第39話
翌朝、白い靄が街の中にまでたちこめているような時間。俺はへリウスに肩車されながら、乗合馬車の窓口のある建物へと向かった。
かなり小さな建物のドアを開けると、中はガラガラ。俺たちは正面にある、受付らしきカウンターに向かう。窓口にいるのは、普通の人族のおっさん。こういうのの定番は、美人のお姉さんだったりするんじゃないか、と思ったが、なかなか現実は厳しいらしい。
「カイドンまで大人一枚、子供一枚」
「……悪いが、しばらくカイドンへの直通は出ないぞ」
無愛想にそう答えるおっさん。
「なんだって?」
「街道の何か所かで通行止めが起きてるらしくてな。直通で行く馬車は止まってる」
「通行止めだと?」
「ああ、噂では、Aランク級の魔物が出たとかで、その討伐が終わってないらしい」
おっと。そんな物騒な場所なのか。この森林地帯は。
俺は一瞬、不安になる。
「直通はなくても、途中までならあるのか?」
「なくはないが、その先が動いているかどうかまでは、ここではわからんよ」
へリウスも渋い顔になる。まいったなぁ、と思いながら周囲を見回すと、壁にいくつかの紙が張り出されている。文字が書かれているんだが、俺にはそれは読めない。
「へリウス、へリウス」
「ん、なんだ?」
俺はへリウスの頭をペシペシ叩いて注意を促すと、壁の方へと目を向けさせる。
「あれは何?」
「ああ、掲示板か。乗合馬車の向かう町までの情報なんかが貼られてる。どれ、仕方ねぇ。魔物の情報でも見てみるか」
俺とへリウスの視線が、掲示板のあちこちに向かう。手書きで書かれているのは癖のある文字なのか、そもそも、そういうものなのか。元々俺は読めないからわからんが。
辛うじて魔物の絵らしいのはわかる。大きな熊みたいなのやら、狼っぽいのが描かれている。こいつらが出没しているっていうのだろう。そんな中、珍しく、人の顔の似顔絵のような物も貼りだされている。
「あれも、魔物?」
「うん? いや、ありゃぁ、手配書だな」
いわゆる犯罪者の顔を貼りだしてるのか。
「エルフで犯罪者の張り紙が出るとは、随分と珍しいな」
「そうなの?」
「ああ、エルフという種族自体が、秘密主義的なところがあるしな。身内の犯罪は身内で片をつけるのが一般的らしい」
――そんなんじゃ、片が付いたかどうかなんて、わかんないじゃん。
そう思いながら目を向ける。その絵は、さすがに日本で見たような緻密な絵なんかではなく、色すらついていない、ただの線画だ。ストレートの長そうな髪に、少し吊り上がった大きな目、耳の特徴でエルフらしいっていうのがわかるだけだ。
この絵だけじゃ、性別すらわかんないぞ。これで、ちゃんと指名手配できるんだろうか?
「その上、こりゃぁ、エルフの王族からの指名手配だ。何やったんだ、こいつは」
へリウスがちょっと驚いた顔をしている。




