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第7話 崩れる楽園

 まるで神でもなった気分だな。

 あの退屈で窮屈だった元の世界とは比べものにならない。夢のような楽園だ。

 何の仕事もなく、大学にも行かなくていいし、面倒な課題もレポートもない。

 スマホが圏外なのは少し不便だけど、ソシャゲなんかより今の生活の方がずっと刺激的だから問題ない。金は持ってないが、欲しいものがあればソフィアとか他の誰かに言えば買ってくれるし、なーんにも気にしなくていい。


「あーホント、さいこー」


 ふかふかのソファに沈みながら、甘いジュースをすする。

 俺が機嫌よくしていれば、周りの空気もふわっと明るくなる。美人ばかりの取り巻きたちが、みんな俺の顔色をうかがって微笑んでくれる。


 ——そのはずだった。


「……そういえば最近、見かけなくなったやつがいるな」


 そうだ。昨日か一昨日あたりから、様子がおかしい。

 いつも笑顔で紅茶を淹れてくれてたメイドが、ぱったりと姿を見せなくなった。それに、俺がちょっと構うとすぐ照れてた魔導師の子——あいつも昨日はいなかった。あいつ、かわいいから気に入ってたのに。


「まあ、一応あいつらも仕事とかあるんだろうし、忙しかったのか?」


 あいつらがそんな大した仕事してるとは思えないけど、まぁそういうこともあるのかもな。

 そう思っていたのに。



 ——数日後。

 廊下でメイドとすれ違うと、視線を逸らして足早に去っていく。魔導師たちに声をかけても、「今、仕事中ですので」と無表情に返されるだけ。

 「ねぇ、ジュースまだ?」と気軽に声をかけたら、「担当じゃありませんので」と言われたときはさすがに固まった。

 前は放っておいても向こうから寄ってきたのに。

 肩に寄りかかってきたり、膝に手を置いてきたり、ちょっと目が合っただけで照れ笑いしたり。

 今は目が合ってもみんなそそくさとどこかへ行ってしまう。


 そんなことがここ最近続いている。

 ハーレムの女もどんどん減っていってる。


「なんだよ、どうなってんだよ……」


 おかしい。おれは主人公なのに。選ばれし者なのに。何でこんな扱いを受けなきゃいけないんだ? おれが何をしたっていうんだよ……!


 部屋になんていられなくて、王宮の中をうろつき回る。

 何か、何かがおかしい。音もなく何かが崩れていくような、不気味な感覚が背中に張りついている。



 中庭の近くの回廊を曲がった先、ふと、書類を抱えて歩いている人影が目に入った。……名前なんだっけ……あー、思い出した。ロイドだ。

 何だか久しぶりに見た気がする。少し前まではしょっちゅうおれの部屋にきて、ウザいことばっか言ってたのに。だいたい、「元に戻せ」ってなんだよ。あいつらが勝手におれの事を好きになって、勝手に来てるだけなのに。

 でも、いまはこいつにかまっている暇はない。

 そう思って引き返そうとしたとき——


「はぁっ!?」


 思わず声が出た。

 なぜなら、ロイドに走り寄ったのは、おれのお気に入りの魔導師で! その周りには、最近見かけないと思っていた女たちもいて! しかも、おれよりも大勢の女に囲まれてて!!

 

 ……そういえば、アイツが来なくなったのと、女たちの様子がおかしくなり始めた時期、同じじゃないか?


 おれの中で、何かが弾けた。


「——あいつだ。ロイド……!」


 そうだ、あいつはモブだから。俺と違ってモテないし、目立たないし、地味だし、つまらないやつ。だから、俺がチヤホヤされてるのが妬ましかったんだ! 絶対そうだ!!

 あいつがおれに嫉妬して、女たちを洗脳して操ってるんだ! おれには「女たちを元に戻せ」とか、わけわかんないこと言ってたくせに! なんてクソ野郎なんだ!

 おれが女たちの洗脳を解いてやらないと!!

 俺は衝動のままにロイドへ駆け寄り、胸ぐらを掴んで叫んだ。


「てめーが何かしてんだろ!!」 


 ロイドは怪訝な顔でこっちを見た。


「最近、女たちの態度がおかしいんだよ! どうせお前のせいだろ! モブのくせに調子のってんじゃねーぞ!」

「……何の話だ?」


 しらばっくれやがって。こっちは全部わかってんだよ!


「おれのハーレムがうらやましいんだろ!? 自分がモテないからって、俺に嫉妬してんだろ!? それで女たちを洗脳かよ! 最低だな!」


 ズバッと言ってやった! それなのに、


「……あー……、悪い。俺、仕事あるから、もう行くな?」


 ロイドはあっさり俺の手を振りほどくと、さっさと背を向けて歩き出した。


「おい、待てよ! まだ話は——!」

「ごめん、忙しいから」


 振り向きもせず、ロイドは女たちを引き連れて去っていく。女たちも、まるでおれの事なんて見えていないかのように、そのままロイドについていった。


 呆然と立ち尽くした俺の横で、誰かが「ユウト様……大丈夫ですか?」と声をかけてきた。でも、そんな言葉に返せる余裕は今はない。煮えたぎる怒りと屈辱で、拳を握り締める。


「あの野郎……絶対許さねぇ……」


 呟いたその声に言葉を返すものはいなかった。



 それから数日後。

 ハーレムにいた最後のメイドが正気に戻った。これで残りは女騎士と王女だけ。

 ユウトの楽園は、ほぼ完全に消滅していた。

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