十年前のプロローグ
「やめろ……!」
「もうこれ以上、この街を壊すんじゃない!」
「誰か、助けて――――――」
地獄絵図。絶望、憤怒、悲劇、蹂躙、狩猟。それらが広がる街は、英雄の都。
多くの強者が集い、その力を民のために振るう場所。そうだった場所。
もう、その影も形もないが。
「ああ、弱き者どもよ! 私たちを楽しませろ!」
「来いやぁあああっ! 若造どもぉおおおお!!!!」
「しししっ、楽しいなぁ!」
英雄候補たちを正面から打倒し、世界を絶望に陥れたのは三人の反逆者。
邪龍を送り込んだ神々を恨み、その配下である強者を殺してまわる者たち。
助けて、と……誰もが思った。
そんな時だった。《それ》が、天に広がったのは。
「な、んだっ、あれは……」
「神の啓示ににているが……今?」
「詳細は不明だが……どう考えてもイレギュラーだろう」
そう、本来現れるはずのない白い鏡。靄にも見えるだろうか。
天に、英雄の物語が写された。
『諦めろ、英雄よ! 我の悲願は果たされるのだ!』
そう言うのは、漆黒の髪を長く束ねる……大剣の剣士。
『いやだ……僕は――――貴方を超えて、魔王を止める!』
そう答えるは、白髪の少年。
目元が黒く隠されているが、間違いなく年端もいかない幼子だ。
見方が違えばリンチ―――弱い者いじめに見えただろう。だが、そう見る戦士たちは居なかった。
理由は簡単。剣士と少年が、自分たちよりも強いオーラを纏っていたから。
『朽ち果てるがいい! 我の最後の一撃で!』
『朽ちるもんか……僕たちは……英雄だ!』
全ての戦士たちの視線が集まる。戦いなど忘れ、その決着へと。
『破天の絶牙、混濁の明名。漆黒の大蛇、来るは女神の祝福。覇道のままに刻むは我が宿命』
『英雄宣誓……ここに誓う、僕は世界を救うと。そして叶えよう、全てが終着する楽園を。この場所に刻むは我が願い』
学者が見れば卒倒する内容の詠唱。それは、古代といつかの力。
『喰らえ、無限の輪廻を乗せて!』
互いが互いにいがみ合うことになる魔法。その詠唱が生まれた時には、運命が決まっていたのだ。
いいや、世界が始まった時かもしれないな?
『烈火鷲・惣焔剣戟!』
黒髪の大剣士が放ったのは炎の斬撃。……それも、世界を砕くほどの威力を持って。
「だ、め……!」
少女が言った。勝てない、と。今現在の自分たちがどれだけ優しい環境なのかを実感させるほど、大剣士は強い。
だが
『―――――駆け抜けろ、世界の真意を乗せて……!』
「ぇ……⁉」
映像として映っているだけなのに、少女たちは委縮する。あまりに強いその気配に。
自分たちより何歳も下に見える少年が、最強の誰かであったから。
「え――――――?」
少女が、未来と一瞬だけつながった。
白銀の少年と、黄金の少女の出会いを。未来と過去の終着を。
『唱え。《終末の絶対者》(フィオス・エクス・ゼータ)!」