剣を執る理由
「―――……《神加速方法》」
ギルガメッシュが遺した最後の切り札。俺がオレの流星になるための希望。
「……君たち人間はとことん欲深い。たった今邪神を倒したのに、仲間の命までを求めようとしている」
「――――欲深い? 何言ってんだよ。俺達人間は、欲から生まれてきてんだよ。……たまに、仲間さえ居てくれればいい、生きていればいいとか言うやつがいるけどな」
「………それがどうしたんだ」
「そうじゃないんだ。仲間だけ? 友達? 家族? ……ざっけんな。俺は、仲間も、友達も、家族も、他人も、敵も、みんなが生きる場所を守る。――――人は人だけでは生きられねぇんだよ。だから――――オレは護るんだよ」
「……」
「分からないか? いや、人外にこれを求めるのはお門違いだな。だから、俺はお前と戦うんだ」
「良く分からないけど………キミも戦いたいんだね?」
「あぁ……そう思え」
片手剣八連撃 《アヴァン・オルレイズ》。その技を放ち終わると、すぐにそれの準備に入った。
この世界でそれは――――
「闘魔融合術」
――――《覇気》と呼ばれている。
生命エネルギーそのものである《闘気》と世界へ干渉するためのエネルギー【魔力】を融合させ発生させる力、それが《覇気》だ。しかし、正確に言えば精神エネルギー『気』も含まれている。二つのエネルギーを安定させるバランサーの役割を担っているが、使用者は無意識に行うためこれを知る者は少ない。
「〝覇王脚〟」
右脚に覇気を込め、奴の腹に叩き込む。少し距離が空き、互いに大技の間合い。
「…………フーッ………」
『気』は一般的に――地球では――「根性」と呼ばれている。
しかし、あの世界に『気』と似通った力は存在しない。
恐らくだが、根性というものはそもそも無いのだろう。何かをやり遂げた者、もしくはやり遂げようと必死に足掻く者を人は「根性がある」と言うのだ。
両手の剣を地面に突き刺し、右手のひらに力を集める。
――――闘魔近接拳術。
「《天空発勁》!」
「ぐおっ⁉」
覇気の大砲を叩き込み、奴を後方に吹き飛ばす。
しかし妖戒は悶絶しながらも立ち上がり、戦いをやめようとはしない。
(コイツの気迫は何なんだ……何がコイツを動かす………⁉)
いや、理由などないのか? 本当に、ただ戦いたいが為に――――?
「イカれてるぜ、お前」
「ハハハッ、人間の感覚ではそうなのかい。でもね……妖戒からすれば君達の方が可笑しんだよ。魔法も、剣術も、剣技も、覇気も…………全て戦う為の技。それなのに平和を謡う御花畑がいて、反対に戦を求める狂戦士がいる。――――まったく矛盾だらけだ!」
奴の言い分は正しい。彼らは戦いを求めるのだろう。それ以外に目もくれず。
しかし人間―――いや、生物は争う。それは人間以外の生物も同じ。根本的に違うのだ、生物と妖戒は。
彼らには芯の通った「生態」がある。
生物には他人を殺したいという欲がある。
生物には誰かを守りたいという欲がある。
「確かにな。……お前の言う通り、人間は矛盾だらけだ。俺だって、英雄になりたかった筈なのに、今では英雄としての自分が怖い。剣士としての自分が恐ろしい」
「ハァ?」
「だが、俺にも理由はある。アリスを守るという理由が」
「…………?」
「ところで妖戒、なんで剣士が剣を持つのか知っているか?」
「剣を持つ者が剣士だろう?」
「人を守ることが出来るのは手が届く範囲まで――――なら無理矢理伸ばせばいい。剣という体の一部を握って」
「守るだって? 弱肉強食のこの世界で? 笑えるよ!」
「ああ、笑えるよ。…………笑う為に――――笑えるように戦うんだ!」