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ニューワールド・ファンタズム  作者: 乙川せつ
第一部-ニューワールド編

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48/212

アリス=セーフティリード

「………… ! ……貴様…………〝流川大智〟!」


俺が叫んだその名前は、このゲームの、開発責任者でもあり、原案者でもある男の名だった。

ゲーマーでは知らない者はいない、そう断言できる。フルダイブ技術の基礎理論を提唱し、更に家庭用ゲーム機 《クロノス》にまで小型化した、次のノーベル賞確実と言われていた男。


『…………よく気が付いたものだよ。そして彼女は、この層のボスでもある。そうだ、彼女を倒したら私への挑戦権を与えよう。…………アルタイル君以外の武器の攻撃力をゼロにした。アルタイル君、存分に戦ってくれたまえ』

その直後、ディオン達が倒れた。麻痺、倦怠感、圧迫のデバフをくらったのだ。


「アリス………やめてくれよ…………アリス!」


俺の叫びむなしく、アリスの剣が俺を襲った。


「諦めなさい。アリス=フリューレは、もう死んだのです」


そう言うのは、〝本当のアリス〟。


「今の私は、アリス=セーフティリードですよ」


顔色一つ変えずに剣戟を放つ姿は、まさにプログラム。


「くっ…………」


左右の剣で捌く。しかし、一撃が重い。

そして何より、身体に力が入らない。別に麻痺毒を盛られたわけでもない。

ただ、俺の心が、戦うのを拒否しているだけだ。


―――――――――ここで死ぬのか?


…………アリスは変わらず剣を振るう。


この二年半の記憶が、一瞬で再生される。

遂にアリスの剣が俺の身体を捉え始めた。肉がどんどん削れる。…………いや、肉ではない。

ポリゴンだ。今まで血肉だったそれは、赤く小さな四角片。

ここは、ゲーム。

だから…………俺は、生きて、…………《家族》のもとに、生きて帰るんだ。


「アリス……お前と…………帰るんだ!」


俺は、最初の反撃を放つ。単発技 《ソニックリード》。弧を描いて放たれる斬撃。

アリスの剣を弾いた。


「そ、こだぁあああああ!」


ベールリオンを赤い光が覆う。単発突進技 《ヴォーパル・ブレイク》。

鮮血を引き連れて走る剣先で、アリスの心臓部を狙う。

入った。そう、確信した。

だけど――――――――――――――――――――。


「な、んで…………」


俺の目に飛び込んできたのは、涙を流すアリスの姿だった。

剣を止めてしまった。…………世界の圧力に屈する。〇・五秒の硬直。

しかし、アリスは動かない。剣を振らない。…………その瞳には、涙が。


「…………何故、何故…………貴方を……殺せないのですか…………!」


《アリス》の悲痛な叫び。それは、《あのアリス》と重なった。


「アルタイル=アリエル…………この感情は…………この気持ちは、何なのです…………!」

「…………恋………だよ」


《あのアリス》ならこう言っただろう。そう思い、俺は答えた。


「…………恋、ですか…………《前の私》は、こんな気持ちを抱いていたのですね………創られた存在だというのに」


アリスは、初めて笑った。それは、《自分》を嘲笑う笑み。

それが、俺の心を動かした。


「創られた存在だろうが…………プログラムだろうが関係ないよ。俺達人間の脳から出ているのだってただの電気信号さ。入れ物が機械だろうが、生き物だろうが、本質は変わらない」


「…………そうだ…………」


言葉を繋げたのは、立ち上がったディオン。


「《君》には、何度も危機を救われた…………この四年、《君》は何の為に剣を取った!」


「ああ…………その通りだぜ、旦那」


カインもよろよろと立ち上がり、倒れそうになりながらも。


「アリスの嬢…………恋は、愛は、誰かに縛られちゃいけないものなんだ…………大切なのは、自分の〝意志〟だ。恋は自由フリーダムにってな」


『面白い』


そう言うのは、流川大智。


『彼女はもう君を殺せないだろう…………ならば、こうするのみだよ』


何かしらの操作をしたのだろう。

次の瞬間、アリスの体が動かされる。


「何故………身体が勝手に…………!」


細剣がライトベールに包まれ、アリスの身体が攻撃モーションを起こす。


「…………私では止められませんか…………お願いしますよ、アルタイル=アリエル。私の、愛する人よ」


第一部完結まであと4話。

どうぞ、お付き合いください。

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