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来訪


 ジェラルド王子に手紙を送った数日後、私はアルデアート様の屋敷へ遊びに来ていた。


今日は学園の休日でお兄様とジェラルド王子の剣の稽古をするためにアルデアート様は不在だ。

私は6歳の甥っ子のアレンと3歳の姪っ子のナターリエとお庭で一緒に遊んでいた。

お姉様はそんな様子を見守りながらお茶を飲んでいる。


「オリビア!見て!蝶がいる!」

「オリビアさま、このお花はなんというのですか?」


アレンもナターリエも私の手を引いて庭のあちこちを指さす。

本当だね、と笑ったりこのお花はね、と教えたり少し大変だけど可愛い甥と姪に懐かれるのはとても嬉しい。


しばらくして、遊び疲れたのかナターリエはうとうととしはじめた。

ナターリエの侍女頭が寝室まで運んで行って、アレンもお勉強をすることになった。

アレンの隣で私も読書をする。

クロースにおすすめされてから、すっかり恋愛系の物語にハマってしまった。


「オリビア、それ面白いの?」

「はい。素敵なお話がたくさんあって飽きないのです。アレンも読んでみますか?」


本を開いて見せると、嫌そうに顔を背けた。

残念ながらアレンはあまり読書や勉強が好きではないらしい。

アルデアート様の願い通りかは分からないけれど、騎士志望だ。

騎士にも勉学は必須だとお姉様に言われて、頭をひねりながらも頑張って勉強している姿が愛おしくて本を読むふりをして見守っていた。

すると、お姉様の側近が部屋に入ってきて耳打ちをした。

お姉様がにっこりと笑って問題ないわと側近に答えると側近は忙しそうに部屋を出ていった。


何か用事が出来たのかな?

私は本を閉じて、お姉様の前へ歩いた。


「ご用事が出来たのなら、わたくしはお暇しましょうか?」

「大丈夫よ」

「そうですか」


しばらくして、アレンが勉強を終えてこちらにやって来て、勉強で疲れたから遊ぼうと誘われた。

疲れたなら普通休憩するんじゃないの?と思いながらもいいですよと答えて部屋を出た。

お姉様は来客があるからと部屋で待機している。


来客があるなら私は帰った方がいいんじゃないかと思ったけどアレンの相手がいた方が楽なのだろう。


「オリビア、かくれんぼしよう」

「そうですね。では、どちらが隠れますか?」

「私が鬼するから、オリビアは隠れて」

「分かりました。では、30数えてください」

「分かった」


アレンが後ろを向く前に応接室と逆方向へ走った。

来客があるのなら、こっちの方で遊ぶ方が良いだろう。

アレンが見えなくなってから、大きいカーテンの裏に隠れた。

しばらくして、足音が聞こえてきた。

見えないから、使用人なのかアレンなのか分からない。


徐々に足音が大きくなって、ザッとカーテンが開けられた。


「見つけた!」

「アレンは探すのが上手ですね」

「オリビアが隠れるのが下手なんだよ。次は私が隠れるからオリビアは目瞑って30数えて」

「はい」


私は目を閉じて壁の方を向いて大きな声で30数えた。

数え終わって目を開けて、アレンを探しに行った。

流石に自室はないだろう。

多分今は掃除をしている時間だ。

廊下を探して、階段を下りて階段裏を探してもいない。

アレン、足が速いしもしかしたら庭に出たかもしれない。


庭に出て、アレンを探しているとすごく豪華な装飾をされた馬車が門から入ってきた。

って、あの馬車は王族の馬車の筈だ。

来客ってまさか王族の誰か?

こっそり除いていると、馬車からジェラルド王子とアルデアート様とお兄様が降りてきた。

なんでジェラルド王子がここに?

驚いて固まっていると、後ろから袖を引かれた。

振り返ると、虫を自慢気に持ったアレンがいた。


「オリビア見て!幼虫だよ!」

「アレン、それ持って近付かないでください!」

「なんで?可愛いだろ?ちゃんと見て!」


アレンは虫を持ったまま私を追いかけてきた。

慌ててアレンから逃げていると、いつの間にか来ていたお兄様がアレンを抱っこして捕まえた。


「騎士になりたいなら、怖がらせてはいけないよ。騎士は誰かを守るためにいるのだからね」

「お兄様!」


アレンは少しシュンとして虫を芝生に返して使用人と一緒に手を洗いに行って戻ってきた。


「ごめんね、オリビア」

「分かってくれれば良いのです。アレンはきっと強い騎士になれますよ」

「ああ。私、オリビアの護衛騎士になれるように頑張る」

「楽しみにしています」


早速稽古を始めるらしく遊びは終了だ。

暇になったなと思ったけど、お兄様は私を見つけて呼びに来ていたらしく一緒に応接室へ行くことになった。

ジェラルド王子が用があったのはお姉様ではなく私だったそうだ。


応接室の前で待機していた侍女がドアを開けてくれて、お兄様の後ろをついて中に入った。

ジェラルド王子と目が合うと睨まれてしまった。

私、何か怒らせるようなことしたのかな?

席についてジェラルド王子と向かい合って座った。


完全に怒ってる。めちゃくちゃ睨んでる。

いつもクールで無表情なのに、これだけ分かりやすく表情に出てるってことは相当怒ってるってことだよね?

気まずくてこの場から今すぐにでも逃げ出したいと思っていると、隣に座っていたお兄様とお姉様と反対側に座っていたアルデアート様がそっと席を立った。

私はすぐにお姉様とお兄様の袖を掴んで置いていかないでと目で訴えた。

お兄様もお姉様も私の肩に軽く手を置いて部屋から出ていった。


そして、この部屋はジェラルド王子とジェラルド王子の護衛騎士と側近と私の4人だけになった。


「ダミアン、オーガスト。2人とも席を外せ」

「婚約していない男女が2人きりになるなんて外聞がよろしくありません。同席の許可を求めます」

「レナーティアやアルデアートやレーベルトがオリビアの外聞が悪くなるようなことを口外する筈がない。私はオリビアと話があるのだ。もう一度言う。席を外せ」


側近は護衛騎士に促されて渋々席を外した。

何やってるの?もっと食い下がってよ。

これじゃあ、本当にジェラルド王子と2人きりになっちゃうじゃん。


恐る恐る王子の顔を見るとやっぱり睨んでいる。

息を呑んで、王子の目を見る。

いつもは綺麗な緑の目にも怒りが籠もっている。

心当たりはないけれど、こんなに怒らせたのならまずは謝らないとだよね。


「あの、殿下。お気に障ることをしてしまったなら申し訳ございません。ですが、わたくし心当たりがないのです。何がいけなかったのか教えていただけないでしょうか」


少し声が震えてしまったのが分かったのだろう。

殿下は睨むのをやめて椅子から立ち上がると私の隣に来た。


「どうして震えている?」

「殿下が怖いお顔をされていたので、怒らせてしまったのかと」

「それは、すまない。君が私を嫌いになったと思うとどんな顔をすれば良いか分からなかった。私は怒ってなどいないから安心してくれ」


頷いて王子の顔を見ると相変わらず無表情だけど、その目には少しの罪悪感が籠もっていた。

そんなことより、今、私が王子を嫌いになったって言った?


「わたくし、殿下のことを嫌いになってなどおりせんがどうしてそう思われたのですか?」

「急に文通を辞めようだなんて言い出されたら、嫌いになったと思うだろう?」

「それは、」


お父様に他の令嬢との婚約話が上がっているジェラルド王子との文通を続けていると令嬢たちによく思われないと言われたことと、文通を続けたいのであればジェラルド王子と婚約しなければならないと言われたことを話した。


王子は納得したように頷いた。

そのことを手紙に書かなかったのは、書かなくても分かると思っていたし文通を辞めたところで王子がこうやって押しかけてくるなんて思っていなかったからだ。

王子は私が思ってた以上に私のことを大切に思ってくれているらしい。

私もお姉様やお兄様に嫌われたかもしれないって思ったら、押しかけはしないだろうけど落ち込むだろうし。


ただ、王子の落ち込み方はパッと見怖かった。

落ち込んでるようには全く見えなかったし。


「殿下はどちらの方を選ぶか決められたのですか?」

「決めない」

「それは………どちらかが正室でどちらかが側室になるということでしょうか?」

「違う」


この世界って、一応一夫多妻制許されてるんだよね?

国王陛下は側室をと言われたけれど正室の王妃様が一人目で男の子を産んだことで声は小さくなって二人目もジェラルド王子が生まれたため言われなくなったそうだ。

だけど、違うってことは婚約の申し出を断るってこと?


「私はユリアンネ嬢とマーガレット嬢の気持ちには応えられない」

「婚約してから好きになることもあるのではないですか?」

「私は何度もお茶をしたり言葉を交わして好きになろうとした。けれど、無理だったんだ。それに、私と婚約しても誰も幸せになれない。だから、直接断った」


直接断ったってことは学園で?

それなら学園外に噂があまり立たないのも頷ける。

だけど、1つ言わせてほしい。


「殿下と婚約しても幸せになれないなんて殿下が決めることではないです。それは、婚約者になる人が決めることです」


そう言って王子の顔を見た。

王子は少し驚いたように目を見開いて少しだけ口角を上げた。


「そうだな。ありがとう、オリビア」


そんな優しい微笑みは一瞬でまたクールな表情に戻ってしまうけれど、やっぱりジェラルド王子は本当に美しい。

ヘルベンド公爵令嬢とオトメーラ侯爵令嬢が好きになるわけだ。


「とりあえず、私はその2人の婚約を断ったから文通を辞める理由はない」

「あ、本当ですね。では、お父様に許可を得たらまた文通を始めましょう」

「ああ。もうすぐ学園祭の準備が始まるからそれについての詳細を書いて送ろう」

「それは楽しみです」


私が王子を嫌っているという誤解も解けて、ジェラルド王子は側近を応接室へ入れた。

少ししてからお姉様とお兄様とアルデアート様も応接室へ戻って来る。

誤解が解けたことと、また文通を再開することになったと報告するとお兄様はすぐにジェラルド王子の方を向いた。


「まさか、それだけとは言わないよな?」

「何のことだ?」


意味がわからないと王子が首を傾げると、お兄様はため息をついて私の両肩に手を置いた。


「オリビア、こいつはダメだ。いいやつだけど、鈍感すぎて疲れるしいつか傷付くことになるかもしれない。だから、早めに言っておく。ジェラルドはやめておけ」

「お兄様、何をおっしゃっているのかよくわからないのでもう少し詳しく話してください」


私が首を傾げると、お兄様は呆れたようにため息をついた。

お姉様はそんなお兄様を見て笑った。


「オリビアも似たようなものなのだから心配いらないわ。もう少し静かに見守ってあげましょう」

「ですが姉上、オリビアはそろそろ本格的に決めないと」

「そういえば、オリビアは護衛騎士もこれから決めないといけないのよね?いつ決めるのかしら?」

「それならもう決まっております。まだスカウトには行っていませんが」


お姉様は少し驚いたような顔をして、フッと笑みをこぼした。

誰か察しがついているのだろう。

けれど、早くスカウトに行かないとお父様にいかにも騎士って感じの強面の騎士をつけられてしまいそうだ。

日程を組んでもらえるようにルーディンクに伝えておこう。


ジェラルド王子の用件も終わったため、私はお兄様と一緒に屋敷へ帰ることにした。

お昼寝から起きたナターリエと剣の稽古を終えたアレンも一緒に馬車まで見送ってくれた。

アレンとナターリエが私の前に来て、しゃがんで2人の視線に近づけると2人とも私に抱きついた。


思っていたよりも勢いよく抱きつかれてふらついてしまったけれど、すぐ後ろにいたジェラルド王子が支えてくれて倒れずに済んだ。


「ありがとうございます、殿下」

「ああ」


私は2人を抱きしめてからゆっくりと立ち上がった。


「ナターリエもアレンもお姉様とアルデアートお義兄様のお話を聞いていい子にするのですよ。お話を聞かない悪い子がいると聞いたらもうここには来ませんからね」

「やだ。オリビアまた来て」

「オリビアさま、わたくしいい子にしてます」

「私もいい子にしてる」

「では、また来ます」


微笑んで2人の頭を撫でた。

ジェラルド王子の馬車が出てから、私達の乗った馬車も走り出す。

まあ、アレンもナターリエもどこかの誰かと違って勉強から逃げ出したりしないからそんなに心配はないけれど。

お兄様の方を見て、ふふっと笑うとお兄様は不思議そうに首を傾げた。


「そういえば学園祭、何をするのですか?」

「私は有志で演劇に出るよ」

「お兄様、演技なんて出来るのですか?」

「ちゃんと練習するし、台詞も少ないから問題ない」

「どんな劇ですか?」

「それは見に来てのお楽しみだよ」


学園祭は普通の一般的な学園祭と変わらないらしい。

秋の終わり頃にあるからまだ先だ。

楽しみだな。

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