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学園祭 2


 お兄様といるうちに気づいておくべきだった。

ジェラルド王子と2人で学園祭を回るって、まるで私、これじゃあまるでジェラルド王子とデートしてるみたいじゃん。

正確には、デートじゃない。

ユーリとジークハルトとジェラルド王子の側近もいる。

けど、他の人から見たら私とジェラルド王子がデートしている様に見えてしまうかもしれない。


貴族の婚約者同士のデートは側近が付くことも多々あるし。

そういえば、さっきから周りの視線を感じる。

妹同然に思ってくれているとしても、少しは気を遣ってほしいものである。


「あの、殿下。どちらに向かわれているのですか?」

「私の友人が所属している研究室だ。兄上もその研究室へ通っていたそうだ」

「まあ、エドワード殿下が?ということは魔法具の研究室ですか?」

「ああ」


校舎内に入ると、外よりもたくさんの生徒がいてさらに注目を浴びる。

もうこの際、開き直って気にしない方がいい気がする。

私は顔を上げて堂々と胸を張って、ジェラルド王子の後をついていく。

研究室は校舎にある渡り廊下を渡った先の北棟にあるらしい。


魔法具研究室と書かれた扉の前に着くと、ジェラルド王子の側近が扉を開けた。

すると、紺の長髪に同じ色の瞳をした長身の男が出迎えてくれた。


「あ、ようこそ殿下!いらっしゃってくださったのですね」

「評判が良いようだからな。見に来た」

「ご覧ください。あれ?そちらのご令嬢は?」

「レーベルトの妹のオリビアだ」


男は私の方をじっくり見て笑顔で頷いた。


「ああ。貴方が。噂には聞いております。私はレオン・アンディスと申します」

「オリビア・ハインレットです。いつも兄がお世話になっています」


レオン様はアンディス伯爵家の次男だろう。

お父様の仕事仲間の外交文官でアンディス伯爵家長男のエリック様から少し変わり者の次男がいると聞いたことがある。

言われてみれば容姿も似ている。

エリック様は髪が短く眼鏡をかけているため少し印象は違うが、兄弟と言われればなんとなく分かる。


「オリビア様、何か気になる魔法具はございますか?」

「小さい頃に一度見たことがあるものなのですが、遠く離れた者と会話をする魔法具ってありますか?」


レオン様は小さい魔法石のような魔法具を2つ私の手に置いてみせた。


「これですね。2つで一対になっている魔法具で片方に魔力を込めて喋るともう片方の魔法具から音が出る物です。これは、距離指定があるので基本的に同じ屋敷内で使用されるものです」

「そうなのですか」


実は何気に気になってたことがやっと分かってスッキリした。

そんな魔法具だったんだ。

スマホみたいに便利なものなら皆が持ってそうなのに持ってないからなんでだろうって思ってたけど、距離に指定があるなら納得だ。

他に気になる魔法具がないかと訊かれ、一冊の本を指した。


「こちらは魔法具なのですか?ただの本にしか見えないのですが」

「使ってみますか?」

「はい」


本を開くと、ページいっぱいに大きな魔法陣が描いてあった。

そっと魔法陣に触れて少しだけ魔力を込めると、魔法陣が光ってゆっくりと回って空中へ浮かんだ。

驚いて魔法陣を眺めていると、レオン様に次のページをめくるように言われめくると浮かんでいた魔法陣は消えて、そのページにも魔法陣が描いてあった。

また同じように魔法陣に触れて少し魔力を込めると、魔法陣が光って空中にさっきの私達の姿が映った。


これってさっきの魔法陣が録画したのをこの魔法陣が映写してるってこと?


「これはすごいな。動いた姿をそのまま記録して、見ることもできるなんて」

「卒業生の研究者にも手伝っていただいて、7年かかってやっと完成させた魔法陣です。エドワード殿下もお手伝いくださったと伺っております」

「兄上も?卒業生としてか?」

「はい」


ジェラルド王子は、エドワード王子が自分の代わりに次期国王と決まってただでさえ少ない自由を奪ってしまったと罪悪感を抱いていたけれど、好きな研究に参加されているようで安心したのだろう。

少しだけ、表情が緩んだように見えた。


「この魔法具は見開き2ページで一対です。なので、記録できる回数は全部で15回分です。記録がいっぱいになっても、どこかの記録を削除することでまた繰り返し使うことも出来ます」

「そうか。では、購入したいと思う」

「え、購入出来るのですか?」


私が慌てて王子とレオン様の方を見ると2人とも、少し驚いたような顔をした。


「もちろん出来ますよ。ここで購入してもらうことで、私達は次の研究資金を貯めることが出来るのです」

「そうでしたのね。なら、わたくしも一つ購入したいです」

「ありがとうございます」


ユーリと王子の側近がレオン様にお代を支払うと、レオン様が一冊ずつ魔法具の本を手渡した。

お姉様へのお土産にしよう。


魔法具研究室を出て、他にも色んな研究室を回った。

空が茜色に染まっていく頃にはもう帰る時間だ。

お兄様とジェラルド王子が馬車を停めてある門の前まで歩いて送ってくれる。

学園祭二日目の明日は騎士を目指している生徒が集まって広場で剣を持って舞う剣舞と、その他の生徒がそれぞれ学園内で磨いた魔法を使って行うパレードがある。


何よりの目玉はその後に行われる後夜祭の舞踏会だ。

基本的に12歳から学園の3年生までの貴族しか参加できない舞踏会で、生徒の婚約者であれば特別に参加することが出来るが参加しないことが多い。

そのため子供だけの舞踏会と呼ばれている。


「オリビアは明日も来るのだろう?」

「はい。お兄様と殿下が剣舞にもパレードにも出られないと聞いて残念ですが、見てみたいと思っていたので」

「舞踏会には参加するのか?」

「いいえ。お兄様が婚約してしまわれたので、婚約者のいないわたくしにをエスコートしてくださる方がいませんもの」


ダンスは踊り慣れて結構上達したけれど、特別好きではない。

むしろ、初対面の人と踊るというのは気まずいからなるべく避けたい。

お兄様が婚約してくれたお陰で断る口実が出来たのはとても嬉しい。

私は残念というように眉をひそめて笑みを浮かべる。

あからさまに舞踏会へ行かなくて嬉しいと表情に出してしまうとお兄様からお母様へ伝わって怒られてしまうかもしれない。

だけど、お兄様はそんな私の意図は知らず、本当に残念に思っていると受け取ってしまったらしい。


「エスコートなら、ジェラルドにしてもらえば良いだろう?」

「お兄様、わたくしは舞踏会に参加するつもりはございません。ですから、殿下はご友人や大切な人と舞踏会を楽しんでくださいませ」


失礼します、と挨拶をして馬車に乗り込んだ。

危ないところだった。

ジェラルド王子があそこで頷いていたら、絶対断れずに舞踏会に参加することになっていた。

ホッと胸を撫で下ろしてうちへ帰った。


整髪料を落とすために、湯浴みをする。

予定より早く帰ったため、お湯がまだ沸いていなくてそれを待つ間アクセサリーを取っていってもらう。

「愛らしい姿」ね。

明日はどのドレスを着ようかな。



翌朝、(あけぼの)色とパステルカラーの青を基調とした生地の昨日よりもボリュームを抑えた少し大人っぽいドレスを選んだ。

髪はパーマのような癖を付けて軽めの整髪料で固めている。

右耳の上の方だけ少し取って編み込んで、パステルカラーの青のリボンで結んでいる。


昨日に負けず劣らず気合の入っているユーリを見て微笑んだ。


「似合っていますか?」

「はい!とてもお似合いです!それにしても、お嬢様に可愛くしてくださいなんて頼まれるのは初めてですね。元々お嬢様はとてもお美しいですけれど、何か心境の変化でもございましたか?」

「褒められるのは誰だって嬉しいものでしょう?」

「そうですね」


ユーリはそれ以上何も訊かずに、支度を始めた。

パレードも剣舞も午前中にあるため、そろそろ学園へ向かわなければならない。


ジークハルトが既に馬車の前に待機してくれていて、ユーリと一緒に玄関へ向かう。

侍女長が扉を開けてくれて、ジークハルトにエスコートされて馬車に乗った。

早く学園に着かないかなと浮かれる気持ちを静めて深呼吸をする。


「オリビア様、どうかされましたか?」

「なんでもありません」

「それなら良かったです」


学園に着いて、馬車を降りて校舎へ向かう。

私は学園からパレードと剣舞の招待状が来ているため、席が設けられている。

広場を見渡せるところにある校舎のバルコニーに5つの席が用意されている。

5大公爵家の12歳以上の令嬢の席だ。

そのため、私がここに来るのは初めてだ。


5大公爵家とはヘルベンド公爵家、グルカトス公爵家、サーズリーク公爵家、ハインレット公爵家、ジュディゲータ公爵家の総称だ。


ヘルベンド公爵家。代々宰相をしている家系で、次女のユリアンネ様がジェラルド王子と同い年で婚約を申し出ていた。

グルカトス公爵家。魔力が強く、騎士を多く輩出する家系で、王妃様のご実家でもある。長女のバイオレット様は私の1つ年上だ。

サーズリーク公爵家。エドワード王子の妻で王太子妃であるハンネマリー様のご実家でもある。医者を多く輩出している家系だ。サーズリーク家は12歳以上の令嬢が他にいないため、特別にハンネマリー様が参列される。

ハインレット公爵家。三属性を多く輩出するための、複雑な魔法を得意とする。お父様は文官だけど、叔父様はその三属性を活かして魔法具の開発をしている。

ジュディゲータ公爵家。お姉様が嫁いだ家でアルデアート様のご実家でもある。言わずもがな騎士を多く輩出している。アルデアート様の妹であるアンリエッタ様はジェラルド王子と同い年で、既に婿入りを予定の侯爵家の次男とご婚約されている。


正直、アンリエッタ様とハンネマリー様とは季節の度に顔を合わせているため少し気が楽だけど、ユリアンネ様とバイオレット様は挨拶程度しかしたことがない。

親同士の会合はあるけれど、全てお兄様に請け負ってもらっているため正直顔を出したことはない。


それにしても、真ん中に誰が座るか決めておいてよ。

どこに座ればいいか分からないんだけど。


「ハンネマリー様、中央のお席へお座りください」

「わたくしですか?」

「王太子妃なのですから、当然です」

「分かりました。失礼します」


そうすれば、自然と私とアンリエッタ様がその両隣に座ることになる。

王太子妃の隣は信頼できる者で固めるのが普通だ。

側近たちに誘導されて親交の深い私達が隣に座ると、ユリアンネ様がアンリエッタ様の隣、バイオレット様が私の隣に座った。


私とハンネマリー様はドレスだけど、他の3人は制服のため少し目立ってしまう気がする。

ハンネマリー様の陰に隠れる気分でパレードが始まるのを待つ。


「オリビア様、素敵な髪型ですね」

「ありがとうございます、ハンネマリー様。これは、木でできた筒に髪を巻いて髪を乾かす魔法具で温風を当てて型を付けた後、整髪料で固めているのです」

「わたくしも今度やってみようと思います」

「きっとお似合いになりますよ」


ハンネマリー様はありがとうございます、と優しく微笑んだ。

すると、ちょうどパレード開始の合図が聴こえてきらびやかな衣装を身にまとった学生たちが広場へやって来る。


最初は火属性の光の魔力を持った人たちの演技らしい。

優雅に舞を踊りながら、一緒に光を散らしている。

すごい。光が掴めそうで掴めない。

光に視線を奪われていると、ブワッと炎が上がった。

真っ赤な炎と青い炎が渦巻いて空にアーチを作った。

次は水属性の魔法を使った演技だ。

下から水が噴き上がってくると、瞬時に凍った。

そこにツルが巻き付いてくる。

土属性の演技は連続で始まるらしい。

ジンジャークッキーのような土人形が出てきて、ちょこちょこ歩いていく。

すると、風属性の学生が土人形を浮かせて宙を歩かせる。

ここから属性混合のパレードが始まるらしく、他の学生たちは向こうへ歩いていった。


花吹雪と共に数人の学生が中に浮かんだ。

風の魔法だろう。

その中に、エレオノーラを見つけた。

エレオノーラは私に気が付くと小さく手を振ってくれて私も振り返した。


「そういえば、フォティリアス嬢はオリビア様の従姉妹でしたね」

「はい。けれど、お友達でもあるのですよ」


微笑むと、ハンネマリー様も優しく微笑んだ。


エレオノーラたちは宙で回ったり舞ったりしながら、氷の粒や光の粒を出している。

まるで、妖精のように綺麗で見惚れてしまう。

エレオノーラたちが通り過ぎていくと、水しぶきが上がってそこに光が舞う。

すると、虹ができた。


虹を見上げていると、下からハッ!という声が聞こえてきた。

どうやら剣舞が始まるようだ。

広場には騎士の正装を身にまとった学生たちがいて、同時に剣を振り上げる。


そして、全ての動きを揃えた剣舞を披露すると最後に前にいた2人以外が捌けて広場には2人になった。

何が始まるのだろうと思っていると、2人は剣を置いて魔法で作り出したであろう、光る剣を出した。


そしてその剣を素早く振ることで光の残像で綺麗な模様を作った。

その光の剣が消えて、学生2人が礼をすると拍手が鳴り響いた。


「わたくしも、あんな素敵な演技をしたいです」


目を輝かせてハンネマリー様の方を見ると、少し困ったような笑みを浮かべていた。

すかさず、アンリエッタ様が少し身を乗り出して私の顔を見た。


「オリビア様がパレードに参加したら、ここが空席なってしまいます」

「あ、でも、ハンネマリー様のようにお姉様に代わってもらえば」

「レナーティア様はもうジュディゲータ家へ嫁入りしていますので、ハインレット家として出席は出来ません」


なんで5大公爵家が座ってなきゃいけないの?

王族が観覧すればいいのに。

まあ、王族に一番近い貴族だから忙しい王族の代わりにって意味もあるんだろうけれど。

叔父様に娘がいれば代わってもらえたけれど、生憎叔父様の子供は3人とも男の子だ。


「我慢を強いられるのは貴族令嬢の宿命ですよ」

「そうですね」


パレードと剣舞が終わると、学生たちは夕方から始まる舞踏会への準備に取り掛かった。

ほとんどの学生が制服のため、令嬢たちはドレスに着替えて化粧をしたり髪型を整える時間も必要だ。

私は早々に帰るつもりだったけれど、研究室に顔を出すために来校していたエドワード王子とハンネマリー様と学園内にある温室でお茶会をすることになった。

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