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クマと増税・・・(若き官僚がクマ問題を利用して増税を仕掛ける話)

作者: 涼香
掲載日:2025/11/19

 数年前、日本に「山林環境税」という新しい税金が導入された。


きっかけは、全国の土砂崩れが増えたという統計だ。


国民の税金を使い、国は山林を管理する機関を新設した。

それが「山林保全庁」——長い名前の割には、やっていることは、草刈りと書類作成。


 この物語は、その庁に配属された新人官僚・太郎の話だ。


 入庁式の日、太郎は胸を高鳴らせていた。


「税金を預かるのだから、山林を良くして国民の役に立つんだ!」

だが、その純朴な理想は初日で粉砕された。


太郎が植林計画書を胸に、意気揚々と先輩のデスクへ向かう。


「先輩! 土砂災害の危険区域を——」


「——おい、太郎。お前、バカなのか?」


先輩は書類を投げ捨て、鼻で笑った。


「問題を解決したら、俺たちの仕事はなくなるんだよ。理解しろよ?」


「え……?」


「解決したら予算が減るんだ。予算が減れば俺たちは出世できねぇ。出世できなきゃ、良い天下り先も回ってこねぇ。家族を養えねぇ。社会はそんなに甘くねぇんだよ!」


先輩の声は低いが、どこか喜びを含んでいた。


「だからな。問題は——維持するか、拡大するんだ。わかったか?」


 太郎は言葉を失った。

 正義感は、氷のように溶けていった。


     ◆


 数ヶ月後。

 太郎は完全に組織の論理へ適応していた。


 そしてある夜、ふとひらめいた。


「もっと大きな問題を作れば……増税できる」


そう考えた瞬間、背筋が熱くなった。

理想は影も形もなく、脳は“出世”という蜜だけを追い求めていた。


彼は研究し始めた。

山林の生態系、動物の繁殖、データ、パターン。

そして一つの答えにたどり着く。



「クマだ……!」


 人間が恐れ、かつ「山林問題」と関連付けやすい存在。

 太郎は深夜の山林を歩き、餌場を作り、繁殖しやすい環境を整えた。

 予算を“自然環境調査費”として偽装し、クマ用飼料を大量購入した。


 太郎の手帳には、恐ろしい計画が赤字で記されていた。


『動物は注目される→そして恐怖は視聴率 → 視聴率は政治利用しやすい → 問題解決には予算が足りないとアピール』


 狂気だ。しかし、官僚組織の中ではむしろ合理的だった。


     ◆


 そして数年後。


 太郎の計画通り、クマは増え、山から町へ降りてきた。

 町ではゴミを漁り、畑を荒らし、人を襲い、監視カメラには黒い影が頻繁に映る。


 地上波テレビは連日「クマ特集」を放送した。


 スタジオのコメンテーターが言う。

「クマの被害が止まりません!! しかし山の管理予算が足りないんです! もっと予算を!」

 バラエティ番組でも、クマが漫画のように描かれ、大問題として煽られた。


 SNSでも恐怖動画が拡散。

 国民は震え、政治家は票を計算し、議会は急いで増税案を審議。


 そして——

山林税は2倍に増税された。


 国会を通過した瞬間、太郎に辞令が届く。


「太郎、昇進おめでとう」


 太郎は見晴らしの良い新オフィスの窓に立ち、街を見下ろした。


 その視線の先に、また黒い影がある。

 住民が逃げ惑い、警察がバタバタと動き、テレビ局のヘリが上空を飛ぶ。


 太郎は静かに微笑んだ。


「さあ……次はどんな問題を作ろうか」


 背後のデスクには、新しく設置された「山林警備公社」のパンフレット。

 そこには、天下りが可能な役職一覧が美しく印刷されていた。


官僚がクマで増税する話は、こうして“成功”したのである。


10年前に増税され国民に負担を強いた山林税。その税金は決して山林の環境を解決することはなく、配属された官僚達は出世のために毎日頭を使い税金を使い、その結果さらなる増税を勝ち取ったのだった。


本作はフィクションです。しかしながら、昨今のわが国を取り巻く空気を思えば、

全くの荒唐無稽とも言い切れない、と感じられるかもしれません。


官僚が増税によって評価されるのではないか、

特定団体との癒着があるのではないか、

天下り先の確保が政策判断に影響するのではないか——。


ニュースや告発が相次ぐ中で、私たちが抱える漠然とした不信や違和感が、

この物語の皮肉をどこかリアルに見せる。


あなたの心には、何が残りましたでしょうか。


問題を拡張し、危機を演出し、増税という“解決策”に国民を誘導する。

官僚達は決して問題を解決して国を良くすることには頭を使わず、出世や天下りのために給料をもらいながら思考して、さらに問題を増やし、増税を連発していく。当然、国は良くなるどころか数十年衰退している。


そんな利己的なメカニズムがもし社会に根付き続ければ、国の未来は今後も決して明るくならない。


本作が、読者一人ひとりに「なぜこの制度は存在するのか」「誰のための政策なのか」と考える小さな契機となれば幸いだ。

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