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ハルの異世界出戻り冒険譚 ~ちびっ子エルフ、獣人仲間と逃亡中~  作者: 実川えむ
第4章

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第26話

 それから二日後、俺は村を出ることになった。

 一人ではない。なんとボブとメアリーさんも、途中まで一緒に行ってくれるというのだ。


「ちーとばかり昔の知り合いに連絡とれたんでな。久しぶりに、会いに行くついでじゃぁ」


 そんな呑気に言ってるけれど、ボブさんたちはしっかり長期に旅に出る、というか、ここに二度と戻って来ない気なのは、見てればわかる。

 だって……家の中の家具とか、食材とかまで、近所に配ってるんだもの。


「いいの?」

「ん~?」


 俺は心配になってボブさんに聞いた。


「大丈夫だぁ。ハルさ、送り届けたらぁ、息子んとこさ、行くからよぉ」

「そうなの!?」


 聞いてないよぉ、と恨めし気に見ると、いつものような朗らかな笑い声をあげるボブさん。


「前から言われてたんだぁ。一緒に暮らすべ、とな」


 まだまだ夫婦水入らずでもいいと思ってたんだけれど、三人目の孫が生まれるらしい。お嫁さんの実家は、長男夫婦のところの子供の世話で手伝いを断られたとか。そうなると、頼れるのがボブさんたちしかいない、となったそうだ。嫁姑問題、勃発しなきゃいいけどな、と、内心思った俺。メアリーさんだったら、大丈夫かな?


「んだば、行ぐかぁ」


 大きなリュックを背負ったボブさんと、メアリーさん。俺は彼らの後をついていく。

 二人の格好は、ちょっとそこまで薬草を取りに行ってくる、ってな感じに身軽なんだけど、俺の方は、メアリーさんお手製の皮のフード付きのマントに、しっかりした皮でできた靴を履いている。靴といっても袋状になっているのを、足首を革ひもで結んでいるタイプだ。メアリーさん悲願の薄布の服は、残念ながら諦めてもらって、息子さんのお古のシャツに革製のベストを着ている。長旅にそれは向いてないだろ、と俺とボブさんの説得した結果だ。それに小さな弓と矢筒を背中に背負っている。遠目から見たら、ホビットだと思われるはずだ。

 ちなみに、フード付きマントは俺のお気に入りだ。内側にはウサギの毛皮が貼ってあって、なかなか暖かい。メアリーさんからは、尖った耳が見えないように深くかぶるように言われてる。


「気ぃつけてなぁ」

「また、戻って来い~」

「ほれ、これ、餞別だぁ」


 村の出口につくまでに、村人たちから声をかけられ、色んな荷物を持たされる。そのたびに、ありがとう、ありがとう、と返しては、ウェストポーチの中に、どんどんと詰め込んでいく。

 そう、ウェストポーチなのだ。まさに、夢のマジックバッグだ。これ、ボブさんの冒険者時代に使ってたヤツ。どれくらい入るのか、ボブさんもわからないらしい。念のためにと、メアリーさんの一回り小さいのも貰った。これはそのままウェストポーチの中に仕舞ってある。二人とも、もう長旅にも冒険にも行かないから、というので貰ってしまったのだ。

 だったら、二人の荷物も俺が預かるよ、と言ったのだけれど、万が一、急に別行動をとることになったら困るから、と断られてしまった。きっと、その可能性もある、ということなんだろう。それを聞いて、身が引き締まった。


            *     *     *


 薄暗い魔の森の中、先頭を進むのは、ボブさん。大きな鉈を振り回しながら、道のないところを草を掻き分けながら進む。普通に行商人たちが使う道もあるにはあるけど、万が一、面倒な連中と鉢合わせしないようにと、獣道を選んで進んでいる。

 真ん中を俺が歩き、殿がメアリーさん。まだまだ五歳児体型の俺が、戦力にならないってのを痛感させられる。


「知り合いの人って、どんな人?」


 足元を気を付けつつ、ボブさんに問いかける。

 ボブさんが頼るくらいには、きっと信頼できる人なんだろうけど、あのモブたちのことを思うと、少しだけ不安だ。ヘンリーはいい奴だったけど。


「ん~? んだなぁ、獣人はわかるかぁ?」

「じゅうじん?」

「んだぁ。獣の耳と尻尾をつけてるヤツだぁ」

「お、おお!? ケモミミかっ!」


 ボブさんの言葉に、テンションがあがる。

 ケモミミとか、モフモフとか、いいじゃないか!


「けもみみ?」


 後ろにいるメアリーさんが不思議そうに聞いてくる。


「うんっ! 獣の耳でケモミミ。フフフ、どんなお耳なのかなぁ」


 でれっとだらしない顔になる俺。だって、男の夢でもあるじゃん?


「あ~、お前、まさかと思うが、ガキのくせに、ませたこと考えてねぇがぁ?」


 後ろを振り向いて呆れた顔をするボブさんに、俺はてへへと笑って返す。


「え? あ、うーん、ケモミミって言ったら、可愛いウサギ女子とか、猫耳女子とか? 触らせてくれるかなぁ?」

「はぁ……」


 ボブさんが呆れたような溜息をついて、後ろのメアリーさんは爆笑している。魔物除けをつけているにしても、そこまで大笑いして大丈夫なのかと思ったら、まだギリギリ、村の結界の端っこにいるらしい。それにしたって、そこまで笑う?


「そんただ期待してるとこ悪いがなぁ、ぜんっぜん違うからなぁ?」

「あははははっ! 狼の獣人だぁ。ちゃんと男だぞ。それにぃ、勝手に耳とか尻尾さ、触ったら怒られるぞ?」

「んだぁ。まぁ、すげぇ強ぇヤツだぁ。確か、ヤツもAランクの冒険者じゃなかったかぁ? せっかくだぁ、ビシバシ、鍛えて貰えばええ」

「あはははははっ」


 爆笑が止まらないメアリーさん。すんごい馬鹿にされてる!

 だいたい、ケモミミって言ったら、可愛い系女子じゃないのか!?


「えぇぇぇ!」


 俺の悲しい悲鳴は、森の中に吸い込まれていった。



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