ボス戦、夫婦
アリスと結婚してから一週間が経った。
今は二人、俺の家で暮らしている(アリスは今までクランの寮で暮らしていた)。
夕食中。
紅茶を飲むアリスの、宙に流れるような美しい身体を見つめる。
アリスの左薬指に嵌めてある結婚指輪は、結婚の次の日に送った。
来週には結婚式を予定している。幸せだ。心からそう思う。
「……どうかした?」
見つめているのに気付かれ、顔を赤める。
「何か気になるの?」
「…………明日のことさ」
「……うん…………第七十七層ボス討伐戦」
「…………早すぎやしないか?」
「そうだね……確かに、いつもなら三年に一回位だったけど…………」
七十年前、初代《勇者》である爺ちゃんが生まれてから、人間の最低能力値が大幅に上昇した。それまで、ボス攻略戦は数十年に一度だったそうだ。
しかし、最近の冒険者練度が上がってきているとはいえ、ここまで早いとは…………。
「もしかしたら、その分〝ボスが強い〟とかな」
「ただでさえ強いのにねー」
「…………勘弁してほしいな」
グレフリオ・レッドより強いのは確定しているのだが…………。
そんな会話をしていると。
「お届け物でーす」
とドアをノックされた。
「はーい!」
アリスが荷物を受け取る。
「封筒………?」
「誰から?」
「えっと、送り主は団長みたい………」
「ディオン…………開けてみるか」
「うん………そうだね」
受け取った封筒を開き、中に入っている数枚の紙を取り出す。
『まずは、結婚おめでとう。式には呼んでくれたまえ?』
「ぷっ…………」
思わず笑いそうになった。しかし二枚目。
『第七十七層ボスの情報』と記されていた。
「これ、もしかして…………」
絶句するアリスに俺は答える
「ああ、ギルド調査班の報告書だな………読んでみよう」
『報告077 攻略対象、確認できず。』
「…………は?」
「え?」
―――…………ボスが…………いない?
『以後、正体不明のボスを《インヴィジブル》と呼称する。』
「…………インヴィジブル…………」
「見えない敵、か…………苦戦しそうね……」
「ああ、そうだな…………」
三枚目の紙には、ディオンからのメッセージ。
『この通り、現状敵の能力や外見すら分かっていない状況だ。危険だとは思うが、頼む。協力してくれ』
「そこまで言われたら…………」
「断る訳にはいかない、よね」
アリスは仕方ないなー、と言わんばかりにため息をつく。攻略の鬼姫と呼ばれたのはアリスの方なんだけどなー、と思った次の瞬間。
ビュン!
ライトベールに包まれたアリスの手刀が、俺の眼前で停止した。
「…………何か失礼なこと考えてなかった?」
雰囲気が一変したアリスに焦り、
「なにも、なにも思ってない!」
ちょっと前にしたばかりのような会話をしながら…………。
「じゃ、明日の準備しようか」
胸を張るアリスを見て、この人だけは何をしても絶対に守ろうと決心する俺なのであった。
「おう」
最悪の悪夢。




