第36話
ボブさんたちの住む街を離れ、俺とへリウスは乗合馬車に揺られること、二週間。 あまり天候も崩れずに済んだのは助かった。
へリウスが護衛も兼ねてくれたことで、少し乗車賃を安くしてもらえたそうだ。
今回の乗客には、俺と同い年くらいの子供はいなくて、同乗者たちにはやたらと可愛がられた。何かと物をくれたりと、ありがたいはありがたいのだが、その度に媚びを売らねばならない俺としては、中身十八才の俺の何かがゴリゴリ削られているような気がした。
俺たちが最終的に向かう目的地は、この国のもっと北の外れにあるという港町だ。その港町から、隣の大陸へと移動するらしい。
というのも、へリウスとしては、五歳児の俺を途中で放り出す気はないようで、海を挟んだ反対側の大陸にある自分の家に一緒に連れていく気らしいのだ。たぶん、ボブさんたちから、俺のこと捨て子の孤児だとでも説明されているのだろう。そもそも、あの村周辺にエルフの姿など見たことはなかったし、そう解釈されても仕方がないかもしれない。
へリウスは、あちらに最愛の奥さんと子供を残して来ているので、早いところ帰りたいらしいんだが、距離が距離なのと、俺みたいな子供が一緒というのもあって、乗合馬車にしてくれているそうな。
子供の扱いが上手いな、と思ったのは、実際に子供がいたせいなのか、と、ちょっとだけ納得(俺自身は、そんなに子供のつもりはないんだが!)。
まぁ、俺にしたって、知りもしないエルフたちの中にいきなり放り込まれるよりかは、早いところ自立できるように、へリウスみたいな冒険者と行動を一緒にしたほうがいいのかも、とは思う。
俺たちの乗っている乗合馬車は、そのシャイアール王国との国境の町まで向かうものだった。俺は、てっきり、あの町もシャイアールっていう国の一部だと思っていたら、実は隣の国のヤートルっていう国だった。
いつの間に国境を越えてたんだよ、って話。どうも、森から抜け出たところで、国が違っていたらしい。空港とかでの入国審査みたいなのを想像してたけれど、そんなことはなかったし、ギルドカードを見せるだけで越えられるって、改めて凄いというか、それでいいのか? と思う。
ちなみに、シャイアールという国は、『シャイアール大森林』と国の名前がつくくらいに、木々に覆われているそうだ。
多くは隠れ里的な町が多く、ホビットの村もその中の一つ、と言えるのかもしれない。さすがに王都と言われる場所は、隠れているわけにもいかないだろうけど。一応、行商人たちや冒険者などが訪れるための小さな町や村はあるらしく、そこには、エルフ以外の人族や獣人の姿の方が多く見られるそうだ。
まぁ、そういう場所でもなければ、移動がかなり大変なことになるのは、俺だって想像がつく。




