめかな?」
「とんでもない。お姫様の願いなら、喜んで」
ゼノはわざとらしく私の前に出てきて、繋いだ手を私の顔の位置より少し低めに上げると恭しくお辞儀をした。
私は普段の彼らしくない丁寧な所作におかしくなって、ふふっと笑う。
その様子を満足そうに見て、ゼノは語り始めた。
「お姫様たちに関係ある部分だと死神ってのは死を誘う神だな。死期が迫ると人間の前に現れて、願いを一つ叶える代わりに魂を冥界に連れて行くんだ」
「願いって何でも良いの?」
「何でもは無理だな。死神は死期を左右させたり人の気持ちを変えるなんてことはしないから」
「思ったより制約が多いんだね」
「冥界で行う業務の方が圧倒的に多いからね。そっちの話はトップシークレットだから話せないけど、魂連れてくなんて一端だから誰でも余計な手間かけたくないのさ。後始末が面倒だから」
その話を聞いて、私ははたと思いついた。
「それだと、しないだけで本当はできるみたいな言い方だね」
私の言葉にゼノはにんまりとする。
「…死は終わりだ。終わりを司る神なんだから、多少はな?」
しかし、そのまま面倒そうに続けた。
「ただ他の神との兼ね合いもあるし、掟もある。死神ってのは面倒臭がりな生き物なんだ。よっぽどのことがない限りはそんな手間しないさ」
死神の世界もなんとなく大変そうだ。
世の摂理に逆らえないのは人間も神も同じらしい。
なんとなく死神に親近感を感じつつ、私は頭の中で情報を整理して思い当たった。
「じゃあ、ゼノはどうして掟を破ったの?」
しまったーーーとゼノを見る。
ゼノは瞳を丸くしていた。
私なんかが聞いて良いのか分からない繊細な問題かもしれないのに、こんなに気軽に聞いてしまって良かったのだろうか。
私が目を逸らして、次の言葉をどうしようかとどきまぎとしていると、ゼノは気にしていないようにぽつりと答えた。
「……ほしいものがあったから」
その答えに再びゼノの顔を見つめる。
ゼノは真剣な顔をしていた。
「欲しくて欲しくてたまらなくなったからだよ」
本当のことだ。
そう直感した。
ゼノの嘘が微塵も混じらない真っ直ぐな言葉。
そうなると、私は目が離せず、次を尋ねずにはいられなかった。
「手に入ったの?」
私がそう尋ねると、ゼノは少し悲しそうな表情で笑って答えた。
「いや、逃げられたんだ」
「…残念だったね」
「うん。…でも、いつか必ず手に入れるって決めてる」
ゼノの視線は少しも外れない。
肉食動物が獲物を狙い定めているかのように。
私は緊張して呼吸さえも忘れてしまいそう。
やっと口から出てきた言葉で呼吸を思い出す。
「…応援してる」
「ああ、お姫様に応援されているなんてこれ程心強いことはこの上ないよ」
ゼノは嬉しそうに微笑んだ。
何故だろう。
それ以上この話は聞いてはいけない気がした。
この繋いだ手から私の気持ちは全て彼にばれていないだろうか。
そんな危惧を感じながらも彼が握って離さない手を拒絶できずにいる。
…話題を変えよう。
私は止まりそうな思考回路をフル回転させて、思いついた疑問を提供した。
「…死ぬ前の人って、どんなことを願うの?」
「そうだな。一々覚えてないが、一番最後に聞いた願いは…」
私の話題にのった彼は、うーんと考えてみせ、それから。
「ああ、忘れちまったな」
にっこりと清々しい笑顔で言う。
いつもの彼の嘘だ。
何故こんなことに嘘をつくのだろうと思いながら、私は未だに彼の手から逃れられずにいた。




