勇者と夢
「ファイア」
装填された全ての刀剣が射出され、邪神を襲う。
「終わりだ」
「――――お断りするよ」
奴が手を振ると剣は霧散する。粒子以下の無へと。
「なにっ? 剣を―――相殺したのか」
「ああ、ボクの神意で剣の人意を殺したんだ。さあ、どうする? 英雄王」
「……何度でもやる」
もう一度刀剣を装填し、神へと向ける。それに対し奴は笑った。
「おいおい、ガッカリさせないでくれよ。ダメもとで、負けても経験なんて三流――――」
「お前こそ人間を分かっていない」
「…………なんだと?」
「勝つつもりでやらなきゃ勝つための経験を積めない? そんなものいらない。勝つためにやることは、最後まで諦めないこと。後のことなんて考えない、それを全ての戦いで出来る者が勝者となるんだ。――――その言葉を上から語る者は‥‥一流気取りの百流だ!」
「………キミが言うと説得力があるねぇ」
「いいや、俺は一流でも何でもない。俺はただ、世界を守る為の礎」
「それを人は英雄と呼ぶ」
「ああ、その時代、その国を支え、守った者。だが――――英雄は、俺一人で充分だ」
「…………なら、最後の英雄を殺そう。‥‥人間の矛盾を」
「………なぁ、アード。俺達人間が何故夢を抱くか知っているか?」
「夢? ―――やりたいことを人は夢と呼ぶんじゃないのか?」
「少し違うな。‥‥夢とは、簡単に手に入らない『やりたいこと』だ」
「何の話だ、英雄王」
「まあ聞けよ。――人は、夢があるから生きていける。もちろん肉体的な話じゃなく、精神的にだがな。俺が英雄を目指したように、オレが平和を目指したように‥‥。簡単に届かないから、人生を懸けてそれをやり遂げるっていうのが夢なんだよ。変わってもいいから、何かに憧れて、誰かに憧れて――それを繰り返してきたのが人間だ。人間が進化できたのは、憧れたからだ。お前らは『そう設計したからだ』と言うだろうが、俺達の〝夢〟は絶対に縛られない」
「…………」
「そして、お前が殺してきた人たちにも夢はあっただろうさ。何かを成し遂げるという夢が!」
「…………だから、なんだ」
「お前にはないのか、成し遂げたい夢は!」
その問いに奴は間が悪そうに黙った。そして、静かに口を開く。
「‥‥オレの夢、か。久しく、考えなかったな。‥‥いや、考えないようにしてたのか。まったく、子供たちに教えられるなんて‥‥神失格だ。オレの夢―――それは、平和だ」
「平和‥‥そうか、やっぱりな」
アードの答えに納得する。奴の攻撃には俺達を『殺す』だけの威力も殺意も無かったのだから。
ああ、コイツは悪神であり、絶対悪であり――――。
「平和、だと‥‥お前が‥‥お前がそれを言うのか、アードッ!」
「ふざ、けないでっ‥‥」
「よくも、そんなことを――――!」
「騙されない‥‥!」
「この、邪神が‥‥!」
《マティリス・クラン》の全員が奴を否定する。彼らが受けたことを考えれば当然か。
「はははっ、やっぱりね。‥‥ああ、オレが言うのは、間違っているかもしれない‥‥」
「アード」
静かに呼んだのは音花新。彼は――――、
「六花は、どこだ」
「………さっきも言っただろう。オレの中に――――」
「嘘をつくな。アード、お前の中から六花のオーラを感じない」
「‥‥チッ、闘気探知術か‥‥‥。ああ、そうだ――六花は、安全な場所にいるよ」
「…………そっか」
「‥‥アラタ、彼女は――――」
「分かってる。本当は、意識があるんだろう?」
「知っていたのか‥‥!」
「いいや。だが、状況的に考えたのと‥‥六花は、そういう人だから。俺を守る為に、お前と手を組んだ」
「流石勇者、洞察力もあるんだね」
「勇者‥‥俺には重すぎる名だ。勇者とは、真に勇気を宿す者。だから、だからこそ。ここにいるみんなが勇者なんだ!」