黒き剣士と剣聖
「…………私と…………デート、しない?」
「……………………えっ?」
俺はたっぷり五秒ほどフリーズした。
もう一度頭を整理しよう。俺はアルタイル=アリエル。《黒き剣士》の称号を持つ、レベル一冒険者。神殺しの異名と、神を恐れさせる色《黒》を押し付けられた剣士。
対して彼女はアリス=フリューレ。《閃光》から《剣聖》へとなったカリスマ。
このアースリア一を争うほどの美貌を持ちながら、レベル七を誇る《マティリス・クラン》のエース。そのレイピアから放たれる剣戟はまさに閃光のよう。そして彼女自身も、光のようだ。
それがどうして…………こうなった。
「……………………駄目?」
(上目使い可愛い…………って、いかんいかん…………カインみたいになるところだった)
あんな大人になってたまるか、そう自制しながら…………。
「ダメじゃ…………ない」
「本当⁉」
(流石に断れないさ…………だけど、どうしようクソッタレェッ!)
二年半ソロをやっていた弊害か、最近女性と話すのがちょっとだけ苦手になってきた。
ちょっとだけだぞ、ちょっとだけ。
「それじゃあ、明日の正午にまたこの公園で!」
上機嫌でその場を去っていく彼女を見ながら、俺は思う。
(…………どうしよう)
「…………とありえず服……」
家に帰っての第一声がそれだった。
実際俺はこの黒いロングコート以外に、以前着ていた父の黒コート、あとは………爺ちゃんの灰色のコートしか持っていない。
そもそも必要なかったので、服屋にすらロクに行っていない。普段着………というか家でしか着ないような服のみ…………。
「ああ、どうしよう…………」
俺は藁にもすがるように、ある喫茶店を訪れた。そこはあいつの行きつけ。
「おっ、アル坊じゃねぇか!久しぶりだな、どうしたんだ、なんか用か?」
「よ、カイン……」
先刻、こいつみたいにはなりたくないと思った男。こいつに頼るしかない。
「……………………なるほどな…………なあ、一ついいか…………」
事情を説明し、俺が意見を待っていると。
「追いかける側の俺が、追いかけられてる奴の思いなんか分かるかぁ!」
「……………………ほぇ?」
「…………すまん、取り乱した。…………で、服がないって話だっけ?」
「お、おう………」
「今言った灰色のローブってのでいいんじゃねぇか?黒よりマシだろ」
「………………そうだなぁ…………確かに、デートで黒はマズいか…………」
俺がそう言うと、カインはうんうんと頷き、耳打ちする。
「それはそうと、お前はどうなんだよ、アリスちゃんのことは」
「はぁ?」
質問の意味が分からず、俺はアリスの印象を語る。
「どうって…………優しくて、慰めてくれて…………頼りになる…………」
「そうじゃなくて、好きなのか、アリスちゃんのこと!」
「好き…………?…………アリスの事が………好き…………、好きなのかもな…………俺」
自分で言っておきながら、心底驚く。まさか自分からこんな言葉が出るとは思っていなかった。
カインは心の中でこう思った。
(うわぁ……無自覚天然かよ……、アリスちゃんは好き好きオーラ全開だけど、こいつは別の意味で危ねぇ
かもな……)
「……………………俺は、アリスが、好き……なんだと思う」
カインは、そんな俺をフッと笑い。
「それでいいじゃねぇか、お前があの子の事を好きだと思ってるならあの子は、きっと答えてくれると思うぜ?」
「カイン……お前、いい奴だよな」
「な、なんだよ、俺はいつも紳士だっての!」
「ああ……紳士、な」
俺達はその後別れ、俺は一人家に帰る。
「……………………寝よう」
ベッドに飛び込み、速攻で寝る。




