大切を守る為に、大切を捨てて戦うんだ!
「アード‥‥リッカさん‥‥――――」
恐らく二人は共犯。
だけどこの事実を知っているのは僕だけのはず。
『シラユキ・リッカは廃人だ』。それがこの街の共通認識…………なら、そこから探れること。
「…………病院だ」
何か、ヒントがあるかもしれない。
そう思い、万全の準備をした状態で宿を飛び出す。
途中途中視界に見えたのは巨大モンスターと冒険者たち。
あれが、アードの奥の手?
いや、殲滅が目的なら【混沌支配】を使って冒険者を一掃すればいいだけの話。
何か狙いがあるはずだ。
殲滅以外…………戦闘以外の何かが。
「はぁっ、はぁ…………」
病院に到着し、リッカさんお部屋へ突撃する。
そこはもぬけの殻。
しかし彼女のベッドに手紙が一枚置いてあった。
「…………?」
『拝啓、新くんへ。
貴方がこれを読んでいるということはあの人の作戦が成功したのでしょう。
そして、貴方は怒っているのかもしれません。
私が嘘をついていたこと、邪神に協力していること。そして、貴方に口を聞かなかったこと。
憎んでもらっても構いません。それでも、私は貴方を愛しています。
最後にもう一度、貴方にご飯を作りたかった。
笑顔を見たかった。』
最後の文章はガタガタだ。
恐らく震えながら書いたのだろう。
いや、泣いていたのか。その証拠に所々が濡れている。
(愛する人を裏切ってまでしたかったこと………それっていったい…………?)
思考を加速させるのと同時に、轟音が街を揺らした。
「⁉」
窓から外を見渡すと――――
「………アルタイルさんっ⁉」
外壁に叩き込まれ、傷を負っている姿だった。
敵は灰色巨人のモンスター。
黒き剣士。
その強さは正に最強。
彼の剣聖と同名であり、その強さに迫る剣士。
「そんなっ………」
***
「ぐっ………ああっ…」
黒き剣士はその身体に鞭を討ち立ち上がる。
例えこの身が壊れようとも。
あの人だけは守って見せると。その覚悟と決意のみで立つ。
「六花は‥‥俺が守るっ!」
(全力解放‥‥―――――〝限界突破〟ッ!)
脳のリミッターを解除し、命の炎を燃やす。
この魂はまだ生きている。ならば問題は無い。
敵は一つの怪物。あの龍以上の化け物であろう。
しかし今は死ぬわけにはいかない。
アードの権能が動くのならば、【死に進み】は不可能。
その結果は勿論永遠の死。
「想起装填」
闘気、魔力、意志が二刀に注ぎ込まれる。
剣は主の力を受け入れ己を更なる高みへと至らせる。
「――――――――ッ!」
跳躍し、敵の上空へと。
双剣を振り上げ――――
「――――――――――――――――《双天斬撃》ッッ!!!!」
そのエネルギーは炸裂し、巨人の肉体を削ぐ。
腹部より上は消し飛び、勝負あった…………かに見えた。
「なん、だと…………⁉」
巨人の身体は再生し、剣士を襲う。
「がぁああああああああああああああああああああッッ!!!!?」
剣士は建物に叩きつけられ――――たが。
まだ生きていた。
英雄に成れない勇者の魂は。
(こんなところで、負けてられないんだよ………)
「大切を守る為に、大切を捨てて戦うんだッ!」
封印拘束・解除。
全闘気門開門。魔力放出量上限を解放。
王国騎士流剣技・使用許可認証。
「双剣」から「アステローペ」へと変奏!
「聖剣、抜刀!」
召喚された聖剣を握り、背中から抜刀。
そして自身の肉体を解放。
「――――――――変身」
全解放。
眼の色、骨格すら変化し、彼の肉体は真の姿へと変わっていく。
黒髪黒目。
日本で生きる平凡な高校生――――だった勇者!
「勇者・音花新! ここに見参!」