番外編
「ルーディンクとユーリが婚約!?」
それを知らされたのは、大雪で王宮に行けなくなったある日のことだった。
最近17歳の誕生日を迎え、ユーリはエマと同い年になった。
春生まれのエマと冬生まれのユーリはほとんど1歳差だ。
エマは今年の秋に幼馴染の子爵家の三男と婚約が決まった。
そのため、エマはこの冬で私の侍女を引退する。
それはめでたいことだしお祝いしたいけれど、ユーリにまで引退されると年の近い侍女がいなくなってしまう。
「お嬢様、ご心配には及びません。わたくしがルーディンクと婚約したのはお嬢様に一生仕えるためですから」
「えっと、それはどういう?」
私に仕えるために婚約?
理由がわからずルーディンクに視線を向けた。
ルーディンクはフッと笑みを浮かべてユーリの代わりに説明してくれた。
ユーリは秋の終わり頃に父親から自分の仕事仲間の子爵と婚約するように言われていたらしい。
自分の父親よりも少し年上の子爵と婚約するだけならまだ良かったけれど、その子爵から仕事は辞めて家庭に入るようにと言われ婚約をしたくないとエマに愚痴をこぼしていたそうだ。
そして、それを偶然聞いたルーディンクが自分と婚約してはどうかと提案した。
ルーディンクは伯爵家の4人兄弟の末っ子で爵位を継ぐこともないし、ユーリの父親も伯爵家と繋がりができるなら迷わずそちらを選ぶだろう。
『お嬢様にはユーリが必要です』と言って仕事を続けることも否定するどころか推奨した。
そんな経緯を語ってくれたけれど、ユーリもルーディンクも本当にそれでいいのだろうか。
「それで、ユーリもルーディンクも幸せになれるのですか?貴族の婚約は必ずしも幸せになるとは言い切れませんが、わたくしは2人にもエマのように幸せになってほしいと願っています」
2人の顔を交互に見ると、2人とも優しく微笑んだ。
ユーリはスカートの裾を摘んでゆっくりとしゃがんで膝をついた。
そして、私の顔を見上げて自分の胸にそっと手を置いた。
「わたくしは、生涯オリビアお嬢様にお仕えできるということが何よりも幸せなのです」
「それなら良かったです。わたくしもユーリがいるととても心強いですから」
そして、私とユーリが同時にルーディンクの顔を見るとルーディンクは少し困ったような顔をして私達の方を見た。
「私はユーリを愛していますから、婚約できたことが幸せですよ」
「………え、そう、だったのですか?」
ユーリの方に視線を向けると、私よりも驚いていた。
そして、ゆっくり立ち上がってルーディンクの前に行った。
「そんなこと一言も伺っておりません」
「言ったら貴方は断るでしょう?」
「わたくしは隠し事をするような方と婚約した覚えはありません」
「では、これからは隠さずに毎日伝えましょうか?」
「それは遠慮します」
相変わらずクールなユーリだけど、少し早口になっているから動揺しているのが分かる。
私とエマは顔を見合わせて笑った。
「案外お似合いの二人ですね」
「そうですね。ルーディンク、頑張ってユーリの心を掴んでください」
エマの言葉に頷いてそう言うと、ユーリが少し慌てて私の方を振り返った。
「エマもお嬢様も面白がらないでください」
いつもクールなユーリを動揺するということは、少なからずルーディンクを意識しているのだろう。
任せてくださいと微笑むルーディンクにユーリが何か言っている。
けれど、こんなに感情を顕にするなんてユーリはルーディンクに心を許しているのだろう。
2人が両想いになる日もそう遠くはない気がする。