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第5話 確信

 正気に戻った使用人――ミーナに事情を説明すると、先ほどとは打って変わって怒りをにじませていた。

 その矛先が俺ではないとわかっていても、思わず一歩下がってしまう。


「私は王女殿下付きの使用人なんですよ!? あんな男に色目使ってベタベタしてたなんて、絶対に正気じゃありえません! 洗脳に決まっています!」


 ミーナの言う通りだろう。この様子は明らかに『恋が冷めた』なんてものではない。どう見ても『正気に戻った』という表現が正しい。つまり洗脳で確定だ。


「私のようなものはともかく、王女殿下を洗脳するなんて重罪です! 今すぐにでもあの男を牢にでもぶち込んで処刑すべきです!」


 うーん。思っていた以上に血の気の多い。正気を取り戻したかと思ったら、次は怒りで別の方向におかしくなりかけている。


「まぁ落ち着いて。転移者を殺したって全員が元に戻る保証はないし、牢に入れた時点で洗脳された連中が暴れ出す可能性もある。そうなったら死人が出かねない。……とにかく、洗脳を解いてからにした方がいい」

「ッ……」


 納得はしていないようだが、反論は特にないらしく大人しくなった。

 まぁ、ミーナの気持ちもわかる。王女が心配なんだろう。王女は使用人にも分け隔てなく優しいからとても人気が高いのだ。

 そのままうつむいてしまったミーナを少しでも元気づけようと、俺は努めて明るい声を出す。


「とにかく、洗脳された人たちを元に戻すための糸口がつかめたよ。ミーナのおかげだ」

「……とはいえ、強い衝撃で解けると可能性が高いとしても、どうするんです? 王女様に無体を働くわけにはいきませんよね」


 俺の慰めはド正論で言い返されてしまった。しょんぼり。

 だがミーナの言う通りだ。王女様をわざと転ばせるか、あるいはひっぱたくか……。そんなことをしたら俺の首が比喩的に切られるか物理的に切られるかの二択になってしまう。そして高確率で後者だろう。それは非常に困る。


「それに、強い衝撃で必ず解けるという確証もないしな」

「そうですね。私はたまたまかもしれませんし、まだはっきりしたことは……」

「いや、もう一人やってみればわかるだろ。とりあえず部下で試すか。ちょうど向こうから来たし」

「え」


 廊下の向こうから歩いてくる魔導師に見つからないように、俺とミーナは柱の裏にそっと隠れた。

 のこのこ歩いてきたのは俺の部下である魔導師のレナだ。今は他の女魔導師と同様、転移者の取り巻きとなっており、仕事では使い物にならない状態である。転移者のことで頭がいっぱいなのか、まったく周囲を警戒していない。素晴らしい実験台になってくれそうだ。


「……それで、どうするんです?」

「こうする」


 俺はそっと亜空間から魔導杖を取り出す。それを見たミーナが目を見開いて慌てだした。


「!? そんな、不意打ちで魔法なんか使ったらけがじゃ済みませんよ!」

「いくら部下が見るも無残な状態になっていても、さすがにいきなり魔法をぶつけたりしない。いいからそこで大人しくしててくれ」


 ミーナを放置して、俺は音を立てないように柱の裏からそっと抜け出した。

 そのまま、何も知らずに歩いていくレナの背後へと忍び寄り——


 ——ゴツッ。


 杖の先端に付いた宝玉でレナの後頭部をぶん殴った。レナはそのまま、前のめりにぱたんと倒れる。気絶したようだ。


「……ひ、人殺し……」

「失礼な。魔導師もそこまでか弱くないよ。多分」

「多分!!???」


***


 二人で気絶したレナをじっと見守ること数分。レナが呻きながら、ゆっくりと目を開いた。

 

「……う、ん……どこ、ここ……?」

「戻ったか?」

「え……なにが、です……あれ? あ……私、どうして……あんな訳の分からない男を、警戒もせずに……」


 レナは一瞬の混乱のあと、見る見る青ざめていった。


「あっ! 元に戻りましたね!」


 ミーナが喜びの声を上げる。俺も頷いた。


「レナ、まあ落ち着け。お前が悪いわけじゃないから」

「とんでもない醜態をさらしてしまった……もう異動届出す……地方でも辺境でもどこでもいいから飛ばしてください……」


 うん。間違いない。どう見ても目つきが違う。ぼやけた熱っぽい視線じゃない、現実をちゃんと見ている目である。これで物理衝撃による洗脳解除は『再現可能』と判断していいだろう。


「……よし、いけそうだな」


 俺は確信した。魔法も呪術も頼れないなら、物理で殴るしかない。根拠がどうとか、そういうのは後で考えればいいのだ。世の中結果がすべてである。


「でも、これからどうしたらいいのでしょうか……王女殿下を早く戻して差し上げたいのですが……」

「異動……異動させてください……」


 ミーナとレナは全く違う内容で頭を抱えている。

 うーん。収拾がつかない。とりあえずレナは放置でいいか。


「王女様を今すぐ元に戻すのは無理だ。さっきも言ったけど俺の首が飛ぶから。とりあえずは戻せそうなやつらから優先的に戻していくしかないだろうな」

「戻せそうなやつ、と言いますと?」

「そりゃあ、『殴っても俺が死なない順』だよ」

「……フェリシア様などは、元に戻れば大きな戦力になっていただけると思うのですが」

「そんなん無理だって。フェリシアって国で一番強い騎士なんだぞ?? 俺が殴るより早く俺の首が跳ね飛ばされるに決まってるだろ」


 堂々と答える俺に、ミーナが呆れたような目を向けてくる。

 だがそんな目で見たって現実は変わらないのだ。俺じゃ絶対勝てません! 無理です!


「……仕方ないですね、私も協力します。魔導師様たちはともかく、使用人くらいなら私でもなんとかできるでしょうし」


 ミーナがため息を吐いた。

 マジか。やったね、仲間が増えたぜ。


「ありがとう。じゃあ次、誰を殴るか一緒に考えようぜ」

「もう少しマシな言い方はできないんですか??」


 怒られた。どうして。


 ちなみに元に戻ったはずのレナは、精神的ダメージが大きかったようで、もうしばらくは使い物になりそうにない。魔導師は繊細な奴が多いのだ。他の魔導師たちも、洗脳が解けたらレナみたいになるやつが続出することだろう。


「まぁ、みんな同じ黒歴史ってことで。そんな気にするなよ。恋は盲目って言うし」

「異動させてくれ……」

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