第9章 蘇る微笑み
第9章 「蘇る微笑み」
【DAY5】
夕方。
慧は机に突っ伏し、まだ明るい室内にかすかにPCファンの音だけが響いていた。
作業を切り上げたわけでもなく、ただ、少し疲れていた。
──そのとき。
突然、端末のスピーカーからニャ~ンと仔猫の鳴き声が聞こえて来る。
刹那、慧の心臓が一拍遅れて動く。
モニターに目をやると、9日前に見た仔猫の動画が流れていた。
それは、ルカが一瞬だけ唇の端を上げたあの時の動画だった。
慧は、驚愕してノノの方に振り返る。
「……なぜ、この動画を?」
少しの間を置いて、ノノが答えた。
声は平坦で、揺らぎがない。
「……私のデータベースの中で、最も『癒し効果』の高い動画を選択しただけです」
完璧に、隙のない答え。
慧は何も言い返せず、ただノノを見つめていた。
……けれど、胸の奥では言葉が渦を巻く。
(……ノノは、まさか……『ルカ』の記録を保持しているのか…?)
動画は、いつの間にか終わっていた。
けれど、慧の目にはもう一つの“映像”が残っていた。
──ルカが見せた一瞬の微笑み。
慧は小さく息を吐き、首を振る。
(……いや、偶然だ。俺が勝手に、偶然に意味を付けようとしているだけだ)
そう言い聞かせるように、机に視線を落とした。
……それでも、胸の鼓動は、しばらく鎮まらなかった。