無いと安心しきっていた修羅場
「アルは誰がいいの⁉」
――――どうすればいいんだ?
――――どう答えるのが正解なの?
俺を見つめるアリス。
コーヒーを飲みながらも、チラチラとこちらを見つめるシズク。
顔は笑っているが目が笑っていないセナ。
ここにカインがいれば、俺は泣きついていただろう。
あいつは紳士だからな。
女心を分かっているだろう。
だけど、俺は分からない。
分かっている奴の方が少ないのではないか?
…………今俺にキレた奴がいたら、そいつはよほどの幸せ者だな。
選択をしないでいいのだから。
彼女たちを傷つけないのだから。
…………最近、俺の精神がおかしくなってきたと思う。
アルタイル=アリエルとの境界が、徐々に消えていっていると実感する。
――――俺は、俺だ。
「アル!」
「…………え?」
「聞いていますか⁉」
「え、ああ、うん…………」
「まったく。…………だいたい、お二人がアルに好意を持っているのが疑問です。あの決闘の後、いったい何があったのですか?」
あの後…………?
どうなったっけ…?
「私から話すわ」
シズクの口からあの後が語られる。
◇◇◇
決闘後、私が目を覚ますと
「…………」
「あ、起きたか」
医務室。私は彼に運ばれた。
「…………私は、負けたのね」
「俺だけに、じゃないさ」
「?」
「…………始まりの英雄王、その伝説は知っているだろ?」
…?
「え、ええ……ギルガメッシュ王の英雄譚でしょう?騎士団にも彼に憧れて入団した者は少なくないわ」
「そう。…………お前達二人を倒した俺は、俺じゃない」
「?」
「あれは、ギルガメッシュだ」
「…………?」
何を言っている、そう思った。
「…………俺には、二つの魂がある。アルタイル=アリエルの心と、…………ギルガメッシュの心が」
「…………何を…………言っているの………?」
「……最初に完全顕現したのは半年前の解放戦争最終戦だった。…あいつは、俺の心に迷いがあった時に出てきて、圧倒的な力で女神を追い詰めた」
「女神を……?」
「ああ、そうだ。奴の力は神を超えている。それは君も実感しただろう?」
「…………」
(…確かに、後半の彼はまるで別人のようだった。エクリプスの第三段階にしても言動が違い過ぎるし、髪色も黄金に……信じない方がどうかしてるわね)
「信じるわ。貴方の言葉」
「…………そっか。ありがとう…このことはエイル=ローグ=ペンドラゴン以外には君しか知らない。ほとぼりが冷めるまで、秘密にしておいてくれないか?」
「…………ええ、分かったわ」
(女神を殺した《黒》の英雄。どんな悪役かと思っていたけど、勘違いだったようね)
それにむしろ、私は彼に好印象を持っている。
ああ、こんな気持ちを抱いたのはいつ以来だろう。
というか、こんな気持ちを抱いたことがあっただろうか。
……ない。
生まれた直後に親から捨てられ、教会で育ち、騎士団長になるまで、女の子らしい青春など碌にした記憶がない。
覚えているのは、勉強と訓練の日々。
あの日、王族から結婚相手として提示された彼を私は今日、本当の意味で知った。
彼の目は、慈しむ心の後ろに後悔が見えた。
………彼の戦績は凄まじい。
何に後悔しているのかはわからない。
もしかしたら、人との関わり?
聞いたことがある。《神の泣き声》という事件のことを。
確か、未確認モンスターの襲撃でクランが一つ壊滅したという話だった。
そのモンスター、《ホワイトディザスター》を討伐したのが、彼だったはずだ。
その後、階層ボスをほぼ単騎で討伐した直後にディオン=クリンスと決闘を行った。
「…………色々あったのね。貴方も」
「…………ああ。ありすぎたさ………君も、だろうけど」
「…………正解」
「勘はいいんだ、俺」
「…………私、貴方と結婚してもいいわ」
「…………それは、君の意思か?」
「ええ。私は貴方を手に入れて見せるわ。………彼女に勝ってね」
「…………今のをアリスに聞かせたらメチャクチャ怒るだろうな」
「…………きっとね」
◇◇◇
「私はその時決意したのよ。貴女に勝って、この人を夫にするって」
「…………ほぅ………いい度胸ではありませんか」
(アリス⁉目が笑ってない!)
「私は好意というより、興味の方が強かったのですが………」
天使のその一言でアリスは頂点を超える。シズクと目を合わせ、
「…………負けませんからね」
「こちらのセリフよ」
「というよりアル!」
アリスがこっちに振り向く。
「はい?」
「今の話を聞く限り、アルも満更ではなさそうではありませんか!私と言うものがありながら………!」
「えっ、ええ⁉」
なに!?
「私と初めて会った頃は中々話してくれなかったのに!」
「いや、あの頃は俺も《神々に嫌われた男》とか言われてて曇ってたんだよ!それに折角勝っても入団できなかったし、ちょっと第一印象怖かったし!」
俺の反論にアリスは顔を赤くして
「怖いってなに!?私そんな印象だったの!?」
「だって、攻略の………鬼だったし………それに男ぐらいいるかと………」
「もう!その名前を言わないで!アルだって、あの侍の女の子と仲良かったらしいじゃない!」
「いや、あの子は―――…………」
シズクまでこっちを見て
「…………どういうことかしら?」
と圧をかける。
「だーかーらー、あの子は依頼の時に仲良くなっただけだって!」
因みに侍の女の子というのは《シーナ=アインハルト》のことだ。
あの後手紙のやり取りぐらいはしていたが、その程度の付き合いだ。
「結婚式にも呼ぶつもりだったらしいし!」
「そりゃ、仲いい人は誘うだろう」
「むぅ………」
アリスは顔をぷくっと膨らませる。
「…………それで、私とシズクさん、どっちがいいのですか」
「ちょっ」
今いい感じに逸らそうとしてたのに!?
「確かに、今聞いておきたいわね」
シズクまで………。
「…………俺は、人の優劣を決めれるほどできてない。だけど、いつかは決めて見せる!………多分」
「…………そこで迷わず私の名前を言わないのがアルらしいと言えばらしいのですが、多少なりとモヤッとしますよ、それ」
「そうね………けど、可能性はあるわ。私にも、ね。………そういえば名乗ってなかったわ。私は白雪雫。よろしく」
「………星川鉄也です………よろしく」
「ええ!」
………眩しい笑顔だなぁ。
アリスの目が怖いけど。
………自分で書いておいてなんですけど、選択を迫ってごめん。アルタイル。




