表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/37

学園祭 1


 騎士団と日程を合わせて、今日は護衛騎士をスカウトしに来た。

ここで決める護衛騎士は基本的に大人になっても共に過ごすことになる。

そのため、父親が信用できる者を選ぶのが通常だ。

けれど、お父様は娘息子に甘いため私が自分で選びたいと言うとすぐに許可してくれた。


騎士団の訓練場に着いて馬車を降りると待ち構えていたように若い騎士から30代くらいの騎士までがズラリと並んでいた。

皆の圧がすごくて馬車から降りるのを躊躇いたかったけれど、ルーディンクがそれを許してくれず渋々馬車を降りた。

そして、ゆっくりとスカートの裾を摘んで挨拶をした。


「本日は時間を割いていただきありがとうございます。わたくしはハインレット公爵家次女のオリビアです」


顔を上げると、アルデアート様の父親で騎士団長のノーバート様が笑顔で出迎えてくれた。


「優秀でちゃんと言うことを聞く騎士たちを集めたから好きに選んでくれ」

「ありがとうございます。けれど、わたくしはもう決めているのです」

「そうだったか。この中にいるか?」

「えっと、」


並んでいる騎士たちの顔を見た。

文通をしていたエレオノーラを通して様子は聞いていたけど、実際に会うのは5年ぶりだ。

お祖父様の屋敷へ行っても、学園は全寮制のため顔を合わせる機会がなかった。

ただ、騎士としては相当優秀で王宮騎士団でもその実力は認められているとエレオノーラが自慢気に言っていた。


騎士たちの中に、見覚えのある顔が一人いた。

エレオノーラと同じオレンジの髪に栗色の瞳の綺麗な青年。

私はその青年の前へ歩いて手を差し出した。


「ジークハルト、わたくしの護衛騎士になってくださいますか?」


従兄弟であるジークハルトとは5年前に約束をした。

私が一方的に覚えていただけかと思ったけれど、ジークハルトも覚えてくれていたようだ。

少し驚いたように目を見開いた後、笑みを浮かべて自分の胸に拳を当ててしゃがんだ。

そして、もう片方の手を私の手に重ねた。


これは最大級の忠誠を誓うときの仕草だ。


「もちろんです。私を選んでいただきありがたき幸せです」

「これから、よろしくお願いしますね」

「はい」



護衛騎士になったからと言って四六時中一緒にいるわけではない。

屋敷にいる間は護衛は必要ないため訓練をしていてもらう。

ちなみに、お兄様は護衛騎士をつけていない。

必要がないとお父様に直談判して、護衛騎士をつけない許可を得たらしい。


とりあえず、護衛騎士が決まったため、お父様に報告するために日程を合わせた。


「では、3日後よろしくお願いします」

「はい」


ジークハルトに手を振って馬車に乗って屋敷へ帰った。

自室へ戻ると、ユーリが今日届いたという手紙を持ってきた。

手紙はジェラルド王子からのもので、封を開けると手紙と一緒に1枚の厚紙が入っていた。

招待状?


『アーデストハイト王国貴族学園学園祭 招待状

側近含め3人以内での来校を許可する』


早速ジークハルトに連絡を入れておかないと。

主の予定が優先されるとはいえ、ジークハルトの予定を完全に無視するのは少し気が引ける。

ユーリにジークハルトに伝達してもらえるように言って、手紙を読んだ。



 秋に入って昼も少し涼しくなってきたが体調は崩していないか?

学園祭の準備が始まって学園内はとても賑わっている。

私とレーベルトは寮の有志で演劇をすることになったせいで練習で大忙しだ。

正直、こんな劇のどこが良いのか全く分からない。

出来るのであればオリビアに代わってほしいと思いながら練習している。


そういえば、去年はオリビアがフォティリアス領へ行っていて学園祭には参加していなかったから一応忠告しておく。

学園祭で浮かれた男に声を掛けられても無視をしておけ。

それと、あまり綺麗な格好をしてこないように。』



いつもより、結構短い手紙から忙しさを感じる。

それにしてもあまり綺麗な格好をしてこないようにってどういうこと?

意味が分からずにユーリに訊ねると、わざとらしく頭を抱えていた。

そして、何か閃いたように少しだけ口角を上げて表情を引き締めた。


「お嬢様、学園祭当日はとびきり美しい姿で向かいましょう」

「え?あ、はい」


ユーリの有無を言わせない顔に頷くことしかできなかった。




あっという間に学園祭の日がやって来た。

学園祭は2日間あって、初日は舞台発表やそれぞれの研究室の発表などがある。

私は招待状を持ってユーリとジークハルトと共に馬車でアーデストハイト王国貴族学園へ向かった。

学園の門を通った辺りで馬車を停めるところがあり、そこから校舎までは徒歩で向かう。


普段、こんな距離を歩くことはないけど学園の生徒は皆寮から校舎まで歩いているんだよね。

全然歩ける距離なのに馬車を使うのが貴族だけど、学園内では体力をつけるためと生徒全員が馬車で移動すると混んでしまうという2つの理由があり基本的に徒歩で移動する。

それか、移動用の魔法具を使うこともあるそうだ。


魔女みたいにホウキで空を飛んだりするのかな?


「皆様がお嬢様の美しさに見惚れて振り返っていますね」


ユーリが嬉しそうに笑う。

私は顔を上げて辺りを見回す。

確かに、他の人たちがやけにこちらを気にしている。

こんなに注目を浴びるなら、あまり気合を入れた格好をしてこなければ良かった。

絶対、学園祭なのに気合入れすぎだと思われてる。


今日の服装は金木犀のようなオレンジが入った黄色を基調としたドレスで、スカートの裾には秋の代表的な黄色い花の刺繍が入っている。

袖や胸元には赤みが強いオレンジのフリルがあしらわれていて、アクセサリーと髪飾りもそのフリルに合わせている。

ハーフアップを複雑に編み込んだような髪型だ。


ユーリ、気合入れすぎだよ。


「お嬢様、堂々と胸を張ってください。お嬢様は誰よりも美しいのですから」

「ありがとう、ユーリ」


どっちにしろ、公爵令嬢なんて目立つんだから今さら気にしても無駄だよね。


私は劇を観るために講堂へ向かった。

招待状には席まで書かれている。

招待状兼観劇券ってことかな。

書かれている席を探すと、講堂の一番前のど真ん中の席だった。

ジェラルド王子、そんないい席取らなくても良かったのに!


心の中でため息をついて座った。

右隣にジークハルト、左隣にユーリも座る。

今日は本当はルーディンクにもう1人の護衛としてついてきてもらおうと思っていたけれど、ユーリが「お嬢様をお守りするのはわたくしです」ときっぱり言ってついてきた。

正直、ユーリも護身術というか武術は強い。

けれど、護衛は騎士でもない限り女性を付けるのは普通ではない。

まあ、ユーリが気にしないなら全然いいんだけど。



「お兄様たちの劇は一番初めなのですね」

「はい。エレオノーラも出演するそうです」

「ホント?わたくしの手紙には書いてなかったのですけれど」

「レーベルト様にお聞きしましたから」

「なんだ。そういうことでしたか」


どんな劇かは見てのお楽しみって言われてまだ全く聞かされていない。

そろそろ始まるのだろうか。

ドキドキしながら舞台を観ていると、1人の学生が舞台の真ん中まで歩いた。


そして、これから劇が始まることを告げるとすぐに去っていた。

学生が舞台袖に完全に隠れると、舞台の分厚いカーテンがめくられる。

そこには青い髪の美女………?

女性にしては体つきががっしりしているような。

もう一度よく見てみると、それはジェラルド王子だった。


思わず声を上げそうになったけど、何とか堪えて劇を見る。


『あるところに、とても美しい令嬢がいました。令嬢の名はジェラルディンと言い父親の再婚相手である義母にいびられて、部屋から出ることを許してもらえず侍女すら付けてもらえません。父親である男爵は忙しくいつも家を空けていてジェラルディンは1人部屋に引きこもっていました』


令嬢もとい王子は木の枠から顔を覗かせてため息をついた。


「こんな家、早く出たい。誰か、わたくしを救い出してくれる方はいないかしら」


演技上手っ!

けど、声が低すぎて見た目と台詞に合っていない。

見た目は本当に美しい令嬢なのに、声が明らかに男の声。

違和感がすごい。


『ある日、いつも通り窓から外を眺めていると庭師の青年と目が合った。庭師の青年もジェラルディンも一目で恋に落ちた』


ジェラルディンの部屋は外に出られないように窓には鍵がかかっている。

恋に落ちても何もできない。

少しの苛立ちを覚えた頃、エレオノーラが部屋へやって来た。

エレオノーラは食事を運ぶ侍女の役らしい。


「あの、これを庭師の方に渡してはいただけないでしょうか」

「庭師というのは、最近入ったジョンのことですか?」

「ジョンというのですね。お母様には内緒でそのジョンという庭師に渡してください。お願いします」

「かしこまりました」


エレオノーラも王子も演技が上手すぎて、本当の侍女と令嬢に見えてきた。

舞台が一度暗くなって場面が変わった。

王子の代わりにお兄様とエレオノーラがいる。

エレオノーラは手紙をお兄様の手に渡した。


「これは、ジェラルディンお嬢様からです。くれぐれも奥様のいないところでお読みください」


エレオノーラはそそくさと歩いて舞台袖に戻った。

お兄様は少し歩いて椅子に座って左右と前後を確認して手紙を読む。


「庭師の貴方へ伝えたいことがございます。わたくしジェラルディン・キャンベルは貴方に一目惚れしました。叶うならば、あなたにこの家から連れ出してほしいと願います。どうか、わたくしの願いを聞き入れてくれないでしょうか」


お兄様は手紙を読み終えると、すぐに舞台袖にはけた。

そして、また舞台が暗くなって場面が切り替わった。

ジェラルディンが窓から外を眺めている。


『庭師ジョンは屋敷に現れなくなり、ジェラルディンはひどく落ち込んだ』


だけど、またお兄様が舞台へ出てきた。

今度は執事服を着ている。


「お嬢様、失礼します」


王子はお兄様を見るとすぐに抱きついた。

なんか、お兄様と王子がハグしているのは、あまり見ていていい気分にはならない。

クリスティアナも見ているとしたら少し複雑なのではないだろうか。

王子が女装していなかったら何も思わなかったかもしれないけれど。


「お嬢様、ここからすぐに抜け出しましょう」


そう言って、お兄様は王子の手を取ってその場で足を上げて走るように見せる。

背景が少しずつ動いていて、本当に走っているように見える。


途中で義母役の令嬢が出てきて、王子とお兄様は足止めを食らうがエレオノーラが助けてくれて2人は屋敷を抜け出せた。


『義母はエレオノーラによって夫である男爵にジェラルディンへの仕打ちを告げ口されたため、離婚を言い渡され、家を抜け出せたジェラルディンとジョンは幸せに暮らしました』


最後に演劇に出演していた役者が全員舞台へ上がってきてそれぞれお辞儀をした。

ジェラルド王子はもちろん淑女のお辞儀をする。


演劇が終わると、講堂の横の広間へ出た。


「最後の場面のエレオノーラはすごく格好良かったですね」

「そうだな」

「わたくし、エレオノーラを好きになってしまいそうでした」


ジークハルトは笑って私の後ろを指した。

私が振り返ると、少し赤く頬を染めたエレオノーラが立っていた。

少し恥ずかしそうにありがとうございますと言うと優しく微笑んだ。


「ジェラルド殿下とレーベルト様がオリビア様をお探しになっていましたよ」

「分かりました。ありがとうございます」


エレオノーラは友人の方へ行って、私はユーリとジークハルトと共にジェラルド王子とお兄様を探した。

すごく目立っていたお陰ですぐに見つかったけれど、話しかけたくないな。

少し躊躇っていると、お兄様が私に気付いてこっちへ歩いてきた。


私は笑みを浮かべて挨拶をする。


「ジェラルド殿下、お兄様、お久しぶりです」

「久しぶりだね、オリビア。私の演技はどうだった?」

「素晴らしかったです。劇もとても面白かったですよ。それにしても、殿下はもう着替えてしまわれたのですね」


もう少しちゃんと見たかったのに、ジェラルド王子は制服に着替えていた。

男子の制服は紺色のズボンに黄色いボタンのついた紺色のベストだ。白いブラウスの襟の部分には紺色のラインが入っている。

冬はこれにマントも羽織る。

なかなか格好いい制服だ。


微笑んでジェラルド王子の方を見ると、じっとこちらを見つめていた。


「なんでしょう?」

「オリビアが喜ぶとレーベルトに言われて女装をしたけど、本当に喜んでいたのかと思って」

「はい。とても素敵でした。けれど、いつもの姿の方が落ち着きます」


そう言って微笑むと、王子は少し屈めて私に顔を近付けた。


「オリビアは、ちゃんと私の手紙を読んだのか?」

「読みましたしお返事も書きましたよね?」

「ああ。だが、いつも以上に綺麗な装いをしている様に見えるのは気のせいか?」

「………気のせいです」


嘘です。うちのユーリってば、全力でおめかししてくれました。

けど、どうして綺麗な格好をしちゃだめなのか理由が分からなかったし。

少し拗ねたのがバレてしまったのか、お兄様が私の肩に手を置いた。


「ジェラルドはオリビアが可愛い格好をして声を掛けられると困ると思って言ったんだよ。な?」

「ああ。オリビアはただでさえ美しいというのに、どうして自覚もなくその様に愛らしい姿で来てしまうんだ」

「あ、ありがとうございます」


少し胸が鳴って、顔が熱くなるのを感じた気がした。

ジェラルド王子の顔を見るのがなんだか少し恥ずかしくて、お兄様の後ろに隠れた。


「オリビア、今日は私が学園祭を案内しよう。くれぐれも1人にならないようにな」

「はい」


お兄様はクリスティアナ様と一緒に回るらしく、その場で別れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ