冒険者
「せいやっ!」
新人冒険者である僕、シン・ホワイトはナイフを振るう。
そこは【奈落迷宮】。魔物の原種、【モンスター】が生まれ、生息している場所。
戦いと金の聖地。世界の中心点であり、神が祝福できた数少ない地。
モンスターの脳天には【魔石】が埋まっており、それを砕くと奴らは死ぬ。
しかし、魔石は多くの使用用途があるため、砕かない方が金になる。
そのためも、モンスターの胸部を狙って攻撃しているのだ。
ただ、それに見合った強さはないのだが。
「くっ…………」
今戦っているのは『ゴブリン』。ダンジョン一階層にいる最下級の雑魚モンスター。
しかし、一般人では殺されることもある。今戦えているのは、信仰する神様からの祝福【恵印】のおかげだ。この世界の冒険者や騎士は自分より上の人から力を授かる。
神様の力と言っても万能ではない。ただ能力を補正し、経験したことを実力に還元するという成長の力なのだ。魔法、魔術、スキルの覚醒も促進してくれるらしいけど…………。
僕にはまだまだ縁遠い話だ。僕はまだ最下級のFランク、力なんて早々手に入るものじゃない。
というか…………
(このゴブリン、強い……)
いくらナイフで斬りつけてもダメージは薄皮一枚。
これが僕の実力かよ、と自分に嫌気がさす。しかし、ここは死地。
いくらお金になると言っても死んだら終わり。冒険者は常に死の正面にいるのだ。
「せいっ!」
ナイフで右目を潰し、蹴り飛ばす。これで距離を取った。
「どうすれば………」
(今、僕にできる手段…………)
意を決して、右手に握るナイフを逆手に構えた。
ゴブリンは興奮し、こっちに突撃してきている。それをよく見て、姿勢を低くする。
(来い!)
『キシャシャ!』
一歩、また一歩近付いてくる。そして、僕に攻撃があたる一歩前、僕が距離を詰めた。
「せいやっ!」
ゴブリン自身の速度と体重を利用し、首を刎ねた。
再生が追いつかない緑色の肢体から力が抜けたのを確認し、握るナイフでゴブリンを解体する。
これはいい値で売れそうだ。魔石にも傷がついてないし、爪も異常発達して鋭い。
「四〇○○リルくらいにはなるかなぁ」
期待しながら、僕はダンジョンから脱出した。
ダンジョンの外にある換金所で鑑定してもらい、そのまま換金。
「ゴブリン六体で六○○○リル…いつもよりは稼げたけど、やっぱり一人じゃあこのくらいか」
因みに一日三食(満腹)に必要な額は五○○リル程。そう考えれば気が楽になるかなぁ。
稼ぎのお金を巾着に入れて、トボトボと歩いた先には朽ち果てたボロボロの祠が。
「神様、今日も生きて帰れました」
手を合わせてそういうと、頭の中に声が響いた。
『おぉ、シン。ご苦労じゃった、一人でよくやるものよのぉ』
「僕以外に【ゼウス・クラン】の団員はいませんから」
『すまんのう。儂に事情があるばっかりに』
この気さくなお爺さん――顔は見たことない――が僕の信じる神、ゼウス様。
昔はある程度偉かったらしいけど、今は僕以外の信仰者はいないみたい。
このひょろい身体のせいで【クラン】―――神に【恵印】を刻まれた神の配下(眷属)――に門前払いだった僕を受け入れた神。祠に祈ったから気に入られたらしいけど。
『やはり自分から恵印を受けたいという者はおらんのぅ』
「成長の恩恵はどこも一緒ですけど、ランク上昇時の加護が違いますからね」
『そうなんじゃよなぁ……だから皆有名な神の元に行くし、知名度のない神はこの有様じゃ』
「ですねぇ……」
僕たちの大きいため息が木霊する。
僕は一人で頑張るしかないないけど、流石に下に行けば行くほど辛くなる。
今、僕だけで潜れるのは第六階層まで。それ以下に進出すれば瞬殺されちゃう。
僕たちの大きいため息が木霊する。
僕は一人で頑張るしかないないけど、流石に下に行けば行くほど辛くなる。
今、僕だけで潜れるのは第六階層まで。それ以下に進出すれば瞬殺されちゃう。
『ステイタスはこんな感じな』
【シン・ホワイト】【神ゼウスの眷属】
筋力F(37)持久F(31)体力F(36)耐久F(16)敏捷E(101)器用F(20)
精神力F(17)魔法F(0)
総合ランク【F】
冒険者になって一か月……僕はかなり成長が早い方らしいけど、それも分からない。
因みに基礎ステータスはS(1000)~F(0)まであって、その合計値でランクが決まる。
だから実力以外でランクが上がることはあり得ない。魔法は0………か。
敏捷だけはEに突入している。僕は逃げ足しか取り柄がないのかな。
その速さで神様が言う【ヒット&アウェイ】を実践してるけど、考えること多すぎだよ。
『そういや、【スキル】。発現したぞ』
「そうですかスキルが……ええええええええええええええええええええええええええっ⁉」
『驚き過ぎじゃね? 引くわー』
マジかよ、という声の神様に僕は声を荒げながら、
「いや驚くでしょ! 僕まだFランクですよ⁉ しかも一か月でって………」
『まぁ、早いはわな。だが、言ったはずだぞ。お前には才能があると』
(それはそうだけど、信じてなかったですよ神様!)
―――………神様を信じないって今考えると罰当たりだな僕!
「そ、それで【スキル】は…………?」
『おぉ、儂に【影響され過ぎた】スキルじゃ』
「影響…………?」
ゼウス様って何の神様なんだろう………もしかして、物凄く強くなれるかも?
『スキルの名は、【奴隷恋慕】』
「………え」
(ふぉーえばー…………らぶ?)
なんか、名前だけで分かる。絶対、絶対にまともなスキルじゃない!
『ふむふむ。マジで儂とヘラみてーなスキルじゃあ』
スキル【奴隷恋慕】
恋をする、される程強くなる。ただし、好きな相手のドSな部分と独占欲を引き出してしまうので要注意。一人だけを思うとより強く力は引き出される。応援を受けることで一時的にステイタス超強化補正。想いの力で強くなる。
「…………」
―――マトモじゃなかった…………!
なんですかこれ、【恋】どうこうはまあ、良くないけどいいとして、ドSを引き出すはヤバい。
神様、自分関係だと思えるって、いったいどんな神生送ってきたんですか……!
『シン、お前……好きな女できたのか』
「いませんよ………多分」
「含みのある言い方じゃなぁ、ハッキリせんかいハッキリと」
僕だって年頃の男の子だ、憧れの人くらい居るに決まってる。
だけど、これって好きという気持ちなのかな。もしそうなら、僕の初恋。
『どうじゃ、惚れたんか』
「…………はい」
『ほぉ………誰に?』
「…………【二大美人】の片方、です」
『マジか! それは勝ち目のない戦いじゃなぁ!』
「うっ」
『じゃが、最初から負けた戦いなど存在しない』
「神様……?」
『諦めたら試合終了、ンなワケあるか。戦いは終わるまでわからん、それが恋なら尚更じゃ』
「神様!」
今、初めてありがたみを感じました!
『ただし!』
神様は威厳―というかリアリティ―を見せながら
『女は怖いから気を付けろ!』
「…………はい?」
その時の神様は、実際に経験したかのような雰囲気を纏っていた。
新主人公の名前は【シン・ホワイト】!
アルタイル・アリエルとは違う、英雄になる少年!




