私の仕事
実は私にも仕事がある。
この世界に来たばかりで右も左も何も分からなかった私にヴィンセントとゼノは何もせずとも自分たちの隣にいてくれさえすれば良いと言っていたけれど、私にとってそれは心苦しくとても申し訳なかった。
二人と一緒にいる時間は心地よくて楽しいけれど、何もせずじっとしていることが性に合わないのか、それとも二人の“目”が窮屈だったのかは分からない。
この仕事に出会えたのは本当に偶然の産物でしかない。
二人と出かけた際に道端にたまたま落ちていたガラクタ。
何故か気になって手を伸ばすと二人は目を大きく見開いていた。
何でも二人には…というより、この世界の住人はこのガラクタには触れられないらしいのだ。
ヴィンセントが実際に私の手からそのガラクタに触れると、たしかにそのガラクタは砂になって消えてしまった。
その様子をたまたま目にした人がいた。
それが、私の今の上司にあたるレンだった。
寝癖がついたままの無造作に跳ねた鮮やかなオレンジの髪、深緑のつなぎの袖を適当にまくり上げ、首からヘッドホンをぶら下げ、片手のタブレットを気怠げに操作していた彼はこのガラクタはこの世界の歪のようなもので、放っておくと世界を崩壊させてしまう危険なものだということ、だからガラクタに唯一触れられる自分が管理をしていることを話した。
そして、先程の私の様子を見て、彼は尋ねたのだ。
人手が足りないから、この仕事をしてみないか?と―――――
私は彼と私だけの職場に足を運んだ。
レンは乱雑なデスクに脚を乗せ、いつものようにヘッドホンで何かを聴きながらタブレットで作業をしている。
彼に近付き、彼が私の存在に気付くと、ヘッドホンをずらして気怠そうに口を開いた。
「…遅かったな。今回は何だった?」
私は彼が指定した場所から拾ってきたガラクタをまとめた袋を彼に渡す。
彼は無言で受け取れば、そのまま乱雑なデスクに中身をひっくり返した。
じゃらじゃらと音を立てて、袋から出てきたガラクタは紙切れのようなものもあれば、何かの破片や部品のようなものもあり、一目では何か判別がつかない。
レンはこの場所でそのガラクタを一つ一つ丁寧に見ながら、そのガラクタを元の形に戻して管理する仕事を任せられているらしい。
レンと私が触れたガラクタは回収されるが、住人が触れて消えたガラクタはまたこの世界のどこかに流れ着く。
レンはヘッドホンで聞こえるノイズを元にタブレットの地図アプリでガラクタの位置を特定する。
その指定の場所に私がガラクタを回収にいき、その間に彼が次の場所の特定と修復をすると役割分担が決まっていた。
「そういえば、レン。今日は珍しいものがあったよ。ほら、これ!ここまでそのままの形を保っているガラクタは珍しくない?」
私はキラキラと瞳を輝かせてレンに渡したガラクタから“それ”を拾い上げて見せる。
レンは一瞥した。
「…ああ、その“焦げた手紙”か」
いつも破片や部品や切れ端ばかりで私が判別できるもの等拾えることはなかった。
だからこそ焦げてはいるものの私でも手紙だと分かるそれはとても貴重なものに見えた。
「ねえ。これ、何が書いてあるの? 」
レンに尋ねると、彼は無造作に手紙を受け取り、机から謎のスプレーをしゅっとそれに吹きかける。
すると、どうだろう。
手紙の焦げが消えていき、まるで今さっき書かれたかのように手紙が復元された。
それでも、破かれたかのように一部のみではあるようなのだが。
彼は慣れたかのように中身を確認して鼻で笑う。
「あー…これは謝罪文だな」
「謝罪文?」
「ああ。この手紙の主は好きになってはいけない人を好きになって、罪を犯したんだとさ」
「罪?」
「その続きは…お嬢さんのこれからの活躍に期待、だな」
つまり、続きは読めなかったらしい。
今後のガラクタ回収次第では続きが読めるぞということだ。
私はちょっと残念に感じながら、私のために彼が用意した椅子に腰かける。
すると、外が何やら騒がしいことに気付いた。
気になった私は窓を開ける。
すると、聞き馴染みのある言葉が飛び交っていた。
「…今日も街は聖女様の噂でいっぱいだね」
「………」
レンは反応しない。
この世界には聖女様が存在するらしい。
聖女様はとても美しくて、慈悲深く、世界のあらゆる場所をまわって人助けをしているらしい。
この前は伝染病に苦しむ村を治癒の力で救ったとか、その前は貧しい村に食料を寄付し生活できる術を授けたとか、そんな話が毎日のように街中を飛び交っている。
「世界を巡って誰にも知られずガラクタ集めしている私とは大違いだなぁ」
なんだか胸が苦しくなって、私がそんなことをぽつりと呟くと、いつの間にかレンが私の側に来ていた。
私の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
「きゃ…っ!?な、なに?」
「お嬢さんの仕事も…世界を救う立派な仕事だ。お嬢さんにしかできないし、お嬢さんの頑張りは…その、他の奴らが知らなくても俺が知ってるから…」
だんだんと語尾に向かうほど小さくなって、ばつが悪そうにレンは頭をかいた。
もしかして、励ましてくれたのかな?
私はレンは不器用な優しさにほっこりした。
「ありがとう、レン」
「はあ。そう言われて救われたよ。…慣れないことはするものじゃないな。こういうのは…あいつらの仕事だ」
あいつら、と言われて思い出すのは当然あの二人のこと。
でも、私は首を振った。
「ヴィンとゼノは私がこの仕事をすることをあまりよく思っていないみたい」
「…だろうな」
「レンにも分かる?」
彼はそう言われると、自分の作業に戻りながら、まるで自分には関係がないかのように答えた。
「ああ、分かるさ」
窓から入った光が彼の管理しているガラクタ倉庫の鍵をきらりと光らせた。




