ドラゴンがバイクの免許を取ってはいけないんでしょうか!?
ドラゴンである俺が、この世界にやってきた理由。
それは、この世界にしかない乗り物、「バイク」に心を奪われたからだ。
異世界旅行雑誌でこの世界を見た時から、俺はいつかこの世界に転生し、バイクの免許を取ると心に誓っていた。
バイクに乗るためだけに、10年かけてメタモルフォーゼを習得した。
頭以外のパーツを普通の人間のものに変化できるようになった。
やっとバイクに乗れる。
期待に胸を膨らませ教習所のドアを開けると、若い男性教官が立っていた。
「おはようございます。そのお面を外して、身分証明書を頂きたいんですが」
「あ、これお面じゃなくて本体なんですよ。ここだけは変化できなくて」
「君ふざけてんのか!早くお面をとりなさい」
「いや、ふざけてなくて。なんなら俺の身体見てみます?」
Tシャツを脱ぎ、上半身を見せる。
胸までは人間の身体で、首から上だけドラゴン。
そんな僕の身体を見て、職員たちはパニックに陥った。
「逃げろ!!化け物がいるぞ!!」
職員たちに逃げられてしまい、あてもなくとぼとぼ歩いていた。
すっかり日も暮れた頃、バイクに跨った、1人の中年男性に声をかけられた。
「さっきはうちの職員が済まなかったね」
「あ、あなたは」
「私は馬原教習所所長の馬原だ。君も、異世界から来たクチなんだろ?」
「え、もしかしてあなたも?」
「私も異世界出身でな。ケンタウロス族だ」
2本足が変化し、4本の屈強な馬の脚へと変化した。
彼もメタモルフォーゼしていたようだ。
「え、そんな脚があるなら、バイクなんていらないんじゃ」
「そういう君も立派な翼を持っているじゃないか」
俺が翼竜族であることを知っているらしい。
「それは、そうなんですけど」
「やっぱり、バイク好き?」
「はい。バイク、大好きです」
「後ろ乗ってみる?君のヘルメットはないけど。その頭なら大丈夫だろ」
馬原さんの背中に掴まり、夜の街をバイクで駆けていく。
夜風を全身で切り裂いていく感覚が気持ち良い。
こいつを自由自在に乗り回せたら、どれだけ幸せだろうか。
馬原さんはバイクを駐輪所に停め、缶コーヒーを手渡してくれた。
「ドラゴン君。うちで免許とらない?」
「え、いいんですか?」
「ああ。同じ異世界旅行者の仲だし、なんとかする。ほら、ヘルメット」
馬原さんが脱いだヘルメットを被ろうとする。
しかし、ドラゴンの頭がつっかえる。
「あ、ヘルメット被れないと免許とれないな」
まだまだバイクに乗るのは厳しそうだ。