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その後


 目が覚めると、見慣れない天蓋が目に入った。慌てて飛び起きると隣の椅子でジェラルド様が寝ていることに気付いた。起こした方が良いのかそっとしておいた方が良いのか迷っていると、ジェラルド様がゆっくりと目を開けた。ジェラルド様は私を見るとすぐに抱きしめた。


「あの、ジェラルド様?」

「もう少しだけこのままでいてもいいか?」

「は、い」


少しすると、ジェラルド様は私から離れて外で待機してくれているユーリを呼びに行ってくれた。

仕度をしてこの部屋で軽く朝食をとると、ジェラルド様はオーガスト様とダミアン様とお兄様を連れて戻ってきた。ジェラルド様と向かい合ってソファに座るとユーリがお茶を淹れてくれた。皆、普通に過ごしているけれど、やはり気になったので聞いてみた。


「あの、今さらなのですが、ここはどこですか?」

「王宮に準備してあるオリビアの部屋だ」


そういえば、王妃様が部屋を準備しておくと言っていた。もう準備が終わっているとは思っていなかったけれど。


「他の生徒たちはどうしているのですか?」

「王都に実家や親戚の屋敷がある者はそこへ泊まって、他の者は被害の少なかった騎士寮へ泊まっている。騎士志望の生徒のうち数名が怪我を負ったが医務室で治療を受けて今は回復したそうだ」

「そうでしたか。良かったです」

「安心しているところ申し訳ないが、シュライト子爵の処刑が決まった」


ジェラルド様は真っ直ぐ私の目を見つめる。仕方がない。学園を混乱させて、次期王太子妃になる私を攻撃しようとしたのだからそれだけでも重罪になる。だけど、レベッカはどうなるのだろうか。父親に協力し魔獣の卵を大量に学園内に持ち込んだ。それでもすごく重い罪だ。だけど、私情が挟まっているのは承知の上で言わせてほしい。


「レベッカは命を張ってわたくしを庇ってくれました。どうか、処刑だけは逃れられないでしょうか」


少し震える声でそう言うと、ジェラルド様は私の頭にそっと手を置いた。見上げると、深く頷いて目元を緩めた。


「レベッカ・シュライトはシュライト子爵の洗脳状態にあったことが分かった。実際に洗脳の魔術をかけられていた。魔術自体は強力なものではないが、日常的に心を支配されていたせいで解けることはなかったようだ。そのため、レベッカ・シュライトは爵位を剥奪し1年間監視をつけることになった。その後問題がなければ平民として過ごせることになった。受け入れ先は王都にある平民街だ」


それなら良かった。あの街ならレベッカは幸せになれるだろう。それにしても、一晩でこんなに話が進んでいるなんて優秀な人が多いのだなと思っていると、ジェラルド様だけでなくこの場にいる全員が信じられないような顔で私を見てきた。

どうやら私は5日間も眠っていたらしい。原因はレベッカの傷の止血に魔力を使いすぎたことだろう。背中一面についた傷を治すには私の魔力のほとんどを要した。そして、私は治癒にまだ慣れていないため魔力を無駄に使いすぎたのも原因の1つらしい。けれど、その治癒の甲斐あって、レベッカはもうすっかり元気になったそうだ。傷痕もほとんど残っていないらしい。


「ジェラルド様、レベッカに会わせていただけますか?」

「体調は大丈夫なのか?」

「はい。もうすっかり元気です」

「それなら良いだろう」


ジェラルド様と共に王都の離れに移動した。一応罪人ではあるものの、シュライト子爵と同じところへ入れるわけにはいかないため、見張りをつけて離れの一室に軟禁されているようだ。

レベッカがいる部屋の前につくと、見張りのうち1人が扉を開けた。レベッカは窓から外の景色を眺めている。ゆっくり部屋に入ってそっと声を掛けると、レベッカは驚いたように振り返った。そして立ち上がって真っ直ぐ私の目を見つめた。この前とは違ってちゃんと光の籠もった瞳で。その瞳からは罪悪感と心配が溢れていた。ああ、やっぱり優しい子なんだ。


「本当に、申し訳ありません」

「洗脳されていたのですから、仕方ありません」

「オリビア様がお目覚めになられて本当に良かったです」

「心配をかけましたね」

「本当に、あの場面でわたくしを助けるなんてオリビア様はもう少しご自身を大切にしてください」

「それはわたくしの台詞です。あんな無謀な真似、もうしないでください」

「あれは体が勝手に反応しただけです」


なんだか2人してお互いを怒っているのが可笑しくて顔を見合わせて笑ってしまった。こんな言い争い、レベッカとはしたことがなかった。リゼリーとは時々ケンカをしてしまうことがあってもレベッカは私に反対意見を言うことはなかった。あれも洗脳のせいだったのだろうか。


「オリビア様、差し出がましいようで申し訳ないのですが、監視が問題なく終わればオリビア様の侍女として仕えさせてはいただけませんか?」

「それは嫌です。わたくしはレベッカとはずっと友達でいたいと思っているのです。侍女になってしまえばレベッカは従事する立場になってしまいます。絶対に嫌です!」


レベッカは何も言い返さず、ただ残念そうな顔をした。私は微笑んでレベッカの目を見た。


「と、言いたいところですが、条件付きで承諾いたします。1つ、公私をきっちり分けて今まで通り時々一緒にお茶会をしてください。2つ、無茶な真似はしないでください。3つ、これらの条件を破らずに生涯仕えること。守れますか?」

「はい!ありがとうございます!」


レベッカの表情は明るくなって大きく頷いた。まあ、ユーリが休暇を取るためにも信用できる侍女が必要だったからちょうどいいけれど。



私が目覚めてから7日が経った頃、久しぶりに学園へ戻った。寮や後者の修理はすっかり終わっていたけれど、明日から夏季休暇に入るため今日は宿題を受け取って寮の荷物をまとめたらそれぞれ学園を出る。私も荷物をまとめて馬車が混む前にセルヒオと合流して学園を出た。

馬車に乗って実家へ向かいながら外を眺めた。


「姉上、明日も王宮へ出向かれるのですか?」

「はい。でもその前にアレンたちに会いに行きます。セルヒオも一緒に行きますか?」

「ご迷惑でなければ是非」

「迷惑だなんて思いません」


そういえば最近、セルヒオがよく王宮へついてくる。狙いは王宮図書館だ。王宮図書館へ行くには王宮で働く者か王族の許可がいる。私越しにジェラルド様から許可をもらって、セルヒオは図書館で本を読み更けている。私は、整えられた自分用の部屋に荷物を運んだり家具の配置を決めたりと使いやすいように整え直している。正直、そのままでも問題はなかったけれど王妃様に王宮勤めの侍女たちとのコミュニケーションも兼ねてと言われているためなるべく実家と配置を似せている。その方がユーリも楽だろうし。


屋敷へついて自室に戻った。


この7日間、毎日王宮へ行ってもジェラルド様と会ったのはたったの2回だ。しかも同じ日の昼と夜だったので会えた日数でいうと1日だけだ。それだけ執務がお忙しいらしい。明日もきっと会えないだろう。



翌朝、アレンたちに会うためにアルデアート義兄様の屋敷を訪れた。お姉様が最近体調を崩されていたようなのでお見舞いも兼ねての訪問だ。


「今、なんと?」

「わたくし妊娠してるの」

「そうではなく、双子とおっしゃいましたか?」

「ええ。双子よ。夏の間には生まれるだろうって医者に言われたわ」

「おめでとうございます、お姉様。双子が生まれるなら、さらに賑やかになりそうですね」

「そうね」


お姉様と会うのは春以来だったため、妊娠していることは知らなかった。ナターリエのときは安定期に入ってすぐに教えてもらったけれど、双子は無事に育つか分からないからギリギリまで隠していたそうだ。


あまり負担にならないようにと早めに切り上げて王宮へ行くことにした。王宮について、ジェラルド様の側近に許可を取ってセルヒオは図書館へ行った。

私は注文していた家具が届いたようで、自室へ向かった。届いた家具はベッドのサイドテーブルで、椅子もそこに合わせて置く。とりあえず、部屋の模様替えは終了だ。

ユーリ以外の侍女たちには下がってもらって、机に持ってきていた夏休みの宿題を広げた。3ページ分だけ進めて、今日は魔法具の研究室へ行く。


セルヒオの実父で私の叔父様が働いているところだ。他にも叔母様やお父様の従兄弟も働いている。魔法具研究室の文官はハインレット家出身の者が多数いる。高い魔術を持つ我が家は同時に研究好きも遺伝されているようだ。私も勉強好きは遺伝なのかもしれない。


「オリビア、よく来たね」


叔父様が出迎えてくれると、見覚えのある若い文官と目が合った。紺色の長髪と瞳の青年。アンディス伯爵家次男のレオン様だ。


「レオン様もここに勤めていらっしゃったのですね」

「はい。ヨゼフ様に声をかけていただけたので」


叔父様の推薦なんだ。まあ、あの記録の魔法具はすごく好評だったから叔父様が勧誘したくなる気持ちは分かる。研究室を一通りまわって、図書館に用があるらしいレオン様と一緒に図書館へ向かった。


図書館に入るとセルヒオは山積みの本の横でずっと長編の物語を読んでいる。シリーズ物で持ち出し出来ないからと王宮図書館に通っているようだ。それにしても、130巻もある本をよく読もうと思うなと少し感心してしまう。私ならそんなに長いと知ったら読む前に辞めそうだけど。

レオン様がクロースにほしい資料の一覧を見せると少し待っていてくださいと言って2階へ上がっていった。


「レオン様は最近、ジェラルド様にお会いしましたか?」

「会っておりません。エドワード殿下は視察と称して顔を出されますけれど、ジェラルド殿下はお越しになられませんから。それがどうかしたのですか?」

「わたくしもここ毎日王宮へ通っているのですが一度しかジェラルド様にお会いしていないのです。もしかしたらご無理をされているのではと思いまして」


エドワード殿下に比べて、ジェラルド様付きの文官は少ない。エドワード殿下の執務室には殿下付きの文官と妃であるハンネマリー様とハンネマリー様付きの文官がいる。

対して、ジェラルド様は婚約者である私はまだ未成年で執務を手伝えないし、私付きの文官なんて今のところいない。そもそも文官は学園を卒業して春になるまでの間に決めるものだ。ルーディンクは文官として働けるくらい優秀ではあるけれど他の仕事がある。だから、必然的に1人1人の仕事量が多くなる。臨時で文官を雇ってしまえば、守秘義務のある執務を任せることは出来ないから忙しい中余計な気を張らなければならなくなる。

私が執務を手伝えればいいけれど、未成年が執務を行うなど前代未聞だ。


うう〜と唸っていると、レオン様が仕方なさそうに笑った。


「そんなに殿下が心配でしたら、オリビア様が執務室へ様子を伺いに行ってはどうでしょう?」

「そんなことしたら、殿下の邪魔になってしまいます」

「そうでしょうか?でも、無理して倒れるくらいならオリビア様が止めた方が結果的には執務への影響は少ないと思われます」


確かに、それはそうかもしれない。だけど、ジェラルド様に邪魔だと思われたくない。そんな感情が交錯したけれど覚悟を決めた。背に腹は代えられない。ジェラルド様の健康のためにも無理していないか様子を見に行こう。大丈夫そうなら私はすぐに立ち去ればいい。

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