不思議な依頼
灰となったミノタウロスは紫の魔石を落とす。それを拾い、袋に入れる。そして剣を振り払い背中の鞘に剣を入れる。
「ふぅ」
カサカサ。そう動くのは大きなネズミ、《キングラット》の群れ。
「これはチッとばかしキツそうだな」
そう言って俺はもう一度剣を抜く。
「ああっ、流石に多かったな」
ネズミの群れを切り伏せた俺は冒険者ギルドに戻った。
「お願いします」
魔石をカウンターに出すとお金に換金してくれる。
「はい、三万五千○○リルです。」
「ありがとうございます」
(結構金になったな)
「……家宝の試し斬り?」
掲示板に貼ってあった一枚の依頼。
その詳細は書かれていなかったが妙に気になった俺はその依頼を受けることにした。
その紙を受付に提出。冒険者ギルドを出て、馬を借りて目的地に向かう。目的地の村はここから近くて馬車では一時間ぐらいで着く。その間武器の手入れをしようと剣を抜く。今俺が使っている剣は、思ったよりも上物らしく、アリスさん達最前線組が持っている武器と遜色ないらしい。名前通り夜のような美しく黒い刀身の片手剣。もっとも現在は武器と防具、実力が伴っていないのだが。背中の剣帯に納刀して周囲の景色を見る。もはや見慣れてしまったこの景色。しかしどこか好奇心をそそる。しかし今回の依頼である試し斬り、何かある……。普通冒険者ギルドに来る依頼はモンスター関連や遺跡調査など危険な依頼ばかりだ。なので今回のような依頼は衛兵や便利屋の仕事のはずだ。
(やっぱ、なんかあるよな)
ギルドがこの依頼を認可しているということは、その武器が余程のいわくつきか、余程の業物かだが、そんな物を小さな村が持っているのか?という疑問もあり、
「ま、行けばわかることか」しばらく馬車に揺られ。
「えっと、ここかな」
ドアをノックすると、美しい栗色の髪をした少女が出てきた。
「あ、えっと、冒険者の者です」
ぎこちない挨拶をすると少女が
「依頼を受けて頂いてありがとうございます。さ、家に上がって下さい」
「あ、どうも。お邪魔します」
対面のソファーに座り、少女が話し始める。
「お願いしたい武器がこちらになります」
そして机の上に刀を置く。
「これは?」
「その名を《アメノハバキリ》。我が家に伝わる家宝で、伝承では『その刃は天を切り裂き、全てを切り伏せる』と、言い伝えられています」
「全てを……」
「私の先祖はこの刀を使って、この村を救ったと言われています。しかし今では一族は早死にして、残ったのはわたしだけ。刀の技も学んではいるのですが、実戦経験はなく……お願いできますか?」
少女の問いに
「わかりました。引き受けましょう」
依頼されたからにはちゃんと応える。
その刀 《アメノハバキリ》白い鞘と持ち手に金色の装飾が施されている。
庭に出て用意された巨大な丸太の前に立ち、刀を抜く。
「……綺麗だな」
正直な感想だ。その刃にある刃紋もそうだが、刀自身に何か吸い込まれそうな魅力がある。この刀がどうして試し斬りなどしなければいけないかもわからないほど、切れ味は刃を見て分かる。だが、依頼は依頼。やるだけだ。刀術の指南書を読ませてもらったが、剣と同じ様に扱ってはいけないと解った。剣は叩き切る。刀は切り裂く。というように、刀はその薄さから力を込める向きを固定しなければならないそうだ。
「行きます」
右斜めからの一太刀。まるでライトベールのように光を連れた刃は丸太は真っ二つにする。
「想像以上だな」
「……」
少女はその結果を見て、嬉しそうな、後悔してるような、心を押し込んでいるような……。
そんな表情をしていた。そしてこうも言う。
「やっぱり、こんな武器を私が持っているだけでいいのかな……」
「えっ」
俺は彼女の顔を見つめる。彼女は申し訳なさそうに刀を見つめている。
「戦いもしない私が持っていても、それこそ宝の持ち腐れです」
「……」
俺は何も言えない、言ってはいけないのだ。俺が口出しすることじゃない……なのに。
「……よかったら、この刀をもらってはくれませんか?」
「……え?」
「私が持てるものではないので」
俺は……
(この子は、俺と同じなんだ。先祖の重圧に潰され、心を押し殺している)
その時ふと刀を見ると、その刀身に光が走る。その光は少女を指す。
「……」
この子の為に、この子の先祖の想いを。
「……貰えません」
「どうして…?」
「きっと貴女の先祖は俺なんかよりも、貴女に持って欲しいと思います。期待じゃなくて、ただ自分の子供に自分の武器を持って欲しいんじゃないかな、生き抜くすべを持ってほしいのは期待じゃなくて、長生きしてほしいから…かな」
その言葉に少女は言葉を詰まらせる。
「…でもっ」
少女が言いかけた時、ゴーン、ゴーン、と鐘の音がする。そして少女がその音の意味を理解した時、顔から血の気が引く。
「……どうした?」
そしてその意味を答える。
「モンスターの襲撃……」
アルタイルは周囲を見渡す。
「抜け穴か!」