表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

さくら咲く


さくらは浮き足だっていた。

春という季節は新しいものへの始まりの時だ。


同じクラスに、小中と同じ学校だった友達、清子(さやこ)がいたこともありすぐに馴染むことができた。高校から初対面で特に仲良くなったのは、同じ吹奏楽部に所属した由美(ゆみ)だ。


他の吹奏楽部の部員とはクラスが離れたということもあり、さくらたちは3人で行動することが増えた。


ーーさくらが吹奏楽に入ったのは、元々トランペットをどうしても吹いてみたかったからだ。ピアノやヴァイオリンをしていると、オーケストラや吹奏楽の演奏を聴くことがある。最初は派手な楽器だなぁ、くらいにしか思っていなかったのだが、あの音圧、迫力、それから溶けるように優しい音色まで多様な音を出す楽器に、惹かれてしまったのである。


「フルート、全然音出なくて大変」

「清子もかぁ〜、こっちも唇が痛いよ。でもフルートの先輩、優しそうだよねぇ、ホルンの先輩はお互いにまだ緊張してるけど、優しいよ。さくらは?トランペットの先輩はどう?」

「…この前、3年の先輩が2年の先輩、ビンタしてた」


「えぇ!?何で?」

「そんなことある?」

「2年の先輩が全然練習に来ないから、らしいけど…。結局冗談っぽくなってたし、優しい先輩なんだとは思うよ」


「3年って部長の(みつる)先輩?だっけ。女の人で、メガネの」

「そう…この前先輩たちがくる前に、音出るの楽しくて適当に吹いてたら、『音が雑い!』って怒られた…」

「それはそれは…」

「けっこうトランペット、大変そうだね」


「でも、光先輩かっこいいんだよね…!トランペット、うまいし、なんか良い匂いするし!ビンタは怖いけど、私痛いの平気だし、頑張る!」

「何でビンタされる前提なんだか…」


ーーそう、せっかくの部活動、せっかくのトランペット、それから…せっかくの、神東くんと同じ部活なのだ。頑張るほかはない。


さくらは、新入生体験会を思い出す。清子と2人で吹奏楽に行き、さくらはすぐにトランペットに決めた。その場で入部届を記入して、楽器を選ばせてもらって、体験会はあとは先に吹いていて良いと言われたのだ。音が出るのが珍しいから、才能あるよ〜などと煽てられて、気持ちも上がっていた。


端っこの方でもらった運指表と睨めっこしながら吹いていると、パーカッション、いわゆる打楽器のところに、神東がいるのが見えたのである。


さくらは驚愕した。てっきり運動部に入ると思っていたが、まさか吹奏楽部に見学に来ているとは。音楽に興味があるのか、それとも一緒に来ている神東の友人に無理やり連れてこられたのか。


真相は分からないが、内心、祈るような気持ちで願った。どうか、どうか同じ部活に入部しますように…!!


ーー到底、付き合っているとは言えないような関係かもしれない。手紙で、やりとりをするだけ。時折目があって嬉しくなるだけ。話すことも、笑い合うこともほとんどない。


だが、それでも好きなものは好きなのだ。

気持ちに嘘をつくことはできない。


みんなの前で、同じ場に入ろう、と声をかける勇気もない。ただ祈ることしかできないことに歯痒さを感じながらも、じっと誰にもわからないように心の中で祈り続けた。



その甲斐あってか、そんなことは関係なくか、神東は吹奏楽部に入部していた。楽器はパーカッション。トランペットのすぐ後ろに位置する楽器隊で、さくらは合奏のたびに後ろから聞こえてくる神東の音に気持ちが高鳴っていた。



高校生になってからは、さくらはスマートフォンを買ってもらえた。今までは必要がないとされ買ってもらえなかったし、事実習い事をしていると連絡を返す暇もなかったので、特に必要性を感じていなかった。


だが、流石に高校生になったので、必要不可欠だと思い、買ってもらうことにしたのだ。神東と連絡先を交換したいが、なかなか声をかけることができずにいた。


ーーーーー


「神東くん!連絡先交換しとこ〜!」

「あ、はい!」


個人練習中、そんな声が聞こえてきて、はっとする。

あれはパーカス(※パーカッションのこと)の、内山先輩だ。


「えー!神東くん、待ち受けウサギなの?かわいい〜!」

「実は、ウサギを飼っていて…」

「めっちゃかわいいじゃん!名前は?」


そんな和気藹々とした声が聞こえてきて、さくらの心は大荒れ波模様だった。


「ウサギ、飼ってたなんて知らない…。それに、連絡先交換、ずるい…!」

先輩だから仕方がないことは分かっている。私もパートの先輩方とは連絡先を交換しているし、当たり前のことだろう。しかし、そのもやもやとした気持ちはなかなか晴れず、さくらは個人練習に没頭するしかないのであった。



しかし、それで終わるさくらではない。

その日の練習が終わり、音楽室を片付けた後、つまり周りがまだガヤガヤしているタイミングを狙って、神東に話しかけることにしたのだ。


「神東くん」

「え!?どうした?」

さくらが話しかけてくるとは思わなかったのだろう神東は、明らかに驚いていた。だが、反対にさくらは全く動揺を表情に出さないように気を付けていた。


「スマホ持つようになったから、連絡先交換しとこ?」

「あ、あぁ、連絡先ね!分かった、ちょっと待って」

急いでスマホを出してくれる神東くんを見て、さくらはほっと胸を撫で下ろした。


「あ!うさぎだ、可愛いね」

「マロンって言うんだ、昔から飼ってる」

ここぞとばかりに同じ話題を振ってみる。あまりにも幼い独占欲だとは思うが、これであの先輩と同等だ。


連絡先を交換していると、音楽準備室から神東君の友人の男子生徒たちが戻ってきてしまった。

「え!和泉さんもスマホ持ってたんだ!交換しよ〜!」

「なら俺もついでに登録しといて」


1人は清子と同じく小中学校と同じ学校だった坂山(さかやま)くん、確か楽器はテナーサックス。

もう1人は初対面の…

「中野っす。トロンボーンの。よろしく」

「あぁー!金管パートでたまに一緒にやるよね、和泉です、よろしく」



そんなやりとりをしていると、終礼の時間となり、「じゃあね」と解散することになった。

荷物をまとめて清子と由美と合流する。


前を歩いていた神東くん、坂山くん、中野くんがわちゃわちゃと何か話しながら帰っている。主に元気に動いているのは坂山くん、中野くんがそれに反応するように「お前なぁ」と声をかけていて、神東くんはその2人に絡まれるような形で関係性が成り立っているようだった。


「あの3人って、仲良いよね」

さくらがそう言うと、

「三馬鹿って感じ〜?」と由美が呆れた顔をする。

「学力的には賢そう。でもずっと馬鹿っぽいことしてるね」と清子も由美に同意見のようだ。


「特に神東くんなんか、何考えてるのか分かんないしさ〜」

「え!?あ、そ、そうかなぁ」


由美の発言にさくらがドキッとしたのを見過ごさなかったのは清子だ。

「…そう言えば、昔、神東くんとさくらちゃんが付き合ってるって噂が絶え間なくあったけど…あれってどうなったの?」とにやにやした顔で聞いてくる。


「うぇ!?い、、いやあ…あはは」

「な、なに〜!?さくら、それって事情聴取してもいいやつ!?」

「だ、ダメじゃないけどさ」

「よし!今日…は遅いから、明日の放課後カフェで事情聴取ね!けってーい!!」

「いえーい」


かくして、翌日さくらは興味津々な由美と清子に、カフェに連行されるのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ