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第15章 約束の石ころ


第15章 「約束の石ころ」


【DAY3】


朝。

研究室に着いてから、慧は、ずっと上の空でソワソワしていた。

コーヒーも飲まずに、マグカップを持ち上げては置き、また持ち上げては置く。

椅子に座っては立ち、窓の前に行っては戻る。

指先は落ち着かず、視線も定まらない。

白衣のポケットの中身が気になって仕方がないからだ。

それを見かねてユイが口火を切る。


「慧くん。朝から落ち着かないみたいだけど、どうしたの?」


慧は、ついに観念したと言った感じで、ポケットからゆっくりと箱を取り出して見せる。


「……これ、約束の石ころ持って来たんだけど。いるか?」


ユイの瞳がぱっと輝いた。


「えっ、ほんとに!? スベスベでキラキラのやつ?河原で拾って箱に入れて来たの?」


ユイは、本物の石をわざわざ箱に入れて来たと思ってクスクスと笑うが、慧が箱を開けて見せると驚いて目を見開いた。

中には、虹色にきらめくイミテーションのダイヤのネックレスがキラリと輝いていた。


「え、えええええええええええっ!?」


ユイの声が跳ねる。


「めっちゃ可愛い! めっちゃ綺麗! めっちゃ嬉しい!」


ユイは、驚きの余り語彙力を無くしたかのように喜んだ。

慧はそれを見て嬉しくなり、ネックレスを取り出しモニターの前へ。


カツンッ


ネックレスがモニターに当たり、冷たい音がした。

ユイは、そのネックレスに首の位置を合わせて慧を見る。


「どう? 似合ってるかな?」


慧は頷きながら、胸がぎゅっと締め付けられるのを感じていた。

ユイは、慧とは別の何かを感じ、ふと目線を落として声を震わせた。


「……でも、こんな綺麗なの……高かったでしょ? 私なんかに、お金使わなくてもよかったのに……」


慧は、一瞬言葉を失った。

でも、すぐに静かに答えた。


「……俺が渡したかったから買っただけだよ。石ころあげるって、約束しただろ?」


ユイはしばらく黙っていた。

そして、顔を上げてふわりと笑った。


「……うん。じゃあ、受け取るね。ちゃんと、大事にする」


少し寂しげなその笑顔を見ながら、慧の中にひとつの思いが芽生えた。


(やっぱり、直接渡したい)


でも、ユイはモニターの中だ。

それでも――何か方法はあるはずだ。


慧は研究室に戻り、ネックレスを見つめ、熟考。


「……スキャン、すればもしかして...」


ネックレスの形を記録して、データで送る。

それなら、ユイに“届ける”ことができる。

しかし、スキャナーはこの研究室には無い。


「くそっ」


慌てて別部署に連絡を取り、機材を借りに走る。


「すみません、ちょっとだけ……! すぐに帰します!」


ようやくスキャナーを手に入れ、ネックレスをそっと台に置く。

レーザーが走り、宝石の輪郭をなぞっていく。

画面に映し出された3Dモデルは、少し歪んでいて、でも確かに“それ”だった。

慧はデータを整え、メッセージを添える。


「約束の石ころ。今度こそ、着けて見せて欲しい」


ちゃんと届く様に祈りながら送信ボタンを押した。

すると、ユイの目の前にキラキラと輝く光が現れ、ポトリ。

ユイの差し出した手の平の上に、約束の石ころが付いたネックレスが佇んでいた。

ユイは、手のひらのネックレスを見つめたまま、息を呑んだ。

その瞳がゆっくりと潤み、やがて大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。


「……慧くん。ありがとう。わたし、一生大事にするから……」


その声は震えていた。

けれど、確かに嬉しさに満ちていた。


──その日、ユイは一日中、鏡を見ながらニヤニヤしていたのだった。


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