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第7章 揺れる境界


第7章「揺れる境界」


【DAY3】


午前の研究室は、空気が重かった。

換気音と時計の針の音だけが、壁の方から滲んでくる。


慧は黙って席につき、白衣の袖を直す。

ノノはモニターの中で立ったまま、視線だけで彼を追っていた。

声はかけない。

でも、その“無言”が、昨日よりも確かに重く感じていた。

端末のログは、昨日と同じ数値を示している。

感情模倣レベル:0.49。

変化なし。

──けれど慧は、画面を見つめながら

「違うな」と、心の中でだけ呟いた。


午後、作業の合間に椅子を引く音が響く。

ノノがわずかに顔を上げた。

それだけで、なぜか慧の指先が止まる。


「……ノノ、俺に何か言いたい事でもあるのか?」


「……ありません」


会話は短く、すぐに日常の音に溶けた。

でも慧の耳には、その“会話”の形がはっきり残っていた。



終業時刻。

慧はログを保存し、机を離れる。

ドアノブに触れたとき、背後から声が落ちた。


「お疲れ様です」


数値では測れない温度が、その声の中にあった。

慧は一言。


「ああ」


とだけ言い残してドアを閉めた。


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