紫の剣士
魔術の中でも成長が爆発的に速い魔術。速度、威力、効果、どれを取ってもトップクラス。
しかし、使い手が未熟すぎる。
どれだけ武器が良くても、それを使いこなせる実力と経験が無ければ無用の長物と化す。
だから、努力するしかない。
「紫電……一閃!」
ナイフに【紫電】を纏わせ、刀身を拡張する。
その一撃はモンスターの首を焼き切り、絶命させた。
「まだ、まだダメだ。こんなものじゃ……」
周りから見れば、僕は狂っているのかもしれない。
数度会っただけの人達の為に命を懸ける。それは、間違っているだろうか。
いいや、絶対に、この選択だけは絶対に、間違いなんかじゃない。
***
「今日も、生きて帰れたぁ」
どっと疲れた足を引きながら宿の道を歩く。もう慣れたその道。
いつもと変わらないはずだった。しかし、何かが違った。
「……⁉」
誰かに、見られてる。
これは敵意とも好意とも言えない。殺意にしては優しく、好意にしては鋭い。
(ストーカー……? いやいや、あるわけないよ。気のせいだって)
そう思い、また足を進めた。これ…………勘違いじゃない。
しかも、疑念に近い。このアースリアで関わっている人は少ない。ギルドのおじさん、アリアさん、アルタイルさん、宿の女将さんくらい…………。
この人たちに何か疑われているのならショックだ。物凄いショック。
近道をしようと、路地に入った瞬間だった。
―――僕の前に金の髪が揺らいだのは―――、
「アリアさん……?」
咄嗟に口からでた人名が違うことを悟る。雰囲気も、気配も似ている。
だけど、何かが決定的に違う。
「君、名前は?」
金髪碧眼の少女はそう聞いてきた。訳が分からぬまま、素直に答える。
「………シン・ホワイト、です」
「……シン。君は、アルタイル・アリエルって剣士、知ってる?」
「Aランクの、無所属冒険者ですよね………?」
「………違う」
「………?」
その意味が分からなかった。違う? 何が違うんだろうか。
アルタイルさんはアルタイルさんだと思うんだけど…………。
「アルは、アルは……あの人なんかじゃない。名前が一緒なだけ」
「く、【黒き剣士】じゃない、アルタイル・アリエルさん………ですか?」
「ううん。アルは【黒き剣士】。……少なくとも、あの世界では」
「あの世界………?」
「ごめん、忘れて。………ねぇ、アル。どうして、答えてくれないの?」
「…………えっ?」
(………僕?)
その時、僕の胸がチクりと痛んだ。どうしてだろう、何故か、とても虚しい。
レイピアを携えた少女は、無理な笑顔を作った。
「ありがとう。………また会おうね」
「えっ、あ、貴女は…………?」
「――――アリス」
「…………⁉」
(アリスって、アリアさんと同じ、二大美女の一人⁉)
【マティリス・クラン】の主戦力であり、幹部。
……僕、【マティリス・クラン】と何か因縁でもあるのかな…………。
けどまあ、二大美人と会えたのはラッキーだった。言ってることは分からなかったけど。
アルタイルさんが、二人いるのかな。けど‥‥同じ二つ名を持つ冒険者って、いるのかな。
確か二つ名ってギルドと神様たちが決めるらしいけど……ランクアップすらしてない僕には遠い話だ。
「…………」
あの胸の痛みは、なんだったんだろう……。
まるで、自分がその人みたいな感覚があった。そんなはずはないのに。
もしくは、僕の中に、誰かいる?
ないな。それなら知ってるはずだし。
「うーん………ま、いっか」
考えても分からないことだってあるさ。ジッとしててもどうにもならないよ。
僕は宿に向かって歩き出した。
そして、この夜が平和の終わりになる。
これから投稿ペースが遅くなると思います。