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5大公爵家のお茶会


 夏季休暇前の最後の休みの日、私とお父様は陛下直々に呼び出されて王宮へやって来た。

馬車から降りると陛下の側近が待っていて、陛下の執務室まで案内された。執務室の中に入ると陛下が側近達は外に出るようにと言ってクロースと私とお父様とジェラルド王子、そして陛下の5人だけになった。

そして、念には念を入れるためか杖を出して執務室全体に盗聴防止魔法をかけた。


「ウェスタート国王から、礼とバロケイン族の今の状況についての報告が送られてきた」


陛下の言葉にゴクリと唾を飲み込んだ。緊張感の走る執務室で陛下は低く重い声で話し始めた。


「まず、私からウェスタート国王へバロケイン族が助けを求めているかもしれないという話をしてすぐに事実確認が行われたそうだ。そして、最近力を付け始めた地方の子爵家に調査が入った。子爵家はバロケイン族の生き残り又は子孫を捕らえて奴隷のように扱っていたそうだ。そして、子爵は優秀な彼らが反逆しないようにと彼らの親兄弟を人質に取っていたそうだ」


親兄弟を人質に奴隷のように扱うって。

ゾッと背筋に冷たい何かが当たったようなそんな気分で少し視線を落とした。

けれど、陛下の話す声が少し軽くなった。


「だが、ウェスタート王国には奴隷禁止令がある。そのため、子爵家は処刑され捉えられていたバロケイン族は国王に保護されて、その後詫びとして男爵の地位と屋敷を与えられたそうだ」

「男爵の地位を与えられたということは、もう、大丈夫なのでしょうか?」

「ああ。バロケイン男爵家は王族の庇護下にあるとウェスタート国王が宣言したそうだからな」


陛下の言葉に安堵すると、隣に座っていたクロースが少し目に涙を浮かべた。


「祖母の未練も果たせたでしょう。本当に、良かった」


私もクロースをみていると涙が出てきそうになったけど、なんとか堪えて笑顔を作った。

そして、陛下が盗聴防止魔法を解いて側近を部屋へ入れるとクロースは席を外した。私にはまだ話があるらしい。

再び陛下の方を見て座り直した。


「今度、ウェスタート王国から留学生が来る」

「留学生、ですか?」

「ああ。ウェスタート王国の第三王子だ。本当は夏季休暇前に留学に来る予定だったが、バロケインのことがあり少し予定を遅らせて夏季休暇明けから来ることになった」

「そうなのですか。ですが、どうしてわたくしにそのようなお話をされるのですか?王子の婚約者として何かもてなしをしなければならないのでしょうか?」


王子の婚約者ってやっぱり大変だよなと思ったけど、そうではないらしい。


「その必要はない。それより、オリビアはウェスタート王国の言葉を話せると聞いている。第三王子も側近もアーデストハイトの言葉を話せないわけではないが咄嗟に分からないこともあるだろう。そのときにすぐに通訳出来るようになるべく第三王子と共に行動してくれないか?」


陛下の言葉に思わず首を傾げそうになった。だって、私はジェラルド王子と婚約しているため、第三王子となるべく共に行動するというのはあまり外聞が良くない。たとえ、私とジェラルド王子の間に恋愛感情がなかったとしてもジェラルド王子に婚約の申し出を断られたヘルベンド嬢とオトメーラ嬢やその周りは黙っていないだろう。


「外聞の心配は必要ない。第三王子はジェラルドと同い年で同じクラスになる予定だ。オリビアは休み時間などでジェラルドと第三王子に付いてくれれば良いのだ」

「そういうことでしたか」

「ちなみにこれは頼みであって命令ではない」


つまり、断っても良いと。

正直言うと、レベッカやリゼリーと休み時間は過ごしたい。けれど、せっかく身につけた外国語をやっと使える機会が巡ってきた。通用するかどうか使ってみたい。私は笑顔で陛下の顔を見上げた。


「わたくしで良ければ、喜んでお引き受けします」

「そうか。それは助かる」


嬉しそうな陛下とは裏腹にジェラルド王子はどこか不満そうに見えるのは気のせいだろうか。気のせいということにしておこう。



それからあっという間に夏季休暇に入った。

今年の休暇は初めから忙しい。なんて言ったって、5大公爵家の令嬢が集まるお茶会をすることになったのだ。

今回は、サーズリーク家からは最近十歳になったばかりのハンネマリー様の妹のマーガレット様がご出席されるそうだ。

他は学園祭のときと同じ方だ。

お茶会が開かれるのは、王宮のお茶会室だ。お茶会と並行して当主達も集まるらしいので、王宮で行われる。

お茶会に同席出来るのは侍女だけなので、今日はユーリがついてきてくれた。


王宮のお茶会室に公爵令嬢が5人揃うと少し緊張感が走った。

今回の主催はジュディゲータ家のアンリエッタ様だ。

アンリエッタ様がお茶を飲んでお菓子を1つ食べて皆に勧めるとお茶会が始まる。

静かに微笑みながらお茶を飲んでいると、ヘルベンド公爵家のユリアンネ様と目が合った。目が合ったのに無視するのは印象が悪いと思いながらも、何を話せば良いかと少し考え込んでいるとユリアンネ様がフフッと薄いピンクの髪を揺らして笑った。


「オリビア様、お気を遣わないでください。わたくしは1年生の頃に既に殿下にお断りされていますし、婚約の申し出も父が勝手にしたものですから」

「そう、だったのですね」

「はい。それに、わたくしにはわたくしを慕ってくださる方がいますから」


ユリアンネ様は明るい水色の瞳を細めて、白い肌を桃色に染めた。そっか、両想いの人がいるんだ。

私はまだ恋って気持ちを知らないけど、ユリアンネ様の表情から幸せだと伝わってきた。


「その方とはご婚約をされているのですか?」

「いいえ。彼はわたくしの護衛騎士でお父様に婚約のお許しをもらえていません。ですが、絶対にお許しをいただくつもりです。わたくし、後悔したくはありませんから」


ユリアンネ様の瞳には強い意志が籠もっていた。

こんなこと思うのは、失礼かもしれない。けれど、私よりユリアンネ様の方が王子の婚約者に向いていると思った。私にはこんなに公爵令嬢としての矜持はない。私はジェラルド王子の婚約者として恥ずかしくないようにもっと公爵令嬢としての自覚と誇りを持たなければならない。社交から逃げたらダメだ。


「ユリアンネ様は素敵ですね。わたくしも、ユリアンネ様のような淑女になれるように頑張ります」


ユリアンネ様は少し驚いたような顔をしてすぐに笑みを浮かべた。


「オリビア様は王子の妃になるのです。わたくしよりももっと素敵な淑女になってくださらないと殿下が困ります」

「精進します」


お茶会が進んでいくと、話題は婚約の話で持ちきりになった。

ここにいる者のほとんどはもうすでに婚約をしている。ユリアンネ様とマーガレット様以外は婚約をしている。

アンリエッタ様は騎士を多く輩出する侯爵家の次男と、グルカトス家のバイオレット様はウォーレット公爵家の長男と婚約をしている。

ウォーレット公爵家は5大公爵家に含まれてはいない北部に領地を構える公爵家だけど、領地が大きくウェスタート王国の国境があるため外交が盛んな地域だ。

ちなみに、アンリエッタ様は婚約者が婿入りするがバイオレット様は婚約者に嫁入りするそうだ。


「オリビア様は休日はどのようにして殿下と過ごされているのですか?」

「殿下とお兄様が一緒に剣術のお稽古をしているのを見学したり、その後に一緒にお茶をしたり、殿下のクラヴィスに合わせて歌ったり、婚約する前と特に変わりません」

「レーベルト様もいるということは、逢引ではないのですか?」


バイオレット様は不思議そうに首を傾げた。

そっか。普通の婚約者は逢引をするものなんだ。そういえば、お兄様も時々クリスティアナ様と湖へピクニックへ行ったり、クリスティアナ様の屋敷に出向いてお茶をしたりしていた。

だけど、私はハインレットの屋敷にジェラルド王子を招いたことすらない。


「いつも、お兄様と殿下とわたくしの3人というのは変なのでしょうか」

「いつもなのですか?」

「お兄様がいないときは王宮に出向かないので」


当然のように言ったけれど、側近までもが少し驚いた表情をしている。私は驚かれていることに驚いてユーリに視線を向けた。ユーリはいつも通り微笑んでいる。


「ユーリ、わたくしは変なのでしょうか?」

「いいえ。殿下が会いたいとも会いに来てほしいとも申していないのですから、お嬢様が行かなくてもおかしくはありません。それに、会いたくなれば殿下は屋敷へやって来るでしょう」

「確かにそうね。それに、3日に一度も会っているもの。これ以上会う頻度を増やす必要もありませんね」


ユーリは大きく頷いた。だけど、ここにいる他の令嬢や側近たちは私の結論に納得がいかないような顔をしている。


「オリビア様は殿下を慕っておられないのですか?」

「慕っていますよ。とても尊敬できる方だと思っております」

「いえ、そうではなく、1人の殿方として」

「わたくしは懸想がどのような気持ちなのかまだ分かりません」

「そうでしたのね。てっきり殿下に懸想されているとばかり」


アンリエッタ様の言葉に皆が頷いた。どうしてそう思われているのか分からない。思い当たる節もない。

まあ、女子あるあるだと思う。前世も仲の良かった男女は付き合ってるんじゃないかって噂されてた気がするし。


お茶会がお開きになるとそれぞれ父親と帰っていく。私はお父様が少し仕事があると言うので暇潰しに中庭で剣術の稽古をしているお兄様とジェラルド王子のところへ行った。


「どうした?ジェラルド。もう負けを認めるのか?」

「まだだ」


今日はお兄様とジェラルド王子が対決していて、アルデアート様はそんな2人を見守っていた。

私はアルデアート様のところへ行って、2人の戦いぶりを見る。


「お茶会は終わったの?」

「はい」

「アンリエッタは上手くやっていたか?」

「はい。さすがアルデアートお義兄様の妹ですね」

「そう言うと、アンリエッタは怒るだろうな」

「確かに、怒られてしまいそうです」


笑って、2人の方に視線を戻した。


「それにしても、やはり魔法を使わず木剣だけで戦うとなるとお兄様の方が優勢ですね」

「まあ、殿下は騎士の訓練を受けられないからな。それに、レーベルトは元々身体能力が人並み外れている。体格にも恵まれているし、騎士団の中でもレーベルトに並ぶ腕の者は一部だ」

「お兄様がそんなにお強いとは知りませんでした」

「オリビアの護衛騎士のジークハルトはさらに強いけどね」


それはもっと知らなかった。

正直、護衛騎士なんて必要あるのかと思うくらい私の周りは平穏だ。だから、ジークハルトが戦っている姿なんて見たことがない。アルデアート様の父親で騎士団長のノーバート様のお墨付きだから優秀だということは知っていたけれど。

話しているうちに稽古が終わったのか、お兄様とジェラルド王子がこちらへやって来る。すぐに2人の側近がタオルと飲み物を手渡した。


「オリビア!来てたなら声をかけてくれればいいのに」

「お兄様達が集中されていたので見学していました」


そう言ってお兄様から、ジェラルド王子に視線を移した。


「殿下、もしよろしければ今度わたくしと逢引してくれませんか?」


そういった瞬間、王子は飲んでいた水でむせてしまって慌てて王子の背中をさすった。少し落ち着いたのか、タオルで口元を拭いて私の顔を見下ろした。


「どこか、行きたいところはあるか?」

「今度王都の平民街でお祭りがあると商人に聞きました。そちらに行ってみたいです」


つまり、お忍びだ。当然、王子の護衛騎士であるオーガスト様はすぐに反対した。ダミアン様は王子の反応を伺いつつ私に考え直すように言う。けれど、王子は分かったと頷いて自分の側近たちの方を見た。


「国民の行事を視察することで、何か問題点が浮き彫りになるかもしれない。行く価値はある」

「ですが、平民街では護衛も堂々と付けられないのですよ。どうかお考え直しください」

「父上に許可を得られなかったら行き先を考え直そう。オリビア、それでも良いか?」

「もちろんです」


オーガスト様に睨まれたけど、私の代わりにユーリが睨み返してくれている。私は自分が平民街に行きたいという気持ちもあるけれど、それだけじゃなくて王子にも楽しんでほしいという思いもある。だから、今回は大目に見てほしい。



数日後、ジェラルド王子から届いた手紙には、今回はお忍びではなく視察として訪れるため護衛騎士と側近をすぐ側に控えさせることと、平民に貴族や王族に対する良い印象を与える行動をすることを条件に陛下から許可が下りたと書かれていた。日時は3日後だ。

早く3日後にならないかな。

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