婚約破棄なんてするから後悔するんですわ
「ローズ・フランソワ、今この場をもってお前との婚約を破棄する!」
家族や仲が良い貴族が集まる婚約祝いのパーティーで、私の婚約者の第二王子のルード殿下が声高に宣言した。
婚約破棄をされるような事をした自覚が無かったので私は尋ねた。
「ルード殿下、理由をお聞かせいただけますか?」
「お前のような美しい容姿を持たない女は俺には見合わない。お前が隣を歩くことによって、俺の品位が下がる可能性があるのだぞ!」
そんな理由なのね。私の心の中で何かがプツンと切れた。元々政略結婚という事は分かっていた。その上で上手くやっていけていると思っていたのは私だけだったのだ。彼は私の気持ちなど一切考えずに流れるように話を進めていく。
「だから新しく俺に相応しい美しい女を用意した! こっちに来い!」
「仰せのままに」
彼女はこれでもかと谷間を強調するような、胸元の大きく開いたデザインのドレスを着ていた。そしてその豊かな胸を大きく揺らすように歩き、彼の隣に並んだ。
「彼女が俺の新しい婚約者になる予定のセシリアだ。挨拶しなさい」
「皆様、お初にお目にかかります。モールド・セシリアと申します。彼と二人で困難も乗り越え、真実の愛を追及していきますので応援の方をよろしくお願い致します」
彼女はそう言って、一礼した。
「よくできたな、セシリア」
「ルード様、ありがとうございます」
隙あらば彼らはすぐイチャイチャしている。
挨拶の途中、チラチラと横目で彼女の胸を見て鼻の下を伸ばしていた殿下は本当に気持ちが悪かった。沢山の方が楽しんでいるパーティーの途中で邪な理由で婚約破棄を宣言するような彼と愛を誓う彼女も大概ですがね。
「勝手に話を進めているところ悪いのですが、婚約破棄は自分の勝手な都合で、そんなに簡単に話を進めて良いものではないのですよ」
もう彼に対する思いは消えた。だから徹底的に潰すことに決めた。
「な......! 婚約破棄は宣言すれば即刻認められるものではないのか?」
本当に知らないのであろう、純粋な目で見つめてくる彼に私はうんざりした。彼はどこまで醜態を晒すのかと、私は心の中で少しこの状況を楽しんでいた。
「そんな訳がないでしょう、人によりますが爵位の問題など色々手間が掛かってきますから。まぁ今回の場合だと話は別ですがね」
「ど、どういうことだ?」
「本来は家族同士で正規の手続きを済ませるのですが、今言った通り今回の場合は別です。先程のあなたの発言で私のあなたに対する思いは消え失せました。なので私も婚約はしたくありません。その部分ではあいにく意見が一致していますね。なので婚約破棄は成立するでしょう。しかし、あなたは私の容姿を公衆の面前でおもむろに貶しましたよね? これは十分な名誉棄損に当たるんですよ。このままだと婚約破棄と名誉棄損でかなりの賠償金を私に払うことになるでしょうね」
私は微笑みながらそう言うと、彼からは思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「ば、賠償金なんてあるのか!? もしかして俺とセルシアの関係が羨ましいからって嘘を付いてるんじゃないか?」
「ルード様、私怖いですっ......!」
彼の発言には誰もが呆れてしまった。
「はぁ......賠償金は当然でしょう。婚約破棄の原因はあなたの身勝手な理由にあるんだから。しかもあなたと彼女の関係なんて、どうでもいいにも程があります」
「な、お前......! 王族の俺にそんな口を聞いてもいいと思っているのか!」
「賠償金の話を知りもしない人が、国の王様になんてなれるのかしら?」
私はそう言いながら、彼の隣に視線を向けた。
そこには今にも頭が地面につきそうなくらい深く頭を下げる現国王の彼の父親がいた。
「あいつの代わりに謝ろう。うちの息子が本当に申し訳なかった」
「いえいえ、お父様は悪くありませんよ」
「ルード、彼女の言う通りお前には王としての器がない。王位継承の話はナシだ。このパーティーが終わり次第すぐに荷物をまとめて出ていけ!」
「ち、父上......!? そんな・・・冗談ですよね?」
「男に二言はないぞ!」
「くそっ......! フランソワ、お前のせいだ! 絶対に許さない!」
「ええ、そうですか」
私は彼の言葉を聞く素振りも見せず、にこりと微笑んだ。
◇◆◇
パーティーが終わった後、私は裁判を開いた。無論負けるわけがないので、婚約破棄の分と名誉棄損の分しっかりと賠償金を取り立てた。ルードもセシリアも裁判で意味が分からない供述を繰り返していたのが非常に滑稽だった。
このお馬鹿な婚約破棄事件は噂として出回り、それをきっかけに私に興味を持ってくれた人が何人か求婚してくれた。私にとってはこの噂がメリットに働いた一方で、彼はそれが出回ったことにより、父親に爵位を剥奪され、地方の村でひっそりと暮らしているらしい。だが、そこでも噂は広まっており、日々頭を悩ませているそうだ。真実の愛とやらを共に語っていたセシリアはお金目当てで近付いてきただけだったので、裁判が終わった直後に姿をくらませたようだ。
「彼は本当に可哀相な人ね」
私は一人、ニヤニヤしながら呟いた。
求婚をしてくれた人の中に、私だけを愛してくれるであろう人はたくさんいる。
私の本当の人生はここからスタートするのだ。
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