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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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悪役令嬢好きの女神の世界

転生ヒロインは憤怒する——悪役令嬢と王子とついでに女神も憤怒する——

☆☆☆リリシア☆☆☆


 リリシアは憤怒していた。

 リリシアは平民だ。母親と二人市井で暮らしていたが、稀少な光魔法が発現し教会に引き取られた。

 そして魔法の力を鍛えるべく、このワンダル魔法学園に通うこととなったのだ。

 これから始まる学園生活に胸をときめかせ、門を見上げた時、衝撃が走った。

 前世の記憶を思い出したのだ。


 前世のリリシアは中年男性だった。声ヲタだった。

 とあるアニメをきっかけに一人の女性声優に恋をして、ゴリゴリに入れ込んでいたファンだった。

 そしてこの世界は彼女の出演する「ハピハピ♡マジカルラブ」という乙女ゲームの世界だった。彼女はヒロイン、リリシア役だ。


 クソかよ!!!!!!!!!!!

 記憶を取り戻したリリシアは憤怒し、とうてい入学式に出る気にはなれず、校舎裏のすみの花壇にドッカと座った。

「あー……あ、あ、あー……ふええ〜ん!キャベツじゃないもんん〜〜!…………あー、あ、あー……ご無体しちゃうーーーーっぞ!!☆……………クソかよぉ!!!!!!!!」

 最悪だった。リリシアはこの世界……乙女ゲームになんら興味がない。推しが出ているからプレイしただけだ。一分に一度は死ねクソがと言いながら推しのセリフをコンプするためだけに頑張った。

 そしてこの世界に推しはいない。リリシアは自分だ。

 ヤッター推しの声であんな台詞こんな台詞言い放題だー……とは、ならなかった。


 自分に聞こえる声は、他人に聞こえる声と違うのだ!!!!!


「あああああああああああああああ」

 リリシアは吠えた。違う!こんな声じゃない!!!なんならリリシアのーー推しの素晴らしい声は、他の人には聞こえても、リリシアだけに聞こえない。

 殺す!!この世界の奴らを全員殺す!!!!!

 完全に前世の記憶に乗っ取られたリリシアはこの世の全てに憎しみを抱いた。推しの声聞けるやつ全員殺す。


「だ、大丈夫かい?」

 は、と顔を上げるとキラキラしたイケメンがいた。ゲームキャラが声かけてくんじゃねーよボケがとリリシアは思ったが、はたと気づいた。

 これは王子だ。なんか国の。そんでこれは、道に迷ったリリシアとばったり出くわす出会いイベントだ。

 うわーーマジかーー……いや待て。

 ドラマCDだ。

 セールスがよかったのか、なんかの記念に出されたドラマCD。

 それは平凡な「プレイヤー」が、現実世界でこのゲームをプレイしていると画面が光り、ゲームキャラが現世へ飛び出してくるというものだった。攻略キャラと、ヒロインと悪役令嬢がとびだし、そんでなんか現代日本でわちゃわちゃする。

 これだ。

 ここがゲームの世界なら、あのドラマCDも再現されるかもしれない。確か最後は、私たちの世界へ帰りましょうとか言って帰還するのだが、リリシアの大事な世界は現代日本だ。帰らぬ。帰らなければいいのだ。

 確かあの話は、ゲームクリア後。王子メインの逆ハールートで、意地悪役の悪役令嬢にも認められ和解した、ベストエンド後の話だった。

 ならば、やらねばならぬ。

 現代日本に帰る為、推し活の為、逆ハーをなさねばならぬ!!!

 リリシアは決意し、何度も繰り返し聞いたリリシアの台詞を口にした。

「はわわっ……!ごめんなさあい!!道に迷っちゃったのお……!!」

「そうかい、大変だったね。……君は、かわいい声をしているね」

 殺すぞ!!!!!!



☆☆☆悪役令嬢ドリアンナ☆☆☆


 ドリアンナは憤怒していた。この世界がクソだからである。

 ドリアンナには前世の記憶がある。前世は平凡な二次元オタクだった。二次元のである。三次元はクソだ。

 子供の頃に記憶を取り戻し、ここが乙女ゲームの世界と気がついた。

前世のドリアンナは乙女ゲームには興味がなかった。プレイしたのはイラスト担当が推しレーター様だったからである。

 勿論ゲーム内イラストは膨大だ。基本的にはキャラクターデザイン、そして何枚かのイベントスチルを推しが描いていた。イケメンキャラもかわいいヒロインも美麗で最高だった。

 そんな素敵なキャラ達が現実に!!大喜び……する訳がなかった。

 ()()()()のファンなのだ。

 描線が、彩色が、効果の入れ方が好きなのだ。

 それが現実に?

 輪郭線手に入れて出直して来い!!!!平たくなって来い!!!

 何普通に髪はやしてんだ、線を引くべきところを緻密に考え、重なる髪束にホワイトで横にラインを入れてくれ!

 鼻の頭にインクだまりっぽいぐっと力を入れた奴をくれ!

 そしてこの世界に漫画絵はなかった。そりゃまあ素晴らしい絵画はいくつもあるがコレジャナイ。っていうか推し様のイラストが好き!!なの!!だ!!!!

 そんなこんなでやさぐれたドリアンナだったが、元キャラのスペックの高さか、公爵令嬢としてそつなく成長した。記憶を取り戻したのが子供の頃だったので、とりあえず生きねばとなったのもある。推しとは比べ物にならないが、生前趣味でイラストを描いていたので、それきっかけで同性の友人が多くできたのはよかった。誰か神絵師に進化してくれないか。

 そしてゲームの通り、この国の王子の婚約者となった。

 キラキラした美少年だったが、あーこれを推し様が描いてくれたらなーとしか思えなかった。

 ニコニコしてっけどこいつ学園入ったらヒロインと浮気して婚約破棄してくんだよなー。クソだわー。

 このゲームは攻略対象みな婚約者や恋人がいる。そしてヒロインに心変わりし婚約者たちを嫉妬にかられた悪女め!と断罪するのだ。

 クソむかついたし、実際評判も悪かった。絵と声だけで売れた。絵と声の無駄遣いゲームだった。

 とはいえ、異世界転生ものの小説も読んでいたので、つんけんせずに当たり障りのない対応を心がけた。悪役令嬢がゲームと同じと思い込んで、なんの理由もなく王子を嫌ってザマァされるタイプの話読んでたので。

 しかし学園に入ると案の定、王子はヒロインに夢中になった。ついでに攻略対象も。

 逆ハーかよよくやんなーと思ったが、ゲームのような嫌がらせはしない。王子ごと無視している。

 他の女生徒からいじめを受けているようだが、冤罪ひっかぶせてきたらやり返す気満々だ。

 しかしヒロインはやたらドリアンナに絡んでくる。なんだ?ドリアンナ攻略してのベストエンド狙いか?うざっ。

 なんて思っていたが、ある時ヒロインが物陰でぼそぼそ独り言を言っているのを聞いてしまった。

「クソが……ゲームの通りやれよ……なんだあの女マジで……ドラマCD……ドラマCD……俺は帰る……ライブが待ってる……」

 やはり!うすうすこいつも転生者ではとは思っていたがーー……

 ドラマCD?

 帰る?どういうことだ?

 ドリアンナはパケ絵目的でCDは買ったが、聞いてはいない。内容に興味なかったのだ。

 ドリアンナはリリシアに近寄った。

「ちょっと……詳しく聞かせてくださる?」



☆☆☆王子☆☆☆


 王子は憤怒していた。己の婚約者がクソだからだ。

 ドリアンナは優秀な令嬢だ。それはもう、あちらこちらから見習え見習えと言われる程に。

 だからといって拗ねるほど王子は浅慮ではない。こちらはこちらで頑張ればいいだけだ。そして王子も、ドリアンナほどではないが優秀だった。

 しかし彼女は初顔合わせの時からこちらを見下していた。隠そうとはしているようだが、ヒトの顔を見つめてはため息をついたり舌打ちしたり。話を振っても会話は表面をなぞるだけ。

 なんなんだあいつは。鬱憤を抱えつつ、まあ政略結婚なんてこんなもんかと諦めてそつなく対応していた王子だったが、ある時愕然とした。

「殿下……っ!!私の妹が、こんなものをっ……!!」

 友人の一人が、薄い冊子を持ってきた。肉筆の本のようだった。

 表紙に見慣れぬタッチのペン画があり、しかし描かれた人物に何か不穏なものを感じた。ペラペラとめくり……やがて怖気をふるった。

 なんだこれは!!

 そこには王子と、仲の良い友人達ーー勿論男性だーー数名の、恋物語が描かれていた。肉欲込みの。

「な、なんと悍ましい……!これは一体……!!!」

「殿下、これは妹が隠し持っていたものです。問いただしますと、はじめはドリアンナ様がこうした絵物語を描かれて、令嬢方の間で評判となり、今では何人もが筆を取り互いに描き、読み合っているそうです」

「そ、そんな……!!」

 友人達は皆、見目麗しい高位貴族の令息たちだ。集まっていれば女性達がきゃあきゃあ言うのも、熱い目で見られるのも慣れてはいた。

 しかしそれは、自分で言うのもなんだが憧れであったり、恋愛対象、あるいは玉の輿ねらいとしてだと思っていた。ページをめくる。

「こ、これは、先日の修練場でのことではないか?」

「ええ……恐らく……」

 本の中に、覚えのあるエピソードが出てきた。

 仲間の一人が、練習中の魔法が上手くいかないと悩んでいた。そこで皆で協力し、特訓したのだ。コツを掴めばなんてことないのだが、なかなか上手くいかず、励まし、助言をし、試行錯誤して、やっと成功し、それどころか誰よりも強力な威力の魔法を放った時には、皆感極まって抱き合い、喜びあったのだ。

 それがなんか六人でめちゃめちゃ抱き合った話になってる!!性的な意味で!!!!

 もうなんかぐっちょんぐっちょんである。

 なんだ?我々の青春は、熱い心は、こんなふうに見られていたのか?

 あのきゃあきゃあは、憧れでも恋でもなく、歪んだ性欲の発露だったのか?

 きもい!!!!!

 無理!!!きもい!!!!無理!!!!!

 王子だって、女性の体にどきどきしたりする事はある。しかしそれを露骨に口に出したり顔に出したりましてやこんな手間暇かけてかき出したりしない!!!

 きもい〜〜〜〜〜!!!!

 王子は吐きそうだった。しかもこれを、あのドリアンナが、己の婚約者が描いたと言うのだ。

「待てよ……?令嬢方に人気と言ったな。まさか……」

「はい、我々の婚約者たち皆……!」

「!!」

 仲間達には婚約者がいた。皆、どうも妙だと悩んでいた。

 観劇などに誘ってもお友達とどうぞ、と断られ、お茶をすればやたら友人のことばかり聞いてくる。

 そういえばドリアンナもそうで、冗談混じりに「なんだい、そんなに彼が気になるのかい」と尋ねると、

「まあ嫉妬?安心して下さいませ、取りませんわよ、おほほほほ……」

 と、珍しく機嫌が良さそうだった。

 そうか。

 そうだったのか。

 こういうことか!!!!

 王子は憤怒した。あのクソ女どもどうしてやろうかとブチ切れていた。

 しかしこんなもん表に出せない。奴ら、表面上は立派な淑女だ。どうすべきか……。全てを知った仲間たちは、婚約者憎しで絆をふかめ、復讐の機会を探していた。

 そしてその様子を見て、彼らの婚約者たちもまた、その絆を深めたのだった……。

 そうこうするうち、魔法学園へ入学する時期となった。奴らと顔を合わせる機会が増えるかと思えばうんざりだ。仲間の妹のリークによれば、なんか最近では王子が仲間たちの子供を産む話が流行っているらしい。どういうことだ。こわい。

 鬱鬱としたものを抱え学園へ向かった王子だが、そこで運命の出会いをする。

 吠える女だ。

 ピンク色の髪をした小柄な少女が、クソが!死ね!など悪態をつき、おおおおあああああおおおおおおと怨嗟の雄叫びをあげていた。

 すっごく共感した。

 王子もそんな気分だったので。

 話しかけると、死んだような目でねめつけられたが、ふっと表情をかえ、先ほどまでの雄叫びが嘘のようにかわいい声でなんか言った。

 なんだこれと思い、声を誉めると殺気を感じた。なんだこれ。

 

 それからというもの、妙にその女ーーリリシアが寄ってくるようになった。

 なんだ?こいつも奴らの仲間か?

 警戒したが、どうも違う。あの女たちが、やきもきとこっちを見ているのだ。なるほど、リリシアはただの恋愛脳か……

 よし、はべらそう!!!

 王子は決断した。婚約者たちへの嫌がらせだ。仲間たちにも伝えた。

 仲間とつるんでようが、中心に女を置いてチヤホヤしていれば変な妄想などできるまい。

 皆はせっせとリリシアをちやほやし、恋を演じた。

 仲間の一人は、婚約者から「もっとお友達を大事にしてはどうですか!!」と激怒されたと喜んでいた。ざまあ!

 しかしある時からそれがなくなり、どういう事かと思っていると、またも仲間の妹のリークがあった。

 リリシアをだしに、でも本当はお前の事が……!みたいな話が流行っているという。死ね。

 ドリアンナに至っては、リリシアの前で全員で連結しぐるぐるまわり、リリシアが悔しがる話を書いて好評を博したという。マジであの女絶対殺す。

 王子は美しい髪を掻きむしり、歯噛みした。

 そんなこんなで卒業がせまった頃、リリシアが言った。

「断罪しましょう!婚約破棄です!!」

「はあ?」

 聞けば、リリシアの受けているイジメをさらに上乗せし、全ての罪をドリアンナや仲間の婚約者たちにひっかぶせ、卒業パーティーで断罪、婚約破棄するのだと言う。

 王子は呆れた。イジメ如きで婚約破棄やら断罪やら、アホ丸出しだ。上手くいく訳がない。

 しかしふと思った。このままではドリアンナと結婚する羽目になる。嫌だ。あんなもんと結婚するくらいならアホやって廃嫡された方がマシだ。

 仲間にも相談すると、賛成してくれた。チラチラニヤニヤひそひそしてくるあいつらマジで嫌なのだった。

「廃嫡されようと構いません!」「望むところだ!」「俺たちなら、どこでだって生きていけますよ!」

 皆で円陣を組み、卒業したら娼館行こうぜと固く誓った。

 熱い友情だった!!


 そして卒業パーティーである。

「ドリアンナ!貴様との婚約を破棄する!」

 壇上に立ち、リリシアを侍らせてドリアンナと婚約者たちを呼びつける。大事な仲間は背後に並んでいる。頼もしい。

「貴様はリリシアをいじめうんぬんかんぬん」

 罪状を読み上げていく。みんなはなんやなんやとざわついている。

 さあどうなるかと思っていると、ドリアンナがふらりよろめき、

「ああ、申し訳ありません……!!殿下を思う、嫉妬のあまりに悪魔の所業を……!」

 ん?いや確かに悪魔の所業はあったが、今の流れはいじめの話だ。嫉妬?ないだろ。

「かくなる上は、婚約者をリリシア様にお譲りし、市井におりたく存じます」

「ドリアンナ様、私も!」「私もお供いたします!」

 ??? 

「リリシア様、これから王子様をよろしくね」

「お任せ下さい!」

 何が?

 王子がキョトンとしていると、リリシアがこそっと、

「実はドリアンナ様も婚約者を辞退したかったそうなのです。王命での婚約、早々破棄できまいと悩んでいたそうで、皆に認めさせるにはこれがいいだろうと。婚約者様方も、ドリアンナ様とともに出版事業を立ち上げ、仕事に生きたいそうなのです」

 やめろーーーーーーー!!!!

 その出版社で何を出す気だ!!!!!やめろ!!!!

 しかしはたと我に返った。王族の婚約者を降りて、まして仕事を持てば現在よりはるかに護りが薄くなる。

 よし、それから殺そう。幸い全員同じ場所にいるならまとめて殺れる。

 そしてリリシア、こいつドリアンナと通じていたのか?殺すべきか?


 ドリアンナがそれではこれで、とカーテシーをきめ、立ち去ろうとした時……

 光が。

 空間に亀裂が走り、光が射した。

 亀裂はどんどん大きくなり、風が吹きあれ、そしてーーー

 

 女神が現れた。



☆☆☆みなさん☆☆☆


 断罪のパーティー会場に現れた女神。

 なぜ女神と分かったかと言えば、亀裂から半身をのぞかせる巨女本人が言ったからだ。

「私は女神。この世界の創造主。間違いを正しに参りました……!!

 ドリアンナよ、そなたはいじめをしていない。冤罪です。

 そしてリリシア、そなたは王子をその容色で誑かし、また王子は婚約者がありながら浮気をし、それを棚に上げ冤罪なすりつけて断罪するとはなんと愚かな。反省し労働奴隷として悔い改めなさい」

 リリシアは混乱していた。こんな展開はゲームにはない。

 ドリアンナは混乱していた。こんな展開はゲームにはない。

 王子は混乱していた。なにこれ。女神?しらん初耳。

 ドリアンナが真っ先に我に返った。

「い、いえ女神様、私が確かにイジメをしました。罪があるのです。友情ルートが……ああいや、断罪されるべきなのです」

「はあーーー???なんなの!?友情……あーベストエンド狙い?ざけんじゃないわよ!!

 悪役令嬢もの読んでないの!?ちゃんとざまあしなさいよ!!

 それが見たくて転生させたのよ!?ちゃーーんとあのクソヒロインの大ファンもヒロイン役にしてあげたのに!

 あんなビッチ好きなの脳足りんのお花畑でしょ!?

 二重の意味でざまあできてサイコーって思ってたのになんなのよ!!」


 リリシアは硬直した。なんて?

「あの……ざまあのために、私達を転生させたのですか?」

「そうよ!!あのゲームやって、ビッチと浮気もんがかわいそうなドリアンナに、謝ってくれたから許します♡とかやってんのにクソむかついてあのゲームをベースに世界を作ったの!!

 でも違うとこだってあれこれあったでしょ!!ここは現実だってあほヒロインはなぜ気が付かないの……(クソデカ溜め息)できるようにしてあげたのになんなのよ!!!あーーーもうだいなっへぶ……」

 女神のでかい顔面にリリシアのパンチが入った。

「てめえか……」

「な、なによこのビッチ!女神を殴るなんて……」

「てめえかああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 リリシアが光のオーラを手に纏わせ、女神に殴りかかる。

「てめえが俺をこの世界にいいいい!!!!!めるたん(声優)のいない!この!世界にいいいいいいいい!!!!!!!!!」

 ラッシュラッシュラッシュ。しかし敵は女神、うざいとばかりにはじかれた。

 床に叩きつけられたリリシアが叫ぶ。

「ドリアンナ!!そいつだあ!!!そいつが元凶だあああ!!!」

 呆然としていたドリアンナははっとした。

 そうだ。今までの話を聞けば、全ての元凶、推しのいない世界へ閉じ込められたのは……

「死いいいいいいいねええええええええ!!!!!!!!」

 ドリアンナのドリル魔法が炸裂する。髪が増えてぐんぐん伸び、グリングリンの巨大ドリルが縦横無尽に女神を襲う。

「死ねやおらあああ」

 復活したリリシアも参戦し、二人は女神の攻撃(平手)をよけつつ、コンビネーションアタックをはじめた。

 王子はポカンとしていた。なんだこれ。

 しかしなんだ?ドリアンナがこの世界に生まれたのはあの女神のせいなのか?と、いうことは……

 あいつが元凶!!!!

「皆、あいつを討つぞ!!!我々を苦しめた元凶は、あの巨女だ!!!」

「「「「「応!!!!!」」」」」

 王子たちも女神に襲いかかった。

 その様子を見て、なんやこらだった生徒達も、戦えるものは参戦した。権力者がこいつが悪いと言ってるのだ。なら悪い!!


 「死いいいねええええええ!!!!!プリティースプラッシュ!!!邪竜拳!!!ムーンライトアローーー!!!!」

 リリシアはめるたん(声優)担当キャラの必殺技を魔法のアレンジで開発していた。ストレスから光魔法を攻撃方向に進化させたのだ。想いをのせた攻撃は重かった。


「いくぞ!!合体魔法!!」

「「「「「とりゃーーーーー」」」」」

 王子たちは、ストレスから武芸に励み、友情パワーでバフもかかってめっちゃ強くなっていた。


「ドリル!ドリル!掘るわよ掘るわよ!!!」

 ドリアンナは元スペックが鬼高かった。そして掘る事に執着していた。


「そ…そんな……!!この私が、なぜ……!!ゲームではこんな技……!!」

 みな、ゲームより遥かに攻撃力を上げていた。

 だってここは、現実なので……

「ぎゃーーーーーーす!!!!」

 そして女神はへぼかった。


「ごべんだざあい……」

 激しい戦いのあと、敗北した女神は亀裂から引っ張り出され、光の縄とドリルチェーンとあとなんか色々に巻かれたり串刺しにされたりして拘束された。

「反省だけなら猿でもできんだよカスがッ!!オラとっとと戻せや日本によ!!!」

 リリシアが女神を蹴る。

「なんなのよおお……なんなのあんた〜あのクソヒロインのファンならお花畑のふわふわじゃないの〜〜人気投票に複垢作りまくって不正投票してたくせに〜〜〜」

「めるたん(声優)の為に決まってんだろクソがっ!!!推しが出てなきゃやってねーわこんなもん!!投票理由全部めるたん(声優)が出てるからにしたただろうが見とけやボケッ!!!」

「落ち着きなさいよ、私だって腹はたつけど……」

「あー悪い、CD積みまくったファンミ当選したとこだったから……」

「ああ……」

 ドリアンナが肩ポンしているが王子には意味不明だ。

「それよ〜。当選の喜びで脳の血管ぷちっていって死んだのよ〜。まさかおっさんだとは……。条件検索だけでよく見てなかったわ……」

「えーとじゃあ、やっぱ私も死んでるの?」

「そうよ。だから元の世界には戻せないの。っていうか、あっちの世界の魂貰ってきてこっちに定着させたんで、この世界自体にあっちの世界との繋がりってないのよ。だから戻る道がないの。召喚聖女ものとかならいけたんだけど……」

「私達が今死んで、その魂をあっちに転生させるのは?」

「無理ね、あっちで人が余って困ってるから魂分けてもらったの。返すって言っても拒否されるわ」

 なんだそれ。

「いや繋がりないってよ、あんだろドラマCD。俺らが日本に行くやつが」

「えっなにそれ」

 女神は知らなかった。ハンパオタクである。

「はあ!?知らねえ!?そんな、じゃあ……」

「待って、あんた女神さん、攻略本は読んでた?ゲームに出てこない、攻略本にしかない小ネタもこの世界にあったわ。どうなの」

「あ、読んでない……。あ、なら……そっか、この世界パケ買いしたから、知らないうちに攻略本やドラマCDとかの派生物も含まれてるのかも。そしたらあっちの世界で強い想いでゲームしてくれる人がいれば、移動することができると思う……!!」

「なんか色々仕組みが気になるけどよかったわ。これで推し様のイラストが見れる……。夏の祭典へ行ける……」

「ドリアンナ様、夏の祭典とは?」

 それはね……てことで、婚約者様達も本場のあれをぜひ!と異世界移動を希望した。

 王子達は涙を流して喜んだ。王子達は行かない。そんな邪悪な世界に行きたくない。

 あとはただ、ゲームをしてくれる人を待つのみ……



☆☆☆松田かおり☆☆☆


「お、懐かしい〜!」

 クローゼットからでてきたゲームを見て、かおりは言った。

「いいゲームだったわよね〜〜」

 かおりはこのゲームのディレクターだった。

 かおりは逆ハーが好きだ。ちやほやが好きだ。ヒロイン無双が好きだ。

 主人公の全てが肯定され、同じ事をしても主人公は許され、他キャラは許されない、そんなダブスタが大好きだった。

 なぜならかおりもまた、特別な人間だからである。

 かおりにとっては。

 年末になんか出せるのないかって、丁度乙女ゲームも流行ってて、ありもののシステム使えるだろってことで企画が通り、とにかくヒロイン贔屓でチヤホヤで!と号令をかけ制作を管理し、嫌いな奴に大量の仕事を押し付けたり頑張った。

 かおりはしごできなので、ちゃんと毎日家に帰ってキラキラしていた。部下の女なんかこれみよがしに床に寝てたりしてマジうけた。

 大好きな絵師様にイラストを発注し、似顔絵も描いてもらっちゃった。あんま似てないしカラーじゃないし、所詮二流かーと思ったが。

 イケメン声優さんと打ち合わせという名の食事もした。ヒロイン役の女まで呼ばれてて、部署の野郎どもがちやほやしててムカついたから匿名掲示板にあいつ枕やってるとか書き込んだ。

 てめえ嘘ついてんじゃねえってキモヲタがキレてきて面白かった。

 あの頃は良かった……。裁判とかなかった……。

 ゲームは無事開発され、発売し、それなりに人気もでた。かおりも大事な我が子が愛されて満足だった。

 しかし楽しかった時代は過ぎ、やがてかおりはパワハラとセクハラと不倫で首になった。

 なんで!?あたしは何も悪くないのに!

 かおりは慟哭した。不倫なんて取られる方が悪いのだ。大体あんな男遊んだだけなのに君のせいでとかキレやがってゴミすぎる。それにセクハラ、あの陰キャあたしが折角構ってやったってのになんなの自意識過剰なんじゃない!?パワハラだって、仕事できない奴とか何言われても仕方なくない?クズなんだから人の分まで働くべきじゃない?お金もらってんでしょ?なんなの?

 訴えてきた連中も名前を出して仕事しているので、匿名掲示板にない事ない事書きまくった。

 不倫相手の妻はその名前で出始めの出会い系に登録し、すぐやれる主婦です♡つって連絡先として聞いていた電話番号載せといた。

 再就職もうまくいかずイライラしていたので、落とされた会社のこともなんやかんや書きまくった。

 そして訴訟の時代が来た……。


 賠償金は、各々多かったり少なかったりした。かおりはなんかそういうもんかーへえー…となった。

 かおりは貧乏だった。なんとか仕事を見つけ分割で支払ったが、あの楽しい日々は遠かった。

「あの頃は、よかったな……」

 かおりはゲーム機を引っ張り出してきて起動した。

 キラキラしたヒロインやイケメン、くそ雑魚ざまあ要員の悪役令嬢…。

 ヒロインと同じ、かおりも何も悪くないのになぜ……!想いが溢れる。

 ベストエンドでは、あの偉そうだったクソ女が身分も婚約者も無くして男を奪ったヒロインに完敗を認め謝罪する。それを寛容にもヒロイン様が許してやるのだ……。最高だった。現実の奴らは訴訟とかする。死ねばいいのに。

 オープニングが鳴り響く。

 現実とは大違いの、最高に素敵な世界……!!

 「私の、大事な子たち……!!!!」

 ピカッ!!!

 画面が光り、驚き目を庇うと、リリシアの……、あのリリシアの声がした。

「っしゃオラーーーーーー!!!!日本きたーーーーーーー!!!!!!シャーーーーーー!!!!!」

 リリシアがテレビ画面から這い出してきた。

「早く早く!!!ここどこ!?東京!?今何年!?」

 ドリアンナも這い出してきた。

「祭典は!?祭典はどこですの!?」

 なんかモブ令嬢たちも這い出してきた。

「な、なにこれーー!!!」

「あんたプレイヤー?マジサンキューなー!!お陰で戻れたわ!しっかしあんなクソゲーに熱い想いって変わってんなー……すいません、調子乗った。俺の嫌いは人の好き、逆も然り。尊重しないとな……」

「リリシアたん喋り方違う!!!!」

 かおりは絶叫した。なにこれ!?

「あーごめん中身ちげーから」

「は!?」

「ねーそっち戻れたー?モブたち帰るかもだから一応繋ぎっぱしとく?てか私も夏のあれ行きたいんだけど」

 なんかキラキラしたハンパにでかい女も出てきた。

「サイズ調整したけど微妙〜」

「暇なの?」

 なんか話してる。なにこれ。なにこれ!?

「ちょ、ちょっと、あんたたちなんなの!?どういう事!?なんでイケメンはいないの!?あたしのリリシアたんはどうなってんの!?」

 なぜ女達ばっかでてくるのだ!?

「いやまあ話すと長いんだけど、全部このゲームが悪いのよ。作った奴神罰もんだわマジで」

「はあ!?どうしてよ!!私の大事な子よ!?私の作ったゲームの、何が悪いってのよ!!!」

 リリシア、ドリアンナ、女神が止まった。

 そして次の瞬間ーーー

「「「てめえかああああああああああ!!!!!!!!!」」」


☆完☆



 

 

死亡時から結構時間が経っていたので、めるたん(声優)は結婚していました。リリシアは「幸せになったのか……俺の知らないところで……」と、遠方彼氏面しました。リリシアもドリアンナも、推しの未見作品がたんまり出来ててハッピーハッピーになりました♡

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― 新着の感想 ―
おお、これは楽しい…いままでのざまあもので1等楽しい… 他の作品も読もう
[一言] 仕事中に読んでて吹いた。 面白過ぎますよコレ。
[一言] フリーダム過ぎるW
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