出会いと英雄
これは、僕が冒険者になった次の日の話。
「はぁ、はぁ………」
モンスターとの連戦で疲労していた僕は、【休憩地点】で休息を取っていた。
「……神様の力を貰っても、まだこんなに弱いのか、僕は………」
それが普通だ。普通なんだ。冒険者と言っても人間が進化することは早々ない。
最初はこんなもの。分かっていた、分かっていたはずなのに。
(ちょっと、がっかりだよなぁ…………)
僕は英雄譚、冒険譚に憧れて冒険者になった。
それは理由としてありふれたもの。だけど、男の子の本分。男たるもの偉業を立てて女の子と遊びたい気持ちはある……はずだ。
僕も英雄になりにきた。だけど、こうも地道に戦うことになるとは。
戦いの才能はない、僕自身がそう思う。神様は過剰に期待してくれているけど、僕には無理だ。
―――いや、諦めたらいけない。地道にコツコツ。
畑仕事だってそうだったじゃないか、投げだしたら何事も成功しない。
「……頑張るぞ」
「―――何をですか?」
「へ?」
その美しい声は、僕の真横から聞こえた。
「…………?」
顔を上げ首を左右に振ると、僕の目には緑の眼と金色の髪が映った。
「……貴方は……?」
恐る恐るそう聞くと少女はとても小さな笑みを浮かべて、
「アリア」
「……アリアさん……?」
――どこかで聞いたことがあるような………まあ、風の噂だろう。
「君は何を頑張るの?」
「えっ」
「さっき、頑張るぞって、言ってた」
…この近距離の美少女に気が付かないとは不覚だった…………!
「えっと、僕は……夢がありまして………」
「夢?」
初めてあった女の子にこんなこと言うのも変だけど‥‥。
よく見なくても分かる美しい顔。降臨された女神様にも劣らない。
「英雄譚に出てくる英雄みたいになりたくて……そのために冒険者になったんです」
笑われるかな、と思った。子供みたいな理由(僕は十四歳だけど)で冒険者になったから。
しかし、それは杞憂だった。
「そう‥‥英雄に、なりたいの?」
「はい! カッコ良くて、みんなを救えるヒーローに!」
「…………キミ、名前はなんていうの?」
「僕ですか? シン・ホワイトです」
「シン………シンは、私の英雄になってくれる?」
「…………?」
その瞬間には、僕の心は掴まれていたのだ。
子供のようなその問いに僕は本気で考える。『私の英雄』――その意味を、僕はまだ知らない。
だけど英雄って、そういうものだと僕は思う。助けを求める人みんなに手を差し伸べる、それが僕が目指す、【英雄】。偉業すら乗り越えて、新時代へと希望を繋ぐ。
夢だけで終わらせたくない。これは、僕の物語なんだから。
「なります。僕は、貴女の英雄に……貴女を助けられる英雄になって見せます!」
「……ありがとう」
ドキッ、と、鼓動が加速する。―――……これが、恋?
すると、アリアさんが少し笑って、
「……戦い方、少し、教えようか?」
アリアさんからの提案を食い気味で了承し、僕たちはモンスター相手に戦うことに。
「シン、キミの武器はナイフ?」
「はい。……一番安かったし、軽いので…………」
「軽いのは、メリットであり、デメリットでもあるの」
「どういうことですか?」
「例えば、ナイフのメリットは軽さから生まれる速攻、それは分かる?」
「はい、なんとなく」
「じゃあ、デメリットは?」
「えっと…………あっ、威力ですか?」
「そう。ゴブリンなんかは威力が低くても倒せるけど、十層以下のモンスターには、生半可な攻撃は通用しないの」
確かに、ゴブリン相手では連撃で削ってどうにかなってるけど、硬いモンスター――コボルト等――なんかには手こずってるかも………。
「だから、一撃で魔石を狙って」
「魔石って、頭部にあるあれですか?」
「うん、モンスターは魔石を砕かれると即死する。価値が低くなるけど、緊急時にはそういうことも大事」
「なるほど…………」
そんな話をしていると、丁度【コボルト】が現れた。全長一〇〇CM程の人型犬。
「じゃあ、実際にやってみようか」
「はい!」
ナイフを構え、コボルトの前に立ちふさがる。
『グルルルル…………』
(やってやる、やってやるぞ…………!)
「せいっ!」
頭部に向かってナイフを突き立てる。しかし刃は中心を外れ、反撃を貰うことになった。
「ぐふっ⁉」
「大丈夫、よく見て狙えば外さない。その一点に集中して」
「……はいっ!」
(アリアさんの英雄になるって言っただろ! 男を見せるんだ、シン・ホワイト!)
「せあっ!」
刃を地面と平行に構え、そのまま押し出す。刃先が硬い石を砕き、コボルトは地面に伏した。
「……やったっ!」
「おめでとう。忘れないうちにもう何回か、やってみようか?」
「はい、お願いします!」
それから僕たちは数時間程モンスターの魔石を砕きまくった。
その日の稼ぎが前の日の二倍になったことに驚愕し、アリアさんに頭を下げまくった。
「今日は本当に、ありがとうございました!」
「いいよ。私も楽しかった。また、会おうね」
「はい!」
アリアさんと別れたあと、冒険者を管理する機関【冒険者ギルド】で今日の報告を出す。
すると、一枚の知らせが僕の目に入った。大きな掲示板にあったそれには、
【マティリス・クラン所属、アリア・フリューゲル ランクA到達。所要期間一年。】
と書いてあった。
(ランク、A…………⁉)
それは冒険者の階級で上から二番目、最上級冒険者の称号だ。上位〇・一%程の超人たち。
どうりで聞き覚えがあるはずだ。
マティリス・クランは、冒険者の街アースリアでもトップクラスに強い勢力。
ここまで遠い存在だったのか…………けど……ここまで強いなら、どうして英雄を求めたんだろうか。




