剣聖へ
「えっ――――――――――――?」
私が、吸血鬼?
冒険者でずっと……頑張ってきたのに。
魔王に選ばれてしまったからというだけで、殺されるの?
吸血鬼とは、魔王に選定された人間のことである。
魔王ほどではないにしろ、覚醒の種をもつ存在。
「私、殺されるの……?」
「そうだよ。きみは神の御名の元に断罪される。それが救済でもあるんだよ」
自分よりも年下であろう少女―――勇者にそう告げられ、絶望する。
もう、どうしようもない。
逃げられない、勝てない。
どうして、私なの? 魔王を恨めばいいのか、勇者を恨めばいいのか。
それとも、世界?
「あぁ……そういうことか」
絶望した私に、後ろから声がかかる。
「助けに来ましたよ、アリスさん」
「――――――――――……アル……?」
二人の前に現れたのは、黒いコートを羽織る碧眼の剣士。
最強に、最も近い男。
「黒き剣士、アルタイル・アリエル。剣聖救出に参上した」
「アルタイルくん、ここでボクに抗っても……」
「勇者リオン、お前は一つ勘違いをしている。俺がここに来たのは俺だけの意思じゃない……冒険者の聖地、アースリアに暮らす戦士全ての総意だ!」
「なっ――――――――」
「これ以上、俺らの仲間に手を出すなら……相手になってやるぞ、十神聖教共ッ!!!!」
至高の女神に、アースリアの神々とは比較にならない程高位の存在に啖呵を切った。
その蛮族は、最強の荒くれ者たち。
迷宮を駆け抜け、探求し、新たな未知を求める戦士たち。
「勇者リオン……もう一つ。……冒険者を、舐めんじゃねぇ!」
「……そう……。なら、ここで引導を渡すよ。冒険者全てに」
「そうだ、アリスさん」
「……―――――――?」
「今度、一緒に探索行きましょう」
「ええっ……⁉」
(それって、もしかしなくてもデート――――――――――――)
「さあ、いくぞ。勇者……神への願いは充分か?」
「うん、とっくに足りてるよ……ずっと昔からね!」
二人の剣士は互いに抜刀。
獲物は双方共に片手剣でサイズも似通っている。
同じ戦型で勇者に勝てるのだろうか。
いや、大丈夫。
彼は、アルは――――――――――――最強に、勝てる。
「せ…ぁああああああああああああああああああッッッ!!!!」
「ハァアッ!!!!」
闘気と聖気がぶつかり合う。
明らかに違う力同士の衝突。それは火花を生み、空間を歪める。
まだ……ダメなの?
「アル……!」
「負けるわけには、いかねぇんだよ!」
「それは、ボクだって一緒だよ!」
◇◇◇
「終わりにしよう、アル」
勝てない……!
「ま、だだ……終わらせて――――――――――――」
アリスさんを殺させて……、
「堪るかぁああッッ!!!!」
地へ突き刺さる神威を引き抜き両手で構えた。それは太刀であり、大剣と成る。
これはまだ、想像の中でしかない技。成功したことはなく、出来る気もしない。
でも、これでしか勝てないというのも分かる。
だから、やる。出来る気がしなくても、一発で成功させる。
確率なんかいらない……完璧に、完全にやりきる。
炎よ……俺の中で燃えろ。勇者を、神を超えるんだ。
この一撃に、お前の熱をすべて込めろ!
神威の内側に炎が装填される。顕現した炎は精神の赤炎。俺の怒り、昂ぶりの全てが火種で、燃料。
思い浮かべるは、天翔。
あらゆるものを斬撃で斬り伏せる最強の一撃。
それを、【飛剣】で再現する。残光であり斬光。飛剣にして火剣。英雄にして道化。
【英雄之炎】のフルチャージ。刀の内側で鍛えられた炎は白く、赤く輝いている。
さぁ、薪は焚べられた。
喜劇を始めるぞ、英雄ども。
神に縛れた勇者―――――か弱き少女に喜劇の喝采を。
「……――――――――――――ッ!」
《聖火の乖離》 (ビルガス・イスタ)