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第47話

 朝日が昇る少し前。まだ、空に夜の名残の蒼さが残っている頃。

 俺たちは鬱蒼とした森の中の街道を走っていた。

 正確には、俺を抱えたへリウスが走っている。

 これ以上、厄介ごとを押し付けられる前に、町から離れることにしたのだ。正直、俺はかなりの寝不足だけど、そんなことは言ってられない。


「あっちの大陸だったら、俺のスレイプニルに乗せてやれたんだがな」


 自慢げにそう話すへリウス。

 スレイプニルというのは、足が八本ある馬の魔物らしい。どうやって走るんだよ? と不思議に思いつつ、あちらに渡ったら、絶対乗せてもらう約束をした。

 そう言いながらも、凄い速さで駆け抜ける。さすが狼の獣人なだけある。

 時間が時間なせいか、俺たち以外、街道を走る姿は見られない。


「次の町では、馬を借りるか」

「……ごめんな」


 俺を抱えて走るのは、やっぱり疲れるんだろう。


「気にするな。言っただろう? うちの子に比べれば、軽い、軽い」


 うん、軽いのはわかった。これ以上はプライドが傷つくから、言わないで欲しい。

 しかし、俺を抱えてるから、万が一の時に戦うのに不利なんじゃないかと思う。ありがたいことに、今のところ、魔物には遭遇していないけれど。

 ワイバーンの巣は街道から少し離れたところにあるらしい。今のところ、それらしき姿は見えない。もしかしたら『剛腕の獅子』の連中がなんとかしたかもしれないが、それを確認する術はない。


「そろそろ小さな村があるはずなんだが……」


 あのペースで息が上がらないへリウスは、やっぱ、すげぇって思う。

 へリウスの言葉通り、少し先に村らしき入口が見えてきたが……門らしきものは破壊されていた。

 ペースを落として周囲の様子を窺うへリウス。なんとかく周囲の空気が、どんよりとしている気がするのは気のせいだろうか。それに、なんだか……生臭い。


「……ハル、今、テントを出す。そこで隠れてろ」


 へリウスが緊張した声でそう言った。やっぱり、なんか変なんだ。

 俺が頷くと、地面に降ろされる。

 街道の端にある大きな木の根本あたりに手早くテントを張ると、俺の背中を押す。へリウスも一緒に中に入り、邪魔になりそうな荷物を下ろしていく。


「いいか、何があっても出てくるなよ。もし……もし、万が一、俺が戻って来なかったら、これを開け」


 そう言って、渡されたのは、小さな封筒。何やら家紋みたいな印で封をされている。


「これは、我が一族だけが持つ、緊急を知らせる魔道具だ。この大陸に、うちの一族の者か、それに関わる者がいれば助けに来てくれるはずだ」

「……わかった」


 いなかった場合、どうすんの、とは言わない。へリウスだったら、大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせ、テントの奥で体育座りする。へリウスはそんな俺を確認すると、テントから出て結界のボタンを押した。


「ほんじゃ、行ってきますか」


 気楽そうな声で言ってたけれど、テントから出ていくときの横顔は真剣で、俺でもけっこうヤバいんじゃないか、と恐くなった。



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