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第11話 めでたしめでたし!

 地下牢にこもる腐臭と、鉄と石の冷たい空気の中。俺は軽く鼻をつまみながら、鉄格子越しに佇む一人の男を見下ろしていた。


「来たかよ、クソ野郎!」


 まっさきに飛び出したのは罵声だった。まあ、予想通りだが。

 転移者はぼろぼろの服のまま、顔を真っ赤にして、今にも鉄格子に噛みつきそうな勢いで怒鳴っていた。ほんの少しくらい反省してたりするかな、とか考えていた俺が甘かった。


「お前が俺を陥れたんだろ!? モブのくせに、嫉妬して俺の居場所を盗ったんだろ!? なぁ!!」


 責任転嫁のフルコンボである。ここまで来ても、この謎の自信だけは健在だ。ある意味、見上げた根性である。


「はいはい、わかったから。その話、裁判で言ったらいいんじゃない?」

「全部お前のせいだ!! 王女も騎士も、お前が洗脳したんだろ!? 俺は何もしてねえ!!  俺は悪くねぇえええ!!」


 あーもう、興奮して話聞いてないな。

 ちなみに牢の看守たちは無表情のまま、一切動じていない。沈黙の中、転移者の喚き声だけがやけに反響していた。


「じゃ、行くぞー」


 俺はそれだけ言って、魔法で転移者を強制的に眠らせる。あとは騎士たちに裁判場まで運んでもらうだけだ。道中で起きて騒ぎそうだが、そこは彼らに何とかしてもらおう。



 裁判は粛々と進行していた。


「……被告、異世界より転移してきた男ユウト。ソフィア王女殿下および複数の王宮職員に対し不審な精神的影響を与え、業務の著しい混乱を招いた件について――」


 開廷の合図すらなかった。王がふらっと現れて、「さて、始めようかね」と言った瞬間にはもう裁判が始まっていた。

 そのため、会場の雰囲気は裁判というより月曜朝の朝礼である。集まっているのも必要最低限だ。ソフィア、フェリシア、ミーナ、そして他数名の女性職員たちが証人席に並んでいた。


「……なお、魔法的痕跡は確認されず、異世界由来の手法と推定。王女ソフィア殿下の証言および、その他記録と照合し、整合性は確認済み」

「うむ。異論は?」

「ありません」

「ございません」

「ないでーす」


 裁判官たちは書類をぺらぺらめくりながら、まるで昼下がりの会議のようなノリで次々と同意していく。

 転移者はその光景をポカンとした顔で見ていた。思っていたより大人しいな。よかった。

 そして王が最後の書類をめくり終えたタイミングで、世間話のような調子で言った。


「うーん、はいはい。じゃ、処刑でいいよね?」

「異議なし」

「反対なし」

「全会一致ですねー」


 その場にいた全員が、まるで決まりきった予定をこなすかのように頷いた。完全に流れ作業だなぁ。


「ま、待て待て待て!! おい!! 俺は転移者だぞ!? 主人公なんだぞ!? 特別な存在だろ!? 処刑なんてありえないって、なぁ!? 誰かなんとか言えよおおおおおお!!!」


 ようやく事態を飲み込めたらしい転移者が喚き始めた。


「俺を処刑したらどうなるか分かってんのか!? 世界が滅ぶぞ!? 俺が勇者かもしれねぇんだぞ!? その可能性考えないのか!?」


 急に勇者にジョブチェンジしたらしい。そして勇者になって最初にやることが脅迫でいいのか。まず自分が何者なのか整理してこい


「……今までの私、本当に恥ずかしいです」


 ソフィアがぽつりと呟く。


「剣で斬らずに済んでよかった」


 フェリシアは腰の剣を軽く撫でながら言った。斬る気はあったらしい。

 全員がしみじみとした声で、彼に対する『総括』を行っていく。もはや感情すらない。たった一人の愚か者のために、ここまで手間をかけさせられたという事実だけが、空気の中に残っていた。



 時は流れ、場所は処刑場。


 転移者は拘束されたまま処刑台の上に立っていた。顔には、怒りと恐怖と焦りが混じっている。

 集まった観衆は楽しそうに処刑台を囲んでいる。観衆に伝えられているのは「国家反逆罪の罪人」という事実だけ。転移とか洗脳とか、そういうややこしい話は全部カットされた。

 処刑台の上で、転移者は拘束されながらも叫び続けた。


「この国は終わってる! 未来がねぇ! お前ら後悔するぞ!? 世界が滅ぶかもしれねぇんだぞ!!」

「はいはい、じゃあ滅びたらまた考えようね」


 近くの役人が棒読みでそう言って流した。

 王が軽く片手を上げて合図を出す。


「じゃ、よろしく〜」


 刃が上がる。

 転移者はまだ吠えている。


「まだ話は終わってな――」


 刃が落ちる音と共に、声も途切れた。

 首が転がる。


「あぁ、やっと静かになった」


 *


 処刑が終わり、観衆たちは波が引くように帰っていった。


「あー、おわったおわった」


 王もあくびを噛み殺しながら席を立ち、次の会議へと向かっていった。そうなると俺たち王宮の人間も「じゃあ帰るか」という空気になる。

 空を見上げて、俺は誰に言うでもなくつぶやいた。


「……これで一区切りだなぁ」


 背後から上司の声が飛んでくる。


「洗脳騒ぎで溜まった仕事がまだまだ残ってるよ。しばらくは残業と休日出勤が続くかもね~」


 ……あれだけ頑張った俺に、少しの休暇すらないらしい。 

 はぁ。理不尽な世界だ。だが、世界というのは案外どこもそんなもんかもしれない。


 俺は一瞬だけ処刑台を振り返り、すぐに前を向いて歩きだした。

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