銀狼襲撃
一日目の夕方、小さな村に辿り着いた。
そこには小さな宿屋があり、そこに泊まる。
「宿泊代は十リルです」
「十か……」
家にあったお金は二十五万。まだ余裕はあるが、これからのことを考えると少し心配だ。早く冒険者になって稼ごう。簡易ベッドにランプ。辺境の安い宿屋なので、それ以上を求めてはいけない。次の日、村の外の森に出る。
「あの子は――」
村の外で歩いている時、怪我をした女の子を見つけた。
「どうしたんだ、君は――」
「たすけて、おにいちゃん!」
泣きながら女の子は話し始めた。母親と散歩に出ていた時、シルバーウルフに遭遇してしまったという。その名の通り銀色の狼、爪と牙は鋭く、素早く、群れで活動するモンスター。
ダンジョンから出たモンスターは各地に広がり、暮らしている。
「―――分かった。……お兄ちゃんに任せとけ」
「おねがい……ままを、たすけて……」
村に戻り女の子を預け、事情を説明する。
ある者は狼を恐れ、ある者は狼の怒りを買ったと騒ぎ、またある者は、武器を取った。
「いいんですか?正面から戦おうなんて……」
村のおじさんが剣を握りながら。
「ここは俺達の村だからな、余所者にだけ任せるわけにはいかんのよ」
その男は昔、冒険者だったが才能のなさを思い知り、村に戻ってきたらしい。
「来たぞ、銀狼だ」
白銀の毛に覆われた獣。それに対し、おじさんは片手剣を手に取った。
「盾は……」
「いらん、反応速度と剣速が鈍る」
「…………行きましょう」
神威を引き抜く。武器を見た狼はこっちに突進を仕掛けてくる。
「先陣は俺が切ろう」
男が剣を斜めに振り下ろすと、狼の首が地面に落ちた。
「すごい……」
「まだ来るぞ」
神威を構えて、皮籠手に峰をあててどっしりと構える。
「〝流水絶閃〟」
狼の爪を受け流し、その力を利用して獣を切り裂く。
「やるな、君」
そう言いながら男は右手の剣に力を込める。
「お、おおおおおおッ!」
三体もの狼を薙ぎ払った。すごい……冒険者は、こんなに強いのか……。
二十体程倒した後、大きな影が現れた。
「でかい……!」
「こいつは……《キングシルバーウルフ》……⁉」
大きい。全長六Ⅿぐらいあるんじゃないか……?
「俺が引きつける、そのうちに側面から!」
「任せてください!」
「うおらああああッ!」
神威〝鉄鎚〟!
上段からの全体重を乗せた一撃。
「久しぶりだが、やってやるぞ……!」
おじさんは全身から《闘気》を吹き出した。生命力の塊を剣に乗せて放つ。
「〝剛剣〟!」
「僕も……」
英雄剣術・開闢の構え。
【解鶯閃】!
「まだだ……!」
片手直剣刺突剣技 《ブラスト》。胴体に突き刺して、臓器を抉る。
「もう少し……あっ!」
狼の後ろで倒れている女性――あの子の母親か。
片手剣刺突系突進技 《ヴォーパル・ブレイク》。赤いライトベールの残像を残しながら獣を貫き、女性
の近くに辿り着く。
「この人は、僕が守る!」
その時、僕の中から闘気が溢れ出た。凄まじい勢いで。
闘気を、剣先に集中――。父さん、使うよ。
〝竜技〟 《竜牙突撃》
父さんの得意とした闘気の剣術。膨大な量の闘気を剣先の一点に集中。今の僕では全ての闘気を込めなければ使用できない。練りあがった闘気の渦。
竜の闘気を身に纏い、そのままキングシルバーウルフの心臓を貫いた。
「君、本当に行くのか?せめて夜が明けてから……」
「いえ、余計に止まれなくなったので、急ぎます」
「そうか、あの子には俺から伝えておこう」
「お願いします」
僕はまた、進みだした。夜の中、暗い暗い、夜の中。